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7話 デートに誘われた!?

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「……今日はありがとうございました」

「こちらこそ、付き合ってくれてありがとう」



 カフェでお茶した後、帰りは馬車で送ってもらった。

 ハーディング家の屋敷の前で降りた私にウィル様が静かに微笑む。

 一瞬、大切な人なんだと言ってくれた言葉が蘇って慌てて頭を振った。

 いやいや、私達はお互いの利益のために婚約しただけなんだから。考えすぎちゃいけない。ただでさえ私はこういうことに耐性が無いんだから。



「ステラ?」

「いいえ、なんでもありません」

「……あのさ、今度の休日に一緒に出掛けないか?」

「え?」



 思わぬ言葉に顔を上げると照れくさそうに目を逸らしたウィル様がいた。

 休日に出かけるって一体どこへ……?

 夕日の陰になってウィル様の表情はよく見えなかった。



「今日、俺に付き合ってカフェに来てくれただろう? だからそのお礼にデートしよう」

「で、デート!? 別にお礼なんて……」

「いいんだよ、俺がしたいんだから」

「わ、わかりました」



 なんだかずいぶん押しが強い。

 それともこれが根暗でないキラキラ人種の普通なの?

 押され気味に頷いた私を残して、それじゃあとウィル様は口早に言って馬車で去って行ってしまった。





 当然といえば当然なんだけれど、私は生まれてこの方家族以外の男性と休日に出かけたことがない。

 そういうのは仲の良い、いわゆる恋仲の男女がすることだっていうのはさすがの私でも知っているけれど。

 ウィル様にいわゆるデート、というやつに誘われて私は困惑していた。わざわざ休日にまで会うなんて本当の婚約者同士みたいだ。色々訳ありとはいえウィル様はこちらへ歩み寄ろうとしてくれているのかな……?

 あ、もしかして行きたいところがあるのかな?

 今日のお礼とは言ってたけど、もしかしたら今日のカフェみたいに他にも行ってみたい場所があるのかも。私という趣味嗜好のばれてしまった婚約者ができたからここぞとばかりに利用しようということだろうか。

 ああでも突然決まった予定に私は妙に落ち着かない気持ちになっていた。

 庭に作ってもらった魔法薬学を研究するための小屋の中で先日王城で採集した薬草の仕分けをしていたのだけれど全然はかどらない。

 だって冷静に考えてみてほしい。

 ウィル様にデートを申し込まれた時は勢いで頷いてしまったけれど、あらためてデートなんて言われたら緊張するに決まってる。絶対に挙動不審になる自信がある。

 ……まあ、これで婚約解消になるかもしれないけど。



「えっと……あ!?」



 資料を探していたらテーブルの端に乗せていた本を何冊も床に落としてしまった。うわ、埃っぽい。ちゃんと掃除しなくちゃ……と思っていたらがちゃりと扉が開いた。



「やだ、なに? すごく埃っぽいじゃない。ステラ! 少しは片づけなさいって前から言っているでしょう?」

「ごめんなさい姉様、今度やります」

「あなたは今度今度って……ところで今日はウィル様が送ってくださったんですって?」



 顔を出したのはアメリア姉様だった。

 暗いし埃っぽくて不気味だからとあまり私の研究小屋に顔を出さないのに珍しい。何か用かと思ったけれど、やっぱりウィル様とのことが気になっているらしい。



「は、はい。仕事終わりに、カフェに寄ったので……」

「まあ、デート? あのウィル様と? 本当に付き合ってるのね」



 まだ疑われていたらしい。

 まあ、それは当然か。

 ウィル様の相手が私だなんて、国中に聞いたってたぶん9割信じてもらえないだろう。



「まあ、デートっていうか……デートは今度の休日で」

「え? なんですって?」



 もごもご口の中で呟いていたら耳ざとくアメリア姉様に突っ込まれた。

 本当に恋バナが好きなんだから!





「まったく! それならそうと素直に私に相談してほしいわ!」



 プリプリと怒るアメリア姉様は、だけどちょっと楽しそうだった。

 研究小屋でうっかりウィル様とのデートをアメリア姉様に話したらあっという間に姉様の私室に連れて行かれてしまった。



「ステラがデートで悩む日が来るなんて新鮮ね。ふふ……私に任せてちょうだい!」

「お、お願いしますお姉様!」



 私はアメリア姉様の鏡台の前に座っていた。

 私の部屋の簡素な鏡台と違って鏡が大きいし化粧品の類の量も全然違う。これが本来の貴族令嬢の一般的な鏡台なのかもしれない。私の鏡台なんてヘチマ水とクリームしか置いてなくてアメリア姉様は初めて見た時気絶しかけてたもの。

 一応今回は今までは人目を忍んで付き合っていたけれど、晴れて婚約が決まったので初めて休日デートに出かけることになった、という話にしている。そうでないと以前から付き合っていたはずなのにデートで私がオロオロしていたら不自然になってしまうと思って咄嗟にそう話してしまったのだけれど。



「これを期にあなたもそろそろ年頃なのだからもう少し身なりに気を配りなさい。ウィル様だって喜ぶわよ」

「いやー……それはどうでしょう……」



 私がおしゃれしたところでウィル様が喜ぶかというと微妙だ。だって私達の婚約はお互いの利益のためだし、ウィル様は可愛い物が好きなのだ。私がどんなにめかしこもうとあのぬいぐるみ達のように可愛くはなれないだろう。

 そもそも私みたいな根暗なオタクがあの爽やかでいつも輝いてるウィル様とデートなんて……。



「私なんて元々が美人じゃないし、地味だし……いた!?」



 私が持ち前の根暗を発揮して、ついウジウジしてしまったら姉様にクリップで前髪を上げられていた額をピッと指ではじかれた。



「ステラ、あまり自分のことを卑下しすぎるものじゃないわ。それはウィル様や私達家族……あなたを認めてくれている人達にも失礼よ」

「アメリア姉様……」

「大体ステラは研究オタクでお洒落に興味が無かっただけでしょう? 髪だって長いと邪魔だからって切ってしまって……。でも見てみなさい。あなたはちゃんと可愛いのよ」



 鏡の前では額を赤くした私が情けない顔をしていた。可愛いかどうかは……わからないけど。けれどアメリア姉様の言うことは正論だった。お洒落方面にまったく興味を示さなかったから今の姿なのだ。

 長すぎる前髪を梳かしながら姉様が楽しそうに呟いた。



「この前髪も、せっかくだし少し切ってすっきりさせましょう。大丈夫、私結構得意なのよ」

「ええ!? で、でも前髪がないと顔が丸見えじゃあ……」

「いいじゃないの、可愛らしくしてあげるわ」



 動揺する私に姉様はにっこりとほほ笑んだのだった。
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