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空くんの気持ち

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 壇上の上に現れたのは翠くんだった。

 久しぶりに真正面から見た翠すいくんは、光り輝くような顔力がんりきで僕のすさんだ心を穏やかにしてくれた。

 高校入学と同時に翠くんが、寮の暮らしを始めて少し経った頃に僕は寮の近くで翠くんの偵察に行った時……
 翠くんと手を繋いだ派手な見た目の長身のヤツと楽しそうに一緒に部屋へと消えていった姿を見た時には血の気が引く経験をして今でも凄いトラウマだ……

 その頃の僕はまだ中学2年で幼かった事もあって、翠くんと距離を取ることでしか心のモヤモヤを鎮める方法が分からなかった……けれど、翠くんの好みのタイプをリサーチする為に、週1で寮まで様子を見に行っていた。

 空くんに知られた時は、引き気味にストーカーは辞めたほうが良いと思うと言われたけど……

 偵察&翠くん観察だからと平気だよと答えたら渋い顔をしていたのが懐かしい……

 翠くんのお相手は共通して、派手なフェロモン系……僕とは正反対だったから少しでも近づける様に沢山ピアスを開けてみたりフェロモンの研究をした結果、さらにΩっぽいと言われるようになってしまった……。

 翠くんがΩだったらな……

 無理矢理にでも僕に縛り付けることが出来るのに……

そんな妄想をする僕は最低だと自覚はしていた。

 翠くんが壇上から下りる時に目が合った気がしたけど、これだけの人数の中で見つけて貰えるハズはないよなと思うと少し悲しかった……

 翠くんにも僕を見つけて欲しいな……

 いつも……僕が翠くんを追いかけてる……

「楓?」

 名前を呼ばれて我にかえると、空くんが心配そうに僕のことを見ていた。

 大丈夫だよと伝えるとホッとした顔つきになって、人酔いでもしたかと思って心配したぞ!と言いながら僕の背中をバシバシ叩いてきた……

 普通に痛いから止めて欲しいと思った時に視線を感じて、その視線の先を探るとクラス担任と紹介された先生が、悲しさ、苦しさ……嫉妬心とも受け取れる表情でこっちを見ていた。

 もしかして僕のこと?と思ったのも束の間、視線の先はあきらかに空くんだった。

 僕の頭の中で導き出された答が合っているか気になったと同時にいたずら心がムクムクと湧き出した……

 空くんの肩を抱き耳元に近づくと質問をした。

「空くん、僕たちのクラ担って空くんの彼ピ?」

 そう聞くと、うわぁ~と叫びながら僕の口を両手で塞ぎながら涙目になっていた。

 そして、先生の方を見ると【ビンゴ】

 あの顔は、きっと誤解してるんだろうな……心配しなくても空くんと、どうこうなろうとはお互いに思ってないし空くんも彼氏しか目に入ってないですよと伝えたくなる。

 ただ先生が見せる、嫉妬に歪んだ顔は独占欲と言う感情がダイレクトに伝わってきて、いつか翠くんにも、してもらいたい表情だと思うと口角が上がるのを止めることが出来なかった。


「楓……今すっげぇ~悪い顔してるけど気付いてる?」


 そう言われ、僕は空くんと目を合わせると少し首を傾けて笑顔を浮かべた。

空くんは、顔を赤らめつつ、今度は俺の肩をバシバシ叩きながら口を開いた。


「あざとい!自分の顔が綺麗なの分かってて、やってるんだろうけど俺には【れん】だけだから!」

 そんな素直な空くんが、あまりに可愛らしく見えて叩いている手を取りながら。

「素直な空くんは可愛い~」

 そう言って指先にキスを落とすと……

「それはダメだ!!」

 教員席から高梨先生の声が聞こえ、2人が僕の想像通りに動いてる事に素直に可愛く思えて口元が緩むのが止められなかった。

 先生は他の先生に注意されているようだった……

 やりすぎちゃったかな……と思っていると空くんに後頭部を平手打ちされた。

「俺は楓に合わせられるから多少の事は許せるけど【れん】はダメだ!絶対にだ!」

 僕は空くんにごめんねと必死に謝ったけれど、さっきから、ずっと僕の足を踏み続けている。

椅子に座っているとは言え足を踏まれるのは痛い……しかも、つま先を中心に踏まれているから特に痛かった。

 こんなにも、お互いを思い合ってるなんて羨ましいな……

「楓、なんか言った?」

 そう言いながらも今だに僕の足を踏み続けてる空くんに、足が痛くて涙腺ヤバイかもと上目遣いで見つめれば赤い顔をしながら踏むのを止めてくれた。

 親友と言えども色んな意味でチョロ過ぎて心配になってきた。

「空くん、彼ピの誤解はちゃんと解いておいたほうがマジでいいと思うよ、誤解してるっぽいし……」


 僕がそう言うと、ブンッと音が聞こえそうなほどに勢いよく頭を先生の方へと向けると、あからさまに先生の表情が変わった。

 空くんは先生の方を向いたままだから表情は分からなかったけれど先生の表情をみるかぎり、恋人同士でしか見せない顔つきなんだろうなと思った。


「好きだよ」


 空くんが小さな声でそう言うと同時に先生は腕で顔を隠していた。

 僕は何を見せられているんだろう……と思いながらも可愛いすぎるカップルに、僕は親友の恋を一生推すことに決めた。
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