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4-エレナの不満

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 龍一が服屋から出た時点でだいぶ日が落ちていた。
 
「そろそろ食事時だな、一緒にどうだ?まだ国の情報も聞きたいし、今日の礼に好きな物を奢るぞ?」
「ほんとうに? じゃあ行ってみたいお店があるの!」

 嬉しそうなエレナに付いていく形で街の中心部に位置するレストランに向かう。服屋から割と近い位置にあった為すぐにつく。その店は、白い大理石の建物が優雅に輝き、玄関には高いガラス扉があり、華やかな照明が周囲を照らしている。
 入口には大きなパールの装飾が施され、見るからに高級なレストランである。

「”パール・プロムナード”一度でいいから来てみたかったの!」
 よほど来てみたかったのだろう、興奮して店に入るエレナ。
 
「見るからに良さそうな店だな」
 先に店の中に入ったエレナは店員と話している。

「二人予約なしでも入れるって!」
 満面の笑みを浮かべる。

「いらっしゃいませ、お席をご案内致します」
 店員に連れられ、2階窓側の個室席に案内される。席の窓からは、鮮やかな光が夜空に広がり、石畳の道は、薄明かりに照らされ、周囲の建物は柔らかな光に包まれている。そこを歩く人々は楽しげに街を歩き、笑顔で会話をしているようだ。

「当店はシェフの日替わりコース料理1種類のみになっております、食べられないものはございますか?」

「ないです!」
「特にない」

「それではご歓談の上、しばしお待ちくださいませ」

「すごい、すごい!こんな高級店一生来られないと思ってた!」
「まあ今日の礼だから、気にすんな」

「それで改めてなんだが、この国の常識や世情のことを食べながらでいいから聞かせてくれ」
「そんなことなら全然いいよ! なにから話せばいいかな、えーっとねー……」
 長い時間一緒にいることで彼女の口調も少しずつ砕けてるようだ。
 
 そこからコースが運ばれ、食べながらある程度の情報が聞けた。
 
 ・この国の名前はゼウスラティア王国で世界の国は6か国しかないこと。
 ・ゼウスラティアは世界の中心に位置しており、貿易と商人で繁栄した国であること。
 ・各国にはそれぞれ王が玉座に座っており、各国の名前が王の名前であること、この国ならゼウスラティア王。
 ・世界の各国は神が作ったとされ、各国では創造した神の名前にちなんで国の名前が付けられていること。

 他にもエレナ自身の話も聞いた。
 ”エレナ・ヴィオレッタ・アルディアス” それが彼女の名前だそうだ。
 本当かどうかはともかく、彼女自身も長くてめったに名乗らないそうだが。

 また、彼女は今の職場に不満があるそうで、国がいくつか抱える中の小さな薬草の庭園で普段は仕事をしており、今日の薬草採取はそこでは手に入らない薬草を摘み、納品に行ったようだ。
 毎日草花を手入れし、薬用ハーブを育てる仕事、立派な専門職だ。
 
「だぁかぁらぁ、私はぁ――ヒック――もっとたくさんの人を――ヒック――色んな薬で助けたいのぉ!――ヒック――」
「少し飲みすぎなんじゃないか?」

「うるはぁい!私はもっと、もーっと薬を研究したいのぉ!――ヒック――もう、こんな仕事辞めてやるぅ!――ヒック――」
 飲みの席の愚痴は常。彼女の野心はなかなかのものであった。
 
「ほら、もう帰るぞ……帰れるか?」
「ふぁーい……――ヒック――」

 二人分の食事代金、金貨5枚を払い店を出る。
 
 見事に酔いつぶれた千鳥足の彼女を介護し、近くのホテルに泊めた。決まって泊まるところがない龍一も同じホテルの別の部屋で休息をとる。部屋の窓を開け1日の終わりに、懐に入っていた煙草をとりだし、口に咥え火をつける。

 「エレナの話を聞くと、本当に自分が異世界転移したことを実感するな、今日は疲れた。」
 
 
「ねえねえ、あの人達さっきMTで買い物してた人じゃない?”パール・プロムナード”から出てきたわよ!」
「あ、ほんとだ。きれいな女性の方も一緒だね」
「高級ブティックに高級レストラン、特別な日なのかもしれないわねぇ」

 龍一は知らず知らずの内に噂になっているようだ。


 
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