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1章

翠くんと交際(仮)

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 翠くんの発した言葉の意味を理解した時に、僕の意思とは関係なく涙が勝手に零れてた……

 心のどこかでは、どっちも無理って言われたらと考えない訳ではなかった……

 色んな感情が混じり合って、なぜだか声を出すことが出来なかった。

「楓?」

 翠くんは僕の名前を呼ぶと、僕の背中に手を回しポンポンと叩いた。

 背中に感じる翠くんの手は、子供の頃に僕の手を引いてくれた時と変わらなくて、大きくて温かかった。

 本当に翠くんは格好いいな……

 僕がどんなにかっこつけても、絶対に敵わない……

 それでも……翠くんの隣に立つなら僕も覚悟を決めなければならない。

 都合が良いことに、お手本になるαが僕の周りには居るから相談にのって貰える。

  翠くん、ありがとう……

 そう伝えると僕は翠くんの肩に顔を埋めた。

「ねぇ……翠くん……」

 耳元で囁くと僕の声に反応をするように翠くんの体がピクッと動いたのを感じると、あらためて翠くんは僕の事が好きなのが伝わってきた。

「翠くん……お試しだけど、付き合ったって証拠がほしいな」

 翠くんは何かを考えているようで少しの間をおいてから、俺が渡せるものなら……いいよと答えてくれた。

 言質は取った、僕は翠くんと顔を合わせると翠くんの手を握ると、翠くんの顔に近付いた……

 お互いの鼻がふれそうに、なった時に目が合い思わず笑みがもれた……

「――翠くん……目を閉じて……」

  驚くほどに低く甘い声が僕から出てたのには驚いたけど、それ以上に素直に僕の言葉通り翠くんが、ゆっくりと目を閉じた事が驚きつつも、僕は翠くんの閉じられた目蓋に唇を重ねた。

 僕の記憶はこの後からは途切れていた。
 
 胸に残る微かな甘い痛みと、翠くんを抱きしめた時の体の柔らかさだけが生々しく残っていただけだった……
 
 ****

  今、自分の部屋のベッドに転がっている僕は、どうやって自分の部屋へと戻ってきたんだろう?

 けれど胸の中が凄く充たされているのに、苦しさも覚えた。

 はぁ~間違いなくあと時、翠くんが僕の腕の中にいた……
 抱きしめてる感覚は今も残っている。

 たとえ(仮)だとしても、やっと……やっと翠くんの隣に立てることができた。

 ふわふわした感覚が心地よくて、今日は眠れそうになかったのもあって、僕は頭を整理する時間も必要なんだろうなと思った。

 αであることは隠さない……

 その事で一つだけ気になって居るのは空くんの事だった。

  あきらかに分かる程にαを怖がる空くん……

 先生の前に付き合ってた人がΩだった、幸せそうな空くんが一方的に別れを告げられた時、驚くほどに荒れて、見ていられないほどに苦しんでいたのを見てきた。

 空くんに伝えたら怖がらせてしまうかな……

 隠していた事で軽蔑されるかな……

 考え出すと、さっきまでのふわふわしていた頭の中が一気に冷静になってくる。

 空くんにαでも受け入れてほしい……

 そうだ、光くんにも報告した方がいいよな……でも光くんは若干、気付いてそうなのが分かるから、空くんと同じく敢えて聞かないでいてくれてるのだろう……。

 明日、聞いて欲しい話があるんだけど

 気付いた時には2人にReinでメッセージを送信していた。

 僕が、2人への説明をシミュレーションしていると部屋のドアがたたかれ、遥が顔を出した。

「楓、やっぱり髪を乾かしてなかったんだ……」

  手に持ったドライヤーを僕に見せながら入ってもいい?と笑顔を向けていた。

 僕が頷くの確認してから部屋に入るとドライヤーの準備をすると腰を下ろし、僕においでと声をかけた。

  遥の前に腰を下ろすと、少し前まで赤ちゃんだったのに今は僕よりも大きくなったね……

  昔を懐かしむような柔らかな声に目を閉じると、遥に髪を乾かして貰うのは小学校低学年の頃ぶりだと思うと、少し恥ずかしくなった。
「ねぇ、遥はどうやって父さんと付き合う事になったの?」

  遥は僕の髪を乾かす手を止めずに恥ずかしいと言いながらも僕に教えてくれた。

  初め遥は父さんと接点をもたないように気を付けていたと言う事。 

 それなのに、父さんが諦めずに追いかけていたらしい……時には見つからない様に陰から見ていた時もあったみたいだけど遥は気付いていたと、聞いて僕の観察も翠くんが気付いていたらと思うと恥ずかしくて顔が熱くなった。

「結局、僕がヒートを起こしてしまった時に助けてくれたのがなぎさんで、そこから一気に距離が縮まったんだよ」

 みなまで聞くつもりは無いけど時期的に考えて……その時から少しして僕が出来たのが分かったんだろうな……

 僕が生まれる前に結婚したと、じぃちゃんが言ってたから、なんとなくで理解はしている。

 「反対はされなかった?」

 遥が頷いたのがわかった、そしてドライヤーの音が鳴りやんだ時に遥は僕の耳に触れると、ため息混じりに自分の事を傷つけないでと呟いた。

 僕は遥の方へと体を向けて笑顔を見せた。

「誰かの為にかっこよくなりたくて、その為の痛みなら全然痛くないよ……むしろ嬉しくて痛みは感じなかったよ」

 そう言うと、遥は少しだけ困ったような顔をしていたけれど、目を細めると見た目は僕に似ているのに性格は渚さんにそっくりだと笑った。

「――嫌なんだけど……」

 咄嗟にでた言葉に遥は声を出して笑っていた。

  両親を見てるとバース関係なく仲良くなれるって分かるから……

 明日、空くんと光くんにちゃんと話そう……

 その前に、遥にも聞いて欲しい事がある。

「遥……僕ね、翠くんと付き合うことになったよ。」

 そう話した時、遥は凄く嬉しそうな顔をしていた。

「まだ……(仮)なんだけど……」

  遥は、ふふふと笑うと翠くんは楓のヒーローだけど一筋縄ではいかないんだねと言いながら僕の頭のを撫でてくれた、遥から見たら僕はまだ子供なのかな……

 確かに大人ではない……けれど子供でもないとは思うんだけどな……

「楓、教えてくれて嬉しいよ。」

 僕の目をしっかりと見て遥は口にした。

 僕は少しだけ、はにかみなかがらも……

 どういたしましてと答えた。
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