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9話 クロエの想い
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翌日昼の食堂でのことだ。
クロエと昼食を食べようとしていたリリアーナの元にジェラルドが懲りずにやって来た。
「やあリリアーナ嬢、よかったらこちらで一緒に食べないかい?」
「結構です。お友達と食べるので」
「そうかそうか、リリアーナ嬢は友達想いなのだなあ」
ばっさり断られても懲りずに馴れ馴れしくリリアーナの肩に手を置こうとしたジェラルド。その手を軽くリリアーナが叩いた。
「気安く触れないでください」
「ほう……」
遅れて食堂にやってきたエミリオとアルフィオが見たのは明らかに怒った様子のリリアーナだった。クロエの方はまるで以前のように表情が抜け落ちている。ジェラルドの前だからだろう。
「いい加減にしてください。わたしは王子殿下のお相手はできません。クロエに失礼だとは思わないのですか?」
ここまではっきり言えるのはリリアーナの性格だろう。いい加減堪忍袋の緒が切れたともいえる。ジェラルドは下卑た笑いを引っ込めた。
「……それはすまなかった。まずは君を正式に私の婚約者としないとな」
「は?」
「私はオクタヴィア家に正式に君を婚約者にしたいと申し込んだ。じきに君の耳にも入るだろう」
唖然とするリリアーナと周囲の人々を見回してジェラルドが大きな声で告げた。
「私の誕生パーティーで君を正式に婚約者として発表するつもりだ。君の意思は関係ない。そしてクロエ嬢……君に関してもそこで話をしよう」
ひやりと冷めた視線を一度だけクロエに寄越しジェラルドはざわつく食堂から出て行った。
エミリオとアルフィオが二人に駆け寄った。
「リリ、大丈夫か?」
「なんなのよあいつ!?」
「クロエ、平気?」
「ええ」
憤慨するリリアーナをアルフィオが宥めて、エミリオはクロエに声をかけた。抜け落ちていた表情がわずかに戻って苦笑していた。
「わたしはおそらくジェラルド王子の誕生日パーティーで婚約を破棄されるわ。なんとなくわかっていたの」
食堂の隅にある他の生徒たちとは少し離れた席でエミリオはリリアーナとアルフィオとクロエと一緒に昼食を食べていた。
あの後一時は騒然としたのだがジェラルドの横暴もいつものことなのですぐに落ち着きを取り戻した。ただ、もちろんリリアーナとクロエへの好奇の視線はちらちらと感じるけれど。
「別にそれはいいの。ジェラルド様のこと、そんなに好きじゃなかったし。お妃教育も大変だしね。今まで努力してきたことが水の泡になってしまうのは少し残念だけど」
「そんなことないんじゃないかな? きっとクロエのがんばってきたことはお妃以外でも生きてくると思うよ」
エミリオがそう言うとクロエが恥ずかしそうに笑った。隣でニヤニヤしているリリアーナが目障りだなと思って視線を逸らしたら同じようにニヤニヤしているアルフィオの顔があって結局エミリオは照れ隠しにパンを頬張った。
「でも婚約を破棄するにはそれなりの理由がいるでしょう。きっとわたしが一方的に悪いことにされてしまうと思う。いろんな理由をでっちあげてね。家族にも迷惑をかけてしまうわ。それは納得ができないの」
それは当然だろう。王子の婚約者であるクロエが無実の罪を着せられれば彼女の家族であるアルファーノ辺境伯家にも傷がつく。
それにジェラルドの性格を見越してこれから起こることをクロエは予想しているようだった。それはおそらくエミリオとアルフィオの考えていることと同じだろう。
アルフィオと一度視線を合わせてからエミリオはテーブルに身を乗り出した。周囲を確認して声をひそめる。
「実は俺に考えがあるんだけど」
「え、なになに?」
「考え……?」
リリアーナとクロエが釣られて身を乗り出す。アルフィオも耳を寄せてきたのでエミリオは三人にある計画を話した。
クロエと昼食を食べようとしていたリリアーナの元にジェラルドが懲りずにやって来た。
「やあリリアーナ嬢、よかったらこちらで一緒に食べないかい?」
「結構です。お友達と食べるので」
「そうかそうか、リリアーナ嬢は友達想いなのだなあ」
ばっさり断られても懲りずに馴れ馴れしくリリアーナの肩に手を置こうとしたジェラルド。その手を軽くリリアーナが叩いた。
「気安く触れないでください」
「ほう……」
遅れて食堂にやってきたエミリオとアルフィオが見たのは明らかに怒った様子のリリアーナだった。クロエの方はまるで以前のように表情が抜け落ちている。ジェラルドの前だからだろう。
「いい加減にしてください。わたしは王子殿下のお相手はできません。クロエに失礼だとは思わないのですか?」
ここまではっきり言えるのはリリアーナの性格だろう。いい加減堪忍袋の緒が切れたともいえる。ジェラルドは下卑た笑いを引っ込めた。
「……それはすまなかった。まずは君を正式に私の婚約者としないとな」
「は?」
「私はオクタヴィア家に正式に君を婚約者にしたいと申し込んだ。じきに君の耳にも入るだろう」
唖然とするリリアーナと周囲の人々を見回してジェラルドが大きな声で告げた。
「私の誕生パーティーで君を正式に婚約者として発表するつもりだ。君の意思は関係ない。そしてクロエ嬢……君に関してもそこで話をしよう」
ひやりと冷めた視線を一度だけクロエに寄越しジェラルドはざわつく食堂から出て行った。
エミリオとアルフィオが二人に駆け寄った。
「リリ、大丈夫か?」
「なんなのよあいつ!?」
「クロエ、平気?」
「ええ」
憤慨するリリアーナをアルフィオが宥めて、エミリオはクロエに声をかけた。抜け落ちていた表情がわずかに戻って苦笑していた。
「わたしはおそらくジェラルド王子の誕生日パーティーで婚約を破棄されるわ。なんとなくわかっていたの」
食堂の隅にある他の生徒たちとは少し離れた席でエミリオはリリアーナとアルフィオとクロエと一緒に昼食を食べていた。
あの後一時は騒然としたのだがジェラルドの横暴もいつものことなのですぐに落ち着きを取り戻した。ただ、もちろんリリアーナとクロエへの好奇の視線はちらちらと感じるけれど。
「別にそれはいいの。ジェラルド様のこと、そんなに好きじゃなかったし。お妃教育も大変だしね。今まで努力してきたことが水の泡になってしまうのは少し残念だけど」
「そんなことないんじゃないかな? きっとクロエのがんばってきたことはお妃以外でも生きてくると思うよ」
エミリオがそう言うとクロエが恥ずかしそうに笑った。隣でニヤニヤしているリリアーナが目障りだなと思って視線を逸らしたら同じようにニヤニヤしているアルフィオの顔があって結局エミリオは照れ隠しにパンを頬張った。
「でも婚約を破棄するにはそれなりの理由がいるでしょう。きっとわたしが一方的に悪いことにされてしまうと思う。いろんな理由をでっちあげてね。家族にも迷惑をかけてしまうわ。それは納得ができないの」
それは当然だろう。王子の婚約者であるクロエが無実の罪を着せられれば彼女の家族であるアルファーノ辺境伯家にも傷がつく。
それにジェラルドの性格を見越してこれから起こることをクロエは予想しているようだった。それはおそらくエミリオとアルフィオの考えていることと同じだろう。
アルフィオと一度視線を合わせてからエミリオはテーブルに身を乗り出した。周囲を確認して声をひそめる。
「実は俺に考えがあるんだけど」
「え、なになに?」
「考え……?」
リリアーナとクロエが釣られて身を乗り出す。アルフィオも耳を寄せてきたのでエミリオは三人にある計画を話した。
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