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出会い 1
しおりを挟む長閑な山道はやがて太い道に合流し、家や畑もちらほらと見えるようになってきた。
やがて眼下に街並みも見える筈だ。
降参した者は縄で縛り、山を降りてからは馬車に繋ぐ。
必然的に遅くなる速度を、無理矢理引きずって道を行く。
街まで半日ほどか。
昼過ぎには家に着くだろう。
ロアは道すがらエルフに治癒や浄化の術を掛け、息があるか確認しては、また歩いた。
ロアは治癒の魔術はすこぶる苦手だった。
効いているとは思えなかったが、出来る事はしてやりたいと思った。
それから3時間は歩いたか。
家の近くまでくると、ダンが言った。
「動かすのかわいそだから、治るまで家に置いてやれば?
拠点のお前のベッドでもいいけど、
どうせ家なんかほとんどいねえんだし、
どうせばあちゃんが面倒見てくれるし、
どうせお前花買うしか金使わねーし、
どうせ治ったらあそこに置いとくしかねーし、問題無いっしょ。
エルフの奴隷なんて、訳ありそうだけど、綺麗だから飾りだと思えばいいじゃん!」
「…フン。」
拠点のベッドは、ロアが普段一番使うベッドだ。
家に、と言っても、半ば物置と化している家だ。
…やはり、あそこか。
ダンは最初からそのつもりだったのだろう。
ロアは孤児だ。
近くに育った孤児院がある。
そこの院長夫婦は、金持ちだったが孤児院を建てわざわざ苦労してる変わり者だと、ロアは思っている。
食べるものには困らなかったし、最低限の教育も受けられた。
汚れたボロ服など着なかったし、ケンカは日常だったが、だいたいは皆仲良くて、まるで、全寮制の学校のようだった。
教会の孤児院じゃこうは行かなかっただろうと、ロアは孤児院を出てから、院長夫婦に感謝していた。
それに、近くにあると何かと便利だ。
この家は単なる倉庫代わりで、用が無ければ1ヶ月帰らないなどざらにあるが、寄付の礼にと子供達が掃除してくれるから、それ程埃っぽくはならない。
エルフの怪我が酷い時は、婆がある程度は治せるし、必要なら、その後の面倒も見るだろう。
「あ、あの、団長!」
果たしてと、ロアが考えていると、1人の団員が話しかけてきた。
上気した頬を精一杯引き締めてはいるが、目がニヤけるのはどうしようもないらしい。
「あの、オレ、介抱しましょうか?その奴隷、欲しいっす!あ、その~、
「ああ?団長!俺だってこんな綺麗な奴隷だったら男でも欲しい!!」
「俺も、今回の報酬、その奴隷欲しいです!」
「バカ野郎、お前らの報酬じゃあ駄目だろ。」
「確かに、高そう~!」
「じゃ、みんなで出し合う?」
「桁がチゲェって話しだよ。どう見たって貴族の持ちもんだろ。」
団員達が次々に声を上げる。
「お前ら、オモチャはひとつしかねえんだ。喧嘩んなっからダメだ!ほら、行くぞ。」
「ええー。」
古参の男が言うが、皆動かない。
だが、
「…お前ら、俺の前でなに話してんだ、ああ?みんなで寄って集って、ナニするつもりだよ。カワリバンコか?あ?」
ダンの声が響くと、その熱気は一気に鎮まりを見せた。
ランズエンドのメンバーは品行方正だ。
ある理由から、欲が溜まれば花街へ行って娼婦を買うことが推奨されているからだ。
ランズエンドには花街資金というのがある。
報酬から無理矢理引かれるそれは、だが、団員達に大人気だ。
何故なら、一見様お断りの高級娼館にも顔が効く貴族が団長の為、普通なら追い出されるようなところでも紹介状を書いて貰えるし、ほんの少しだが補助がでるからだ。
もちろん、それはダンが決めた。
ダンは難儀な男だった。
ダンは少年の頃、可愛い子供だったらしい。
が、そのせいで誘拐され、強姦された事があった。
男を怖がり怯えて暮らす日々だったが、ある時、負けないくらいに強くなれば襲われないと言われたようだ。
努力したし、筋も良く、成長期だった事もあり、みるみる強く、ゴツくなった。
これで男にはもう掘られないと思った矢先、今度はギルドの依頼で助けた厄介な女に惚れられた。
その時にはダンはロアと組んで仕事をしていた。
ちなみに、ダンがロアと組んだ理由はこうだ。
『俺よりも背が高いのは気にくわないが、便利だし、強いし、貴族っていうのが信用には効果的だ。
ベラベラ喋らないし、細かい事をグダグダ言わないとこが気に入った。
便利だし。』
ダンはロアのように背は高くないが低くもなく、ロアのように無精ではなく小綺麗で、無愛想でも無関心でも無口でもなく、愛想が良く世話好きだった。しかも見かけによらず、強かった。
ロアと組んで仕事をしていたダンの評価は、こうだ。
『強くて頼りになる、お洒落で話しやすい優しい人』
ダンは女にモテるのは嫌いじゃなかった。
摘み食いなどしょっちゅうだった。
だからその時ロアは、やはりダンにはバツが当たったと思った。
その女は、ダンが好きじゃないからと交際を断ると、ダンの部屋で御飯を作って待っていたり、夜訪ねて行ったり、自殺騒ぎを起こしたり、挙句、無理心中を計った。
しつこくて、街中で人の目を憚らずキスしたり、泣いたり、喚いたり。
挙句の果てに、ロアに『あなたもダンを好きなんでしょうけど、無理矢理は駄目よ!彼は私の事が好きなの!早く彼を解放してあげて!』と詰め寄ってきた。
ロアはもちろん違うと言ったが、絶対そうだと女は決め付け出て行った。
追い詰められたダンは閃いた。
そして、女に言った。
『俺、実はロアと恋仲なんだ。だから貴女とは付き合えない。』
それ以降、女は関わってこなかったが、翌日にはその噂でもちきりだったらしい。
しかも、何故かロアがダンの事を好きで好きで堪らない事になっている。
ロアはただ傍観していた。
ダンはその後、平謝りに謝ってきた。
「…次はない。」
ロアが言ったのはそれだけだったが。
7年も前の話だが、そんな事があって、ダンは素人の女は相手にしなくなった。
よほど懲りたとみえ、ダンは髭を生やし草臥れた服を着始め、人好きのする小綺麗だった容姿は、そこらの冴えないおじさんに変わった。
今、団には良いメンバーが集まっている。
自分の様な馬鹿げた理由で、団内を掻き回されたくないと、ダンはしみじみ思っていた。
今回見つけたエルフは、男だが大人気だ。
団内の誰かが報酬として得れば、そこを中心になにかしらの波紋が広がり、最悪団内が乱れる。
それを防ぐには、見つけた本人であり、団長でもあるロアの元に置くのが一番いいと思った。
ロアの元、というより、ロアと繋がる孤児院に。
「さあて、どうするか。」
ダンがこちらに目だけ寄越した。
『お前がなんか言え。』
その目はそう言っている。
…フン。
ロアは腕の中で浅く息をする、弱った命を守りたいと思った。
何より、自分が見つけたものだ、という執着、いや、独占欲か。
僅かではあるが、そんな感情がある事に自分でも驚いていた。
答えは決まった。
が、
力で抑えると不満が残る。
気を持たせては悔念が残る。
『なんでダメなんだ』
『やっぱりダメか』
結果は同じダメでも、その差は大きい。
傾国という言葉がチラつく。
美人の扱いは昔から難しいものらしい。
後々に響かせたくはないから、期待を持たせるような事はしたくなかった。
「…誰のモノでもない。怪我が治れば家に帰るだろう。それまでは孤児院の連中に面倒を見させる。」
正論と良識とで諭され、だが、まだ何かいいたそうな団員達を、
「お前ら、性奴隷だからって鼻息荒くしてんじゃねーよ!
こいつは、お、と、こ!溜まってんなら街行って花買え!」
ダンが一喝し、奴らは街への道を名残惜しそうに歩いて行った。
ーーーーーーーー
家に入ったロアは、エルフを暖炉の前のソファに寝かせ、火を入れる。
さて、まずは体を綺麗にして傷の手当だろうと風呂を沸かす。
とりあえず水を飲ませてみたが、唇の端から流れていった。
移動中、少しでもと掛けた回復や浄化の魔術は、やはりあまり効果はなかったようだ。
まだ意識は戻らないが、静かに息をしている姿を見る。
ランズエンドには治癒師がいない。
少し使える奴はいるが、瀕死を助けられる程ではないし、他に傷を負った者がいれば、犯された性奴隷になど構っている暇はない。
『このエルフは性奴隷でしょう。
奴隷の首輪が装飾的だ。
犯されただけなら医師に見せなくても大丈夫です。
薬付けとけば治ります。
あとは暖かくして、休ませてあげて下さい。
ああ、できれば中も洗って。』
少し医術の心得のある古参の団員はそう言い、軟膏の傷薬を寄越した。
あの場所にどのくらい居たのかはわからないし、血だまりは服を濡らし、排水の溝に流れ込んでいたから、どのくらい出血したかもわからないが、結構な量だろう。
普通に犯されただけならこうはならない。
まして、性奴隷なら慣れたものだろうに。
誰かがジャイアントが1人いたと言っていた。
混血のようだったが、それでもデカかったらしい。
まさか、とは思うが、もしそうなら酷いわけだ。
…まあ、いい。
さて、水はあるが、食い物がない。
孤児院に連れて行くか。
いや、あまり動かさない方がいいか。
それに、この状態では子供達が怯えるし、あそこは騒がしい。
それよりも、得体の知れない者を孤児院に入れては危険だ。
色々と理由を付け、ここで療養させる事にした。
『ケガ人有、要食事』
ロアはそう書いた薄い紙を、風の精霊に運ばせる。
飯が来るはずだ。
まだエルフの顔色は戻らない。
風呂に入れる為、装備を解きインナーを脱ぐ。
温めた浴室にエルフを運び、マントを剥がし、服を脱がせようとしたロアの手が止まった。
昼間の明るい浴室は、その体を浮き彫りにした。
酷い暴行の跡があった。
…良く、これで持ったな。
失血と暴行で、ショック死してもおかしくない状態だった。
今からでも治癒士を呼ぶか。
だが、新しい出血は無い。
…まあ、いい。
骨がやられているかもしれない。
あまり温めるのも良くなさそうだ。
胡座をかいた足の上に青白い体を横たえ、ぬる目のお湯を掛けていく。
髪や体の表面を粗方洗い流し、うつ伏せにして1番酷い患部だろう後口付近の汚れを優しく流す。
傷の具合を見る為に尻たぶを広げてみた。
固まった血が取れると、腫れて傷はあるが、案外綺麗なものだった。
問題は、中だ。
ロアでも流石に躊躇する。
…怪我の治療だ、仕方ない。
ロアは男とヤッた事はあるが下処理は全て相手がした為、腰を振るだけだった。
女でも尻の穴なんぞに興味もないから、他人の尻の穴に指を突っ込むのは初めてだ。
薬を指先に付けて、恐る恐る指を入れてゆく。
案外、嫌悪感は無い。
薬を塗り、窄まった場所を開き、また、薬を塗る。
これで良いかどうかは分からないが、やらないよりはマシだろうからと血やら何やらを掻き出し、なるべく綺麗に洗い、薬を多めに入れた。
ダンが飲むたびに言う言葉が、頭をよぎる。
今のムサい姿からは考えられないが、ダンは昔は可愛い子供だったらしい。
この辺りは治安が良くない為良くある事だが、ダンは犯された男を見るとその時のことを思い出すようで、それがどれだけ酷い痛みかを、ロアは酔う度に散々聞かされていた。
ダン曰く、
お前、皮摘んで両方に引っ張ってそのまま割いてやろうか?
刃物だの鈍器だの、カンケーねーよ。
じわじわ裂けてくるんだぜ?
おう、やってやるよ、どこがいい?
いいからお前も経験しとけよ!
痛みに強くなるぜ?
幸いロアには経験は無いが、ダンの経験からするとそういう痛みらしい。
ロアは殴り合いなどしょっちゅうだったし、刃物や魔獣の爪や牙で受けた傷は数えきれない程ある。
痛みには強いとは思うが、目の前でゆっくりと裂かれる痛みは想像するだけで、何処とは言わないが縮む思いだ。
多数の人間に殴られながら犯されたこいつは、どれだけ酷い痛みを味わったのか。
それにしても解せないのは、盗賊がこんな綺麗な奴隷を傷付けた事だ。
そのままでも暫くは遊べるし、売れば随分な金になる筈だ。
…まぁ、いい。
ロアは打撲跡にも薬を塗り夜着を着せた。
二階の客間のベッドに寝かせ、スプーンで少しずつ水を飲ませると、先程とは違い、その体に取り込まれて行くのを感じる。
…フン。
ロアはまた、効き目のない治癒を掛けた。
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