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やっぱり翠くんはヒーローだ

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 今日の授業の終了を告げるチャイムと同時に僕は教室を飛び出した。

 さすがに1人で3年の教室まで行く勇気は無かったから靴箱で待つことにした。

「ねぇ、あの子でしょ翠さまと、かなめさまに色目使ってる1年のΩって……」

「それにしても、あの溢れ出てる色気ってΩ特有なのかな……そりゃ会長も、かなめ君もあらがえないだろうな……」

「顔だけのΩのくせに生意気……」

 いつも空くんや光くん、そして最近は先輩が一緒だったから陰口を目の当たりにしたのは久々だった。

 悲しいと言うよりは、悔しさのほうがまさっていた。

 この人達は僕がαだと分かったら、こんな事は絶対に言わないのだろうな……そう思うと腑に落ちなかった。

「ねぇ!そこに立たれると邪魔なんだけど!」

 初対面なのにわざとらしく、僕にぶつかり強い口調で言葉を発した子を含めて3人の女の子が僕の前で睨んでいる。

 僕は笑顔を作りながら、ごめんねと言うと邪魔にならなそうな場所へと移動した。

 この位置でも翠くん……見つけられるかな?

「マジΩなのに翠さまと、かなめさまに付きまとってるのウザすぎるだけど!」

 3人が3人とも僕の悪口を言ってるのは分かるけれど、子犬がキャンキャン鳴いてる様にしか聞こえずに、頭に響く高音をいつまで聞かされなければ、いけないんだと思うと本音が漏れた……。

「はぁ~マジでダルい……」

 僕の声が聞こえた1人が感情的に僕に手を上げようとしたその時……後からその手を止める人が居た。

「何をやってるの?」

 僕の目に飛び込んで来た姿を見て、やっぱり僕のヒーローなんだと思った。

 翠くんに見つかった3人は自分達は悪くない、ルールを守れない1年を指導してるだけだと全て僕が悪いと翠くんに説明していた。

 僕はただ翠くんを待っていただけなのにな……

 もし、翠くんが僕のことを信じてくれなかったらと思うと口を開く事ができなかった。

 僕の目がもう1度、翠くんの事を目で捕らえた時……僕の意思とは関係なしに目からしずくが零れ落ちた。

 なんなんだ……これ……と思いながら拭ぬぐっていると、翠くんが今まで見たことのない表情をしていた。

 僕……嫌われちゃったのかな……

「楓!」

 そう名前を呼び、僕の手首を掴むと帰ろうと笑顔を向けてくれた。

 翠くんが僕を1年の靴箱へと連れて行き靴を履き替えるまで見守ると、ここで待っててと言い残すと自分も靴を履き替えに行った。

 僕の方が大きくなったと思ったのに、翠くんの手は昔と変わらずに大きくて掴まれた場所が何故か熱をおびていた。

 胸の奥がキリリと痛んだ……。

「楓……もう帰ろう。」

 昔と同じ声色に抱いている感情がバレない様にしながら、頷いた。

 翠くんは僕の手を取ると、そのまま僕をひっぱる形で前を歩いていた、どれくらい無言のまま歩いていただろうか、翠くんが懐かしいねと小さく呟いた。

 懐かしい……
 確か僕が小学校低学年の頃に、今日みたいに僕をΩだと思っている人に心無い言葉を投げかけられると、いつも翠くんが助けに来てくれた。

 そして帰る時には、今のように手を繋いで一緒に帰ってくれていた。

 翠くんが覚えて居てくれた事で、また目から何かが零れ落ちそうになった。

「楓、入学式の時に気付けなくてゴメンな、言い訳になりそうだけど可愛いイメージの楓が大人っぽくなっていて気付く事ができなかった……」

 翠くんの言葉に今まで悩んでいたのが嘘のように晴れた気がした。

「僕の事を嫌いになったわけじゃない?」

 僕の言葉を聞いて、翠くんの足が止まり僕に向き合うと、真剣な顔でそんな事はないよと答えた。

その顔からは嘘を付いている様には見えなかった。

 一瞬だけ翠くんが悲しそうな表情に見えたけれどすぐに笑顔を僕に向けてくれた。

「なぁ楓……俺さ今日から月曜まで寮の工事で実家に戻るんだけど、久々に楓も家に遊びに来ないか?」

 翠くんにそう、誘われてほぼ毎日行ってるとは言いづらく、久々におばちゃんに会いたいから行くと嘘をついてしまった。

 翠くんの家へと向かっている時に、翠くんから楓は昔は可愛いくて女の子みたいだとは思っていたけれど、今は綺麗な男の子になったねと言われ、他の人に綺麗と言われても何の感情も浮かばないのに、翠くんの言われると不思議と心が満た事に気付いた。
 
 ✽✽✽✽

 家に着くと、翠くんがただいまと言いながら玄関を開けると奥から緑がやってきて、僕に気付くとニヤニヤと締まりのない顔をしていた。

 そして、あろう事か翠くんの頭をポンポンとしながら、おかえり翠と声をかけているのを、笑顔を崩さずに見ているのは拷問に近かった。

 チッ……緑は兄の権力を使って翠くんの頭をポンポンするなんて羨ましすぎて凄くイライラする……

 そんな僕の心の内なんて、まったく知らない翠くんは俺の部屋へと行こうと声をかけてくれた。

 僕は翠くんの言葉に被せる勢いで行くと答えた。

 翠くんの後から付いていき、翠くんが部屋のドアを開けた時に前に来た時と同じような甘い香りが僕の鼻を刺激した。
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