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12話 君の笑顔が見られるのなら
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ジェラルドが忌々しそうにクロエを睨む。今にも飛び掛からんばかりの状況にジェラルドを抑えようと兵士たちが近づいてきた。
「ジェラルド、お前には色々と話を聞かなければならないようだ。連れて行け! パーティーはこれで終わりにする」
「ち、父上……そんなぁ……」
情けない声を出すジェラルドが兵士たち二人に両脇を抱えられて会場から出て行った。
それを苦い顔で見届けた国王がクロエとアルファーノ辺境伯へと向き直る。
「クロエ嬢、アルファーノ卿、我が息子の愚行を詫びよう。このようなことになってしまい申し訳ない。すべては私の責任だ」
国王陛下が頭を下げる。アルファーノ卿は渋面のままだったが国王に頭を下げさせてそのままにはできなかったようだ。
「陛下、もう頭を上げてください。……この件に関しては後日しっかりと話し合いをしましょう」
「ああ、その通りだな。オクタヴィア卿、そして君たちにも大変無礼を働いたようで申し訳ない」
「いえいえ、うちは全然大丈夫ですので」
「はい、気にしてません!」
「……あはは」
結構な嫌がらせをされていたのに本気でまったく気にしてない様子のリリアーナと平然としている父を見てさすが親子だなとエミリオは苦笑いした。
国王はそれからアルフィオへと向き直った。
「アルフィオ、お前にも色々迷惑をかけたのだろう。後で話を聞かせてくれ」
「はい、父上」
国王と直接話したことなどなかったけれど、この様子だと悪い人ではないのだろう。アルフィオの父親でもあるのだから当然かとエミリオは思った。ではジェラルドはどうしてああなってしまったのか。おそらくは周囲にいた人間の違いなのだろう。
アルフィオは素直に頷いた。頭に手を乗せられて少し照れくさそうだ。
「クロエ嬢、これからのことなのだが……」
「はい、婚約解消の方向でお願いいたします」
「そうだな。君にはジェラルドがたくさん無礼を働いたようで申し訳ない」
「いいのです。これで肩の荷が下りました。ありがとうございます」
ずっと俯いていたクロエが顔を上げて微笑んだ。
その表情はずいぶんとすっきりとしていた。
「クロエ」
その後パーティーがお開きになり貴族たちがざわめきながら会場から出て行った。国王とアルファーノ辺境伯、オクタヴィア侯爵をはじめとした大人たちは色々と込み入った話があるようで別室へと移動したようだ。
エミリオは人混みの中クロエを捜していた。
彼女が貴族たちに交じって会場から出て行くのを見たからだ。
クロエは会場から少し離れた休憩室のソファにぽつんと座っていた。
「エミリオ……」
「その、大丈夫だった?」
計画のことはすべて話してクロエもそれを受け入れてくれての実行だったけれど、それと彼女の心が傷つかないかは別だ。あんな風にジェラルドに貶められたのだから。
エミリオはクロエが心配だった。
けれど隣に座ってうつむき加減の彼女を見ると、その口元は笑っていた。
「ふふっ」
「え?」
笑ってる? どうして? と首を傾げるエミリオを見て堪えきれなかったのかクロエがついに声を出して笑いだした。
「ふ、ふふっ。あはは! だってエミリオがあんまりにも可愛らしいから!」
「え……あああー!?」
エミリオはクロエの笑顔に一瞬見惚れ、それから窓の映る自分の姿を見て悲鳴を上げた。かつらは脱いでいるけれど、ばっちりお化粧をしてドレス姿のままだ。どうりで会場から出るときもご婦人方の視線が痛かったわけだ。
「エミリオありがとう。でもわたしは大丈夫よ。だってパーティーの間中あなたが可愛すぎて笑いをこらえるのが大変だったの! ジェラルド王子の言葉なんてほとんど聞いてないくらいよ」
「そ、そうだったんだ……」
「ふふ、今度わたしにもおめかしさせてほしいわ」
「ええー!?」
そういえばパーティーが始まる前、初めてエミリオの女装姿を見たクロエはたいそう驚いて興奮した様子で髪を触ったりドレスを直してくれたりと楽しそうだった。開いてはいけない扉を開いてしまったんじゃないかとエミリオは別方面で心配になった。
けれど、初めて会った時は人形のように表情の無かったクロエがこんなに声を上げて楽しそうに笑っている。それを見ていたら女装くらいなんでもないかなとエミリオは思うのだった。
「エミリオ、本当にありがとう。なんだかこれからはのびのび生きられそうよ」
「ああ、せっかくだから楽しいことたくさんしないとな」
肩の荷が下りた様子のクロエの目の端には少しだけ涙が溜まっていた。
彼女の言葉を聞いてエミリオはふと気づく。
そうか、彼女はもう誰かのものじゃないんだな。そう考えだしたらなんだか鼓動が早くなったような気がした。
「エミリオ」
「うん?」
ソファに座っていたクロエが背筋を伸ばしてエミリオの方へ向き直った。釣られてエミリオもクロエの方へと身体を向ける。
「これからも仲良くしてね」
「もちろんだよ!」
少し恥ずかしそうにはにかんで言うクロエにエミリオは笑顔でこたえた。ドレス姿なのでちょっと格好がつかないけれど、クロエと笑い合っていたらそんなことどうでもいい気がした。……のだけれど、その様子を扉からリリアーナとアルフィオが覗いていたことに気がついて慌ててエミリオは二人を追いかけたのだった。
「ジェラルド、お前には色々と話を聞かなければならないようだ。連れて行け! パーティーはこれで終わりにする」
「ち、父上……そんなぁ……」
情けない声を出すジェラルドが兵士たち二人に両脇を抱えられて会場から出て行った。
それを苦い顔で見届けた国王がクロエとアルファーノ辺境伯へと向き直る。
「クロエ嬢、アルファーノ卿、我が息子の愚行を詫びよう。このようなことになってしまい申し訳ない。すべては私の責任だ」
国王陛下が頭を下げる。アルファーノ卿は渋面のままだったが国王に頭を下げさせてそのままにはできなかったようだ。
「陛下、もう頭を上げてください。……この件に関しては後日しっかりと話し合いをしましょう」
「ああ、その通りだな。オクタヴィア卿、そして君たちにも大変無礼を働いたようで申し訳ない」
「いえいえ、うちは全然大丈夫ですので」
「はい、気にしてません!」
「……あはは」
結構な嫌がらせをされていたのに本気でまったく気にしてない様子のリリアーナと平然としている父を見てさすが親子だなとエミリオは苦笑いした。
国王はそれからアルフィオへと向き直った。
「アルフィオ、お前にも色々迷惑をかけたのだろう。後で話を聞かせてくれ」
「はい、父上」
国王と直接話したことなどなかったけれど、この様子だと悪い人ではないのだろう。アルフィオの父親でもあるのだから当然かとエミリオは思った。ではジェラルドはどうしてああなってしまったのか。おそらくは周囲にいた人間の違いなのだろう。
アルフィオは素直に頷いた。頭に手を乗せられて少し照れくさそうだ。
「クロエ嬢、これからのことなのだが……」
「はい、婚約解消の方向でお願いいたします」
「そうだな。君にはジェラルドがたくさん無礼を働いたようで申し訳ない」
「いいのです。これで肩の荷が下りました。ありがとうございます」
ずっと俯いていたクロエが顔を上げて微笑んだ。
その表情はずいぶんとすっきりとしていた。
「クロエ」
その後パーティーがお開きになり貴族たちがざわめきながら会場から出て行った。国王とアルファーノ辺境伯、オクタヴィア侯爵をはじめとした大人たちは色々と込み入った話があるようで別室へと移動したようだ。
エミリオは人混みの中クロエを捜していた。
彼女が貴族たちに交じって会場から出て行くのを見たからだ。
クロエは会場から少し離れた休憩室のソファにぽつんと座っていた。
「エミリオ……」
「その、大丈夫だった?」
計画のことはすべて話してクロエもそれを受け入れてくれての実行だったけれど、それと彼女の心が傷つかないかは別だ。あんな風にジェラルドに貶められたのだから。
エミリオはクロエが心配だった。
けれど隣に座ってうつむき加減の彼女を見ると、その口元は笑っていた。
「ふふっ」
「え?」
笑ってる? どうして? と首を傾げるエミリオを見て堪えきれなかったのかクロエがついに声を出して笑いだした。
「ふ、ふふっ。あはは! だってエミリオがあんまりにも可愛らしいから!」
「え……あああー!?」
エミリオはクロエの笑顔に一瞬見惚れ、それから窓の映る自分の姿を見て悲鳴を上げた。かつらは脱いでいるけれど、ばっちりお化粧をしてドレス姿のままだ。どうりで会場から出るときもご婦人方の視線が痛かったわけだ。
「エミリオありがとう。でもわたしは大丈夫よ。だってパーティーの間中あなたが可愛すぎて笑いをこらえるのが大変だったの! ジェラルド王子の言葉なんてほとんど聞いてないくらいよ」
「そ、そうだったんだ……」
「ふふ、今度わたしにもおめかしさせてほしいわ」
「ええー!?」
そういえばパーティーが始まる前、初めてエミリオの女装姿を見たクロエはたいそう驚いて興奮した様子で髪を触ったりドレスを直してくれたりと楽しそうだった。開いてはいけない扉を開いてしまったんじゃないかとエミリオは別方面で心配になった。
けれど、初めて会った時は人形のように表情の無かったクロエがこんなに声を上げて楽しそうに笑っている。それを見ていたら女装くらいなんでもないかなとエミリオは思うのだった。
「エミリオ、本当にありがとう。なんだかこれからはのびのび生きられそうよ」
「ああ、せっかくだから楽しいことたくさんしないとな」
肩の荷が下りた様子のクロエの目の端には少しだけ涙が溜まっていた。
彼女の言葉を聞いてエミリオはふと気づく。
そうか、彼女はもう誰かのものじゃないんだな。そう考えだしたらなんだか鼓動が早くなったような気がした。
「エミリオ」
「うん?」
ソファに座っていたクロエが背筋を伸ばしてエミリオの方へ向き直った。釣られてエミリオもクロエの方へと身体を向ける。
「これからも仲良くしてね」
「もちろんだよ!」
少し恥ずかしそうにはにかんで言うクロエにエミリオは笑顔でこたえた。ドレス姿なのでちょっと格好がつかないけれど、クロエと笑い合っていたらそんなことどうでもいい気がした。……のだけれど、その様子を扉からリリアーナとアルフィオが覗いていたことに気がついて慌ててエミリオは二人を追いかけたのだった。
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