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10話 本物と偽物

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――そして話は冒頭に戻る。


「皆を驚かせてしまってすまない。私はそこのクロエ嬢と婚約していたが、今日を持って婚約を破棄することとした! 彼女はリリアーナ嬢に学園でずっと陰湿な嫌がらせをしていたのだ。そのような心の醜い者が将来の国母となるのはふさわしくないからだ」

 まさか、そんなと皆が小声で話し始める。
 王族や貴族の子女が通うこの王国の学園で、将来の王妃がそのようなことをするなんて。
 ざわめきの中、クロエはずっと俯いたままジェラルドの前に立っていた。

「ジェラルドよ、それは本当なのか?」

 低く厳しい声が会場に響き、戸惑っていた貴族たちが道を開けた。その中心を進んできたのはリヴァルト王国の国王だ。ジェラルドとリリアーナ、そしてクロエへと視線を向けた。

「クロエ嬢は今まで模範的な婚約者であったと私は聞いているぞ。何か申し開きがあるなら申してみよ」
「そんなこと聞く必要はありません! 実際彼女は陰湿な嫌がらせを学園で受けていたのです。なあリリアーナ……」

 ぱしん! と乾いた音がホールに響いた。
 リリアーナが肩を抱こうとしたジェラルドの手を払ったのだ。
 これには貴族達も息を飲んだ。ここは学園ではない。大勢の貴族たちがいる前で王子であるジェラルドに恥をかかせたのだ。ジェラルドの顔が見る間に歪んでいく。

「リリアーナ! 貴様この期に及んで生意気な真似を……!」
「本物と偽物の区別もつかないのに、あんたは本当にリリアーナを愛していると言えるのか?」
「は?」

 唖然とするジェラルドの横からすたすたとリリアーナはクロエの隣に並んだ。そして貴族たちの間からもう一人リリアーナが出てきた。エメラルドのような瞳を細めて優雅にドレスを摘まんでお辞儀をする。

「ごきげんよう、ジェラルド王子殿下」
「はあ!?」

 どうしてリリアーナが二人? と混乱し取り乱す王子にふん、と鼻を鳴らしてジェラルドの隣にそれまでいたリリアーナ……の恰好をしたエミリオがかつらを取った。周囲の貴族たちから驚きの声があがる。ついでに一部のご婦人たちはなぜか歓声を上げていた。

「な、貴様はエミリオ!? どういうことだ!」
「皆様、ご覧のとおりジェラルド殿下は自分の婚約したい相手が本物か偽物かの区別もつきません。当然です、外見が好ましいだけで本当に愛してるわけじゃないのだから」
「わたしある日急に殿下から迫られるようになってとても困惑しましたの。そうしたら以前わたしの身代わりにエミリオに茶会に出てもらった時に、殿下から気に入られたと聞いて驚きました。だってそれって」
「待ってくれ、それじゃあ……茶会で見たのは」

 じっと周囲の視線がエミリオに集まる。さすがに恥ずかしい。ごほんと一つ咳払いをしてエミリオはジェラルドを見据えた。

「俺ですよ。変わり者の姉の身代わりで出席していたんです。その節は大変失礼をいたしました」
「そういう訳ですので婚約の申し込みはお断りさせていただきました。本当にわたしのことが好きだったわけではないですものね」
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