16 / 19
11 強めのクマ
しおりを挟む夜中、カゲロウは店主から得た情報を頼りに、そのまま国を出て北を目指し走る。陰纏いを使い、昼でも隠密な行動をとれるカゲロウではあるが、調査は明るい時間よりも人目につかない夜の方が都合がいい。一度報告に戻ろうかとも思ったが、シュガーから与えられた時間にも余裕があり、確実な状況変化を知るために自身の判断で動いている。
(先ほどのバーで腹になにか入れておけばよかったな)
アヴァロンヘイム王国の国境へ向かう道中、森に差し掛かりカゲロウは食事をとることにした。懐から携帯食料として常備している小判型の干し肉を手にし、口に放り込み、体力回復ポーションで流し込む。もちろん任務中であるため、走りながら食べる。
(やはり拙者が作った干し肉はうまい、今度主にも食べてもらいたいな。……いやいや、拙者のこんな下卑な物を口にさせるなど……いや、しかし……。)
夜中の森には血に飢えた獣もいるが、周辺探知能力に優れているカゲロウは余裕で遭遇を回避できる。この森の中をそんな平和な考えで走るやつはこの男だけといえるだろう。
そうこうしている間に森を抜け、いまだ遠くにある山の上に城のようなものが見えてきた。その山を抜けるとアヴァロンヘイムの国境に差し掛かるのだが、以前までは無かったものだ。
(あんなものは、見たことなかったな……、なにかキラキラとしたものが……動いている?)
カゲロウはその目標物に向けてさらに走る速度を上げ、徐々に城が見えてくる。山に入山し中腹に差し掛かるころ、忍びとして各地を見てきた男でも見たことがないモンスターと遭遇した。
それは、たしかに各地にいるレアモンスターの形状に似ており、おおよそクマの形をしているが、額には緑色のクリスタルのようなものが埋め込まれている。そして、全身が魔力で覆われたようなキラキラとした光の膜が張られており、獰猛性が見てわかる。
(ゴールドベア……に似ているが……)
本来のゴールドベアは名前の由来になる体毛が金色に輝いているクマ型のモンスターである。基本レベルは低く、ステータスも低い為、逃走能力に優れたモンスターであり、警戒心が高く、あまり遭遇しない。だが、他のレアモンスターと比べるとまだ遭遇しやすい部類ではあり、一般的には”よく見るレアモンスター”である。また、気候や時間帯、フィールド特性に影響がなく出現することもあり、より遭遇しやすいとされている。
カゲロウは異質なそのモンスターの力を図るため、身を隠していた茂みから獣の前に姿を晒す。
自身の前に獲物を捕らえたその獰猛な獣は、こちらの様子を伺うその人物に向け容赦なく咆哮を浴びさせる。出会ってきたヒトはこれだけで戦意を喪失し、いつも全力で逃走する。そうしてゆっくりと追い回し、狩りを道楽としてやってきた。ただ今回遭遇したヒトは違った。
「……グルル」
(俺の魔力が籠った咆哮を無視するようなやつ、少しは楽しめそうだ。)
咆哮を食らわせてもいまだに変わらず様子を見続けているヒトに対し、その熊は続けて攻撃を仕掛けた。全身に魔力を高め、常人では反応ができないほどの速さで襲う自慢の爪での攻撃である。
(終わったな)
クマはそう思っていたが、次の瞬間、世界が反転する。クマの頭部を切断する忍びの一太刀であった。ゴールドベア、もとい、エンダーゴールドベアの最期である。
「所詮、熊は熊。拙者の敵ではない」
カゲロウは振るった小太刀を納刀し、光の粒と消えその場に獣が残したアイテムを確認する。
【エンダーゴールドベアの黄金毛】:ゴールドベアが進化を得た個体、エンダーゴールドベアの体毛。魔力伝導率が高い。
【エンダーゴールドベアのクリスタル】:ゴールドベアが進化を得た個体、エンダーゴールドベアの緑色の宝石。
(……エンダーゴールドベアとは……、このアイテムは主に献上しよう。……褒めて頂けるかな……。)
主からの賞賛に期待を膨らませ、さらに山へと歩みを進める。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

地球に落ちたのは異惑星の(元)神様でした!
涼月あん
ファンタジー
※登場人物の会話が多い物語です。ご注意ください。
自星の惑星の消滅で地球にやって来たギリリッシア神達。流星となり地球に衝突!あわや地球まで消滅する事態を回避したが、神力がなくなり、力のない神に成り下がってしまった。
地球の神は神力を復活させて、仲間になるよう提案してきたが⋯。
否!神様辞めました!なので今日からマッタリ生きます。神生から人生へ⋯すべての世界が変わってしまった彼らだが、今日もマイペースに突き進む。
神宿島の小さなエリアで起こる⋯人々の問題に!神々のお願い事に!巻き込まれながら、スキル(すこしだけの神力)を使って問題解決?
ギリリッシア家の人々の涙あり?笑いあり!ハチャメチャコメディが炸裂??
旧題:地球に落ちたのは異惑星の(元)神様でした!〜神様やめて自由気ままにエンジョイライフ始めます〜
(タイトルを短くしました)

パークラ認定されてパーティーから追放されたから田舎でスローライフを送ろうと思う
ユースケ
ファンタジー
俺ことソーマ=イグベルトはとある特殊なスキルを持っている。
そのスキルはある特殊な条件下でのみ発動するパッシブスキルで、パーティーメンバーはもちろん、自分自身の身体能力やスキル効果を倍増させる優れもの。
だけどその条件がなかなか厄介だった。
何故ならその条件というのが────

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる