9 / 24
翠くんの憂鬱【後編】
しおりを挟む
「やっぱり、会ってなかったか……」
緑兄は、少し含んだ表情を浮かべながら……いきなり吹き出した。
「えっ……なんの笑い?」
緑兄は、しばらくツボにハマったらしく肩を揺らしながら声は出さずに笑っていた。
「翠、最近の楓は色んな意味で凄いぞwwwwしかも聞いてないかもしれないけど翠と同じ学校に行くと言ってたぞ。」
緑兄の言葉を聞いて俺の頭の中が徐々に色味を失っていった。
俺は最近は楓を見かける事がない……
それなのに……
緑兄には会ってるんだ……
悲しみとは違う感情で胸がチクリと痛んだ。
なんだろう……
緑兄の顔をみるだけで……
泣きそうになる……
抱きしめていた犬のぬいぐるみに顔を埋めた時、緑兄は俺の頭をポンポンと叩くと。
大丈夫だよ……
そう言っていたけど、何が大丈夫なのかは分からなかった。
「緑!翠!ごはんできたから降りてきて~」
お母さんの声に、俺の手を引きダイニングへと移動した。
こんな風に、さらっとエスコートが出来る様になりたいと思うのだった。
ダイニングに着くと、そこには既に入浴を済ませた、お父さんが席についていた。
「翠、久々に会った父さんに言う事はないのか?」
お父さんの唐突な質問に、ただいまと答えると緑兄とお母さんが声を殺して笑っていた。
お父さんは何故か、ふてくされているし……
何が間違えてしまったかな?と思っていると。
お母さんが笑いを堪えつつ、お父さん翠に会いたかったと言って貰いたいのよと言いながら、耐えられずに楽しそうに笑っていた。
それを聞いたお父さんは、親なら当たり前だろうと耳を赤くしながらテレビに顔を向けてしまった。
「お父さんに会いたかったよ」
そう言うと、お父さんの顔がふにゃりと崩れた。
「やっぱり翠は可愛いな。」
お父さんの、言葉に緑兄とお母さんも、可愛いと言い出していたたまれない気分になった……そんな雰囲気に気付いたお母さんが冷めないうちに食べようと場を鎮めてくれた。
テーブルに有る、うさぎ型に切られた林檎に胸が踊った……可愛い。
いつもは機能重視のお母さんが俺が食べたいと言ったのを聞いて作ってくれるようになった思い出のうさぎの林檎だった。
テーブルを囲みながら話をすると、いつも笑いが止まらなくなる。
俺の家族は、翠は翠のままで良いと言ってくれて、思い切り甘やかしてくる。
頭が良く優しくて何でも出来る自慢の家族だ。
ここに居る全員がα……
そこに俺は含まれていない……
バース診断が下ったあと親族の集まりの時に、お父さんとお母さんが遠い親戚の人達に何かを言われているのが見えて気になり近づくと声が聞こえた。
「αが産めないなんてね……せめてΩなら……αを産める可能性があったのにβだなんて可もなく不可もなく中途半端じゃない……あの子も可愛そうだわ」
そんな事を言われて、悔しさで手が震えたのを覚えている。
その時お父さんが、翠は優秀で努力家の俺の自慢の息子ですよと続けた時に俺は涙を止めることが出来なかった。
俺を見つけた緑兄が、あまり人目につかない場所へと連れて行ってくれてニコニコとした笑顔を向けながら口を開いた。
「翠は、俺の可愛い弟なんだから変な人の言う事は、気にしなくて良いんだよ、もしバース性で、悩むことがあるなら明言を避ければ良いよ。翠は真面目な努力家なんだから、おのずと評価は付いてくるよ。だから……お兄ちゃんに笑顔を見せて。」
そう言い終わると、俺をぎゅうぎゅうと抱きしめた。
そんな事が有ってから家族の甘やかしがレベルアップしたようだった。
「そういえば、楓くんは元気かい?」
そう聞かれ、最近は会ってないよと伝えるとお父さんとお母さんは凄く驚いた顔をしていた。
緑兄だけが声をださずに笑っていた。
「嘘だろ……あんなに似ているのに……」
そこまで言った時に、緑兄が、父さん!と言葉を止めた。
お父さんは、ゴメンと言いながら両手で口を隠すポーズをとったので、それを見て又みんなで笑った。
楓が遥かさんに似ているのは知っているし……
Ωって話は初めて出会った時に心無い大人が話していたから知ってる。
βとΩって……だめなのな……
✽✽✽✽
あの頃は会長を出来るか悩んでいたけど、みんなの協力もあって今のところは、なんとかなっていた。
今日の入学式で挨拶をするのは緊張するけど、楓かえでに会えるかもしれないと思うと胸が熱くなった。
かなめに、そろそろ時間だから行こうと言われ集合場へと歩いていると、かなめが嬉しそうに口を開いた。
「今年の1年に、すげぇ美人なビッチΩが居るんだって早く見てみたいな……そしてガチで落としたい……」
はぁ~、ここを学校だと認識してるか心配になる発言に頭が痛くなったから、かなめの事はスルーした。
壇上に上がった時に、少しザワザワしている中心に遠目でも、綺麗な子が居るのが分かり目で追いかけてしまった時に……目が合った。
ヤバイ……目が離せなくなる……
怖くなり視線を外すと、その後もなるべくその人に視線を向けないようにした。
なんとか全ての行事が終わり、帰ろうと思ったのに……
鞄を置いたままで、かなめの姿が消えていた……
さすがに校内を探すのは面倒なので先に帰ることにした。
かなめはαなのかな……
生徒会は全員αとの噂があるけど俺はβだ……
その時、小さな溜息を止めることは出来なかった……
「すぅーいぃーくぅーん」
後から名前を呼ばれた気がして、振り向くとアラスカンマラミュートの子犬みたいにニコニコしながら両手を振りながら走ってくる人がみえた。
なんで……俺の名前を知ってるの……?
緑兄は、少し含んだ表情を浮かべながら……いきなり吹き出した。
「えっ……なんの笑い?」
緑兄は、しばらくツボにハマったらしく肩を揺らしながら声は出さずに笑っていた。
「翠、最近の楓は色んな意味で凄いぞwwwwしかも聞いてないかもしれないけど翠と同じ学校に行くと言ってたぞ。」
緑兄の言葉を聞いて俺の頭の中が徐々に色味を失っていった。
俺は最近は楓を見かける事がない……
それなのに……
緑兄には会ってるんだ……
悲しみとは違う感情で胸がチクリと痛んだ。
なんだろう……
緑兄の顔をみるだけで……
泣きそうになる……
抱きしめていた犬のぬいぐるみに顔を埋めた時、緑兄は俺の頭をポンポンと叩くと。
大丈夫だよ……
そう言っていたけど、何が大丈夫なのかは分からなかった。
「緑!翠!ごはんできたから降りてきて~」
お母さんの声に、俺の手を引きダイニングへと移動した。
こんな風に、さらっとエスコートが出来る様になりたいと思うのだった。
ダイニングに着くと、そこには既に入浴を済ませた、お父さんが席についていた。
「翠、久々に会った父さんに言う事はないのか?」
お父さんの唐突な質問に、ただいまと答えると緑兄とお母さんが声を殺して笑っていた。
お父さんは何故か、ふてくされているし……
何が間違えてしまったかな?と思っていると。
お母さんが笑いを堪えつつ、お父さん翠に会いたかったと言って貰いたいのよと言いながら、耐えられずに楽しそうに笑っていた。
それを聞いたお父さんは、親なら当たり前だろうと耳を赤くしながらテレビに顔を向けてしまった。
「お父さんに会いたかったよ」
そう言うと、お父さんの顔がふにゃりと崩れた。
「やっぱり翠は可愛いな。」
お父さんの、言葉に緑兄とお母さんも、可愛いと言い出していたたまれない気分になった……そんな雰囲気に気付いたお母さんが冷めないうちに食べようと場を鎮めてくれた。
テーブルに有る、うさぎ型に切られた林檎に胸が踊った……可愛い。
いつもは機能重視のお母さんが俺が食べたいと言ったのを聞いて作ってくれるようになった思い出のうさぎの林檎だった。
テーブルを囲みながら話をすると、いつも笑いが止まらなくなる。
俺の家族は、翠は翠のままで良いと言ってくれて、思い切り甘やかしてくる。
頭が良く優しくて何でも出来る自慢の家族だ。
ここに居る全員がα……
そこに俺は含まれていない……
バース診断が下ったあと親族の集まりの時に、お父さんとお母さんが遠い親戚の人達に何かを言われているのが見えて気になり近づくと声が聞こえた。
「αが産めないなんてね……せめてΩなら……αを産める可能性があったのにβだなんて可もなく不可もなく中途半端じゃない……あの子も可愛そうだわ」
そんな事を言われて、悔しさで手が震えたのを覚えている。
その時お父さんが、翠は優秀で努力家の俺の自慢の息子ですよと続けた時に俺は涙を止めることが出来なかった。
俺を見つけた緑兄が、あまり人目につかない場所へと連れて行ってくれてニコニコとした笑顔を向けながら口を開いた。
「翠は、俺の可愛い弟なんだから変な人の言う事は、気にしなくて良いんだよ、もしバース性で、悩むことがあるなら明言を避ければ良いよ。翠は真面目な努力家なんだから、おのずと評価は付いてくるよ。だから……お兄ちゃんに笑顔を見せて。」
そう言い終わると、俺をぎゅうぎゅうと抱きしめた。
そんな事が有ってから家族の甘やかしがレベルアップしたようだった。
「そういえば、楓くんは元気かい?」
そう聞かれ、最近は会ってないよと伝えるとお父さんとお母さんは凄く驚いた顔をしていた。
緑兄だけが声をださずに笑っていた。
「嘘だろ……あんなに似ているのに……」
そこまで言った時に、緑兄が、父さん!と言葉を止めた。
お父さんは、ゴメンと言いながら両手で口を隠すポーズをとったので、それを見て又みんなで笑った。
楓が遥かさんに似ているのは知っているし……
Ωって話は初めて出会った時に心無い大人が話していたから知ってる。
βとΩって……だめなのな……
✽✽✽✽
あの頃は会長を出来るか悩んでいたけど、みんなの協力もあって今のところは、なんとかなっていた。
今日の入学式で挨拶をするのは緊張するけど、楓かえでに会えるかもしれないと思うと胸が熱くなった。
かなめに、そろそろ時間だから行こうと言われ集合場へと歩いていると、かなめが嬉しそうに口を開いた。
「今年の1年に、すげぇ美人なビッチΩが居るんだって早く見てみたいな……そしてガチで落としたい……」
はぁ~、ここを学校だと認識してるか心配になる発言に頭が痛くなったから、かなめの事はスルーした。
壇上に上がった時に、少しザワザワしている中心に遠目でも、綺麗な子が居るのが分かり目で追いかけてしまった時に……目が合った。
ヤバイ……目が離せなくなる……
怖くなり視線を外すと、その後もなるべくその人に視線を向けないようにした。
なんとか全ての行事が終わり、帰ろうと思ったのに……
鞄を置いたままで、かなめの姿が消えていた……
さすがに校内を探すのは面倒なので先に帰ることにした。
かなめはαなのかな……
生徒会は全員αとの噂があるけど俺はβだ……
その時、小さな溜息を止めることは出来なかった……
「すぅーいぃーくぅーん」
後から名前を呼ばれた気がして、振り向くとアラスカンマラミュートの子犬みたいにニコニコしながら両手を振りながら走ってくる人がみえた。
なんで……俺の名前を知ってるの……?
12
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う
hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。
それはビッチングによるものだった。
幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。
国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。
※不定期更新になります。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
虐げられた王の生まれ変わりと白銀の騎士
ありま氷炎
BL
十四年前、国王アルローはその死に際に、「私を探せ」と言い残す。
国一丸となり、王の生まれ変わりを探すが見つからず、月日は過ぎていく。
王アルローの子の治世は穏やかで、人々はアルローの生まれ変わりを探す事を諦めようとしていた。
そんな中、アルローの生まれ変わりが異世界にいることがわかる。多くの者たちが止める中、騎士団長のタリダスが異世界の扉を潜る。
そこで彼は、アルローの生まれ変わりの少年を見つける。両親に疎まれ、性的虐待すら受けている少年を助け、強引に連れ戻すタリダス。
彼は王の生まれ変わりである少年ユウタに忠誠を誓う。しかし王宮では「王」の帰還に好意的なものは少なかった。
心の傷を癒しながら、ユウタは自身の前世に向き合う。
アルローが残した「私を探せ」の意味はなんだったか。
王宮の陰謀、そして襲い掛かる別の危機。
少年は戸惑いながらも自分の道を見つけていく。
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話
雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。
諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。
実は翔には諒平に隠している事実があり——。
諒平(20)攻め。大学生。
翔(20) 受け。大学生。
慶介(21)翔と同じサークルの友人。
【完結】世界で一番愛しい人
ゆあ
BL
好きになった人と念願の番になり、幸せな日々を送っていたのに…
番の「運命の番」が現れ、僕の幸せな日は終わりを告げる
彼の二重生活に精神的にも、肉体的にも限界を迎えようとしている僕を
慰めてくれるのは、幼馴染の初恋の相手だった
奴の執着から逃れられない件について
B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。
しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。
なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され...,
途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる