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1章

僕と空くんと光くん【後編】

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 教室へと戻った僕の顔を見ると、空くんと光くんは顔を合わせた後に心配そうな面持ち浮かべていた。

 最初に口を開いたのは空くんだった……

「……楓、もしかした泣いた?」

 なんで、この2人には分かってしまうんだろう……

 そう思うと鼻の奥がツンと痛んだ。

「泣いてない……」

 2人は、そっか……とだけ言うとそれだけで以上はなにも聞かないでくれた。

「ねぇ……楓くん……今日は遥先生はいる?」

  家へと向かう道、若干ソワソワしていた光くんに唐突に質問されて不思議に思ったけれど居ることを伝えると、あきらかに表情が変わったのが分かった……

 えっ……どういう事……

 一抹の不安を覚えながら家へと向かった。

 ****

 玄関を開けると、空くんが久々に来たと笑っていた。

 僕は、これから2人に話をする事を考えるとお腹が重く感じているのを悟られないように……なるべくいつも通りを装っていた。

「楓おかえり、手洗いうがい終わったら部屋に行ってなよ、何か持っていくから。」

  遥の言葉に僕よりも先に光くんが反応を見せた。

「遥せんせい、お気遣いありがとうございます。」

  光くんの反応に僕と空くんと目が合うと空くんが、ひかりんあんな笑顔もできるんだと口から言葉が漏れていた。

 僕も空くんの言葉に納得してしまった。

「光くん、楓と仲良くしてくれてありがとね……」

 そう光くんに声をかけると光くんの耳が赤くなったのを僕は見逃さなかった……

 えぇぇ~もしかして光くん……

 そんな事を考えてるとは思ってるとは気付いてない、遥は今度は空くんに話しかけていた。

 空くんも、うっすら頬を染めていて……この状況はなんなんだろうと胸がざわついた……。

 なんとなく、いたたまれなくて急いで僕の部屋へと2人を案内した。

「相変わらず楓の部屋は広いよな」

 そう言いながら腰を下ろした空くんの隣に光くんも座った。

 僕はテーブルを挟んで空くんと光くんの前に座ると、一気に緊張してきた。
 
 受け入れて貰えなかったら……

 空くん達の態度が変わってしまったら僕は平常心を保てるのだろうか……

 目の前で話をしている2人の会話すら僕の耳には入ってこない程に緊張しているのを感じた。

 どうやって切り出せば良いのか考えていると、遥が飲み物とお菓子を持って来てくれて、特に何かを言うでは無かったけれど、部屋を出る時に僕の肩に手を置きながら頑張ってとだけ言うと部屋を出ていった。

 ただ、それだけの事だったのに気持ちが軽くなったのは何故だろう?

 親って、少しの声かけそれだけで安心感を与えるる事ができるの?そう思うと、少しだけ話し出す勇気が出てきた。

 空くんと光くんの前にコップを置いて姿勢を正して短く息を吐くと2人の顔をしっかりと見据えた。

「空くん、光くん……僕の話を聞いてください……。」 

 いざそうと思うと、自分の気持ちとは反対に口が動いてくれなかった。

 そんな状態なのに2人は急かすこと無く、僕が話しだすのを待っていてくれているようだった。

 ふぅーーー

 大きく息を吐いて、改めて2人に向きあう。

「……もしかしたら……長いこと空くんを騙していたと思われるかしれない、空くんと光くんに偽ったのは確かなんだけど……2人のことを信用してないとかじゃないんだけど……」

 僕の話を真っ直ぐに見ながら2人は聞いてくれている……やっぱり。この先を言葉にするのが怖い……けれど、理由は分からないけど……受け入れてくれる気がした。

「空くん、光くん、僕ね……本当はαなんだ……」

 なんとか言いきった……

「えっ……」

 小さな声だったけど、空くんの声が耳に入ってきたと同時に座っているのにも関わらず、足元が崩れるような感覚に陥ったのが分かった……。

「僕は、そうかなって思ってたよ。」

 光くんの声に顔をあげると、ふだんと変わらない表情で飲み物に口をつけていた。

 空くんは……やっぱり目を合わせてはくれなかった……これが現実なのかな……

「楓くん、そんな落ち込む必要は無いと思うよ……普通に考えてΩの遥せんせいとαの楓くんのパパなら、高確率で生まれるのはαだよね?話さないって事は話せないって事とイコールじゃないと思うから、何か言いたくない理由があったんだよね?」

  出会ってそんなに経ってないのに、ここまで分かっていた光くんに驚いていると光くんは話を続けた。

「長いこと一緒にいて気付かないって……どんだけ鈍感なの?って話だから空くんの事は気にしなくていいよ……親友って言葉に甘えて本質を見誤ってた空くんの怠慢だから。」

  ニコニコしながら話す光くんに、空くんはマジかよ……と言葉を漏らすと、僕の方を見てゴメンと言った。

 緊張しているからか、空くんが何で謝っているのかが理解できず、ただ僕の指先が冷たくなっていることしか分からなかった。

「ひかりんは……いつから気付いてた?」

 空くんが問いかけると、確証は無いけど初めて会った時からだけど、今やっぱりそうなんだって思ったよと答えた。

「空くん……ごめんね……。」

「……なんで楓が謝るんだよ」

  空くんはアァーと言いながら頭を掻いた後に僕の事を真っ直ぐに見ながら、気付けなくてゴメンと頭を下げた。

 顔を上げた空くんと目が合うと今までと変わらない笑顔を見せてくれた。

「空くん……αが怖いんだよね?僕の事も怖い?」

 空くんの笑顔を見たら僕の中で1番の心配事が口から出てしまった。

「ハッ?……えっ!?……なんで、その事を知ってる……の?」

 えぇーー!空くんあれで隠していたつもりだったの?そう思ったら口元が歪むのを止めることができなかった。

 光くんも、あれで隠してたとか……ウケるヤバイ……とボソリと言うから更に笑いが止まらなくなった。

  空くんは、わなわなと震えながら涙目になりつつ立ち上がると口を開いた。

「楓は綺麗で可愛くて庇護欲を掻き立てられる美人なのに、実は腹黒なのは分かってたけど、ひかりんは大人しくて優しいと思ってたのに……まさか、ひかりんまで腹黒かよ!」

 そう言いながら半泣きの空くんを見て、悪口を言ってるつもりなんだけど、そんな風にまったく感じなかった。

 僕って腹黒なの?と首を傾げると、空くんは僕を睨むと楓はあざとくて腹黒なんだよ……と言いながら腰を下ろすと、そのまま後ろへと体を投げ出した。

 腕で目を覆いながらブツブツ言ってる空くんに、僕が怖いか尋ねると、何でだよ!と返されたの聞いて、根拠はないけれど、今まで以上に仲良くなれそうな気がした。

 さっきまでの重い空気だった部屋に風が通った気がした。

 空くんが、何で俺の回りは腹黒だらけなんだよ……そう呟いたのは聞こえないふりをした……
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