8 / 14
7話 嫌がらせの犯人は
しおりを挟む
リリアーナは学園でもクロエと行動を共にすることが多くなった。それは友人として意気投合したからでもあり、クロエが疑われないためでもあった。現婚約者と現在王子が熱を上げている令嬢が仲良く過ごしている光景に周囲は戸惑っていた。
「将来の王妃になるのだからいつも模範的な行動をしなくちゃいけないと思っていたの。常に冷静に……。だけどそうしていたら周囲から浮いてしまったのね。皆わたしの立場を知れば気を使って声をかけてくる人もいなかった。だから……友人ができてすごく嬉しいの。エミリオ、ありがとう」
「俺は何もしてないよ。むしろリリが迷惑かけてないか心配なくらい。まああいつは色んな意味で強いから頼っていいよ」
「最初に声をかけてくれたのはエミリオよ。リリとも仲良く慣れて嬉しいし、アルフィオ様とも面識はあったけどあんな風に気安く話したのは初めてなの。全部エミリオのおかげ」
放課後の図書室。委員会の仕事をしていたエミリオのところにクロエが借りていた本を返しにやってきたのだ。貴族の子女たちは習い事などもあり放課後に図書室の利用をすることは少ない。今日も図書室に生徒は少なくクロエがやってきたときにはエミリオしかいなかった。
最初は人形のように表情が変わらなかったけれど最近のクロエはふとはにかむように笑う。
可愛いな、とエミリオは思う。だけど彼女はジェラルドの婚約者なのだ。これからどうなるか不安しかないけれど今は何もできないのがもどかしい。
「あーもう! 鞄の中がぐっちゃぐちゃ!」
「リリ! どうしたんだ?」
「鞄の中のノートやら教科書をまたぼろぼろにされたらしい」
「一体誰が……」
図書室が急に騒がしくなる。リリアーナとアルフィオが一緒にやってきたのだ。ご機嫌斜めらしいリリアーナは鞄の中身をエミリオに見せた。たしかに教科書やノートがズタボロにされ内側にはインクで落書きまでされている。
「うわ! ひどいな」
「いい加減にしつこいわ。鞄の底に罠を仕掛けておいたけど、それもはずされてるし」
「あっぶな……トラバサミだ」
ドン引きしているアルフィオと一緒に除き込むと、小さなトラバサミがしかけられていた。犯人は指を挟まれた後むりやり罠を外した形跡がある。そして鞄の底にまでインクがべちゃりとついている。これは買い替えるしかないだろうとエミリオが顔を顰めて鞄の中ををあさっていたときに気がついた。鞄の内側のポケットに四角く折りたたんだ紙が入っていた。
「……なんだこれ」
「何か書いてあるわ。えっと……ひどい」
一緒に覗き込んだクロエが悲しそうな顔をする。そこには【学園から出て行け!】と書いてあった。自分のことは何を言われても表情を変えなかったけれど友人が傷つけられるのは許せないようだ。
リリアーナへの嫌がらせは相変わらず続いていて、段々と過激になっていく。それはリリアーナが平然としているからだ。さすがに最近はあまり一人にならないようにしろ、とエミリオは忠告していたしアルフィオも気にしてよくリリアーナの側にいてくれる。
すぐに飽きるだろうと考えていたのもあって教師たちにも報告はまだしていない。これ以上は教師や家族へ報告した方がいいかもしれない。
「どうしてこんなこと。リリは大丈夫?」
「うん、わたしは平気。だけどこれじゃあ鞄や教科書がいくつあっても足りないわ」
「…………」
「アル?」
メモを見てアルフィオがじっと黙り込んでいた。それに気がついてエミリオが声をかけるとはっとしたように顔を上げる。
「どうかしたのか?」
「いや……」
少し考えこむように俯いたアルフィオが図書室の少し離れた席で鞄の中身を出して掃除し始めた女子二人を確認してからエミリオに近づいた。
「あのメモの字、どこかで見たことがあると思ったんだ」
「誰の字だ?」
「バルド・デルネーリ。…デルネーリ伯爵家の次男でうちの兄貴の取り巻きの一人だ」
いつも腰ぎんちゃくのようにジェラルドに付き従っている上級生だ。
「バルドとは委員会が一緒だからな。書類で何度か見たことがある」
アルフィオは学級委員なのだ。バルドも上級生のクラスで学級委員をしているのだろう。ジェラルドの態度を見て、彼もアルフィオのことはあからさまに下に見てくるいけ好かない奴だとアルフィオは毒づいた。
アルフィオは第二王子であるが正妃の子ではなく外国から嫁いできた第二妃の子供だったため、ジェラルドは彼を軽んじているのだ。実際金髪に琥珀色の瞳のジェラルドと黒髪に琥珀色の瞳で外国人の血が濃い顔立ちのアルフィオは瞳の色以外似ても似つかない。
「それじゃあリリに嫌がらせしてた犯人は……ってちょっと待て。つまり」
ことの真相とおそらくこれから起こることに気がついたエミリオにアルフィオが頷いた。おそらく二人が考えていることは同じだ。
「将来の王妃になるのだからいつも模範的な行動をしなくちゃいけないと思っていたの。常に冷静に……。だけどそうしていたら周囲から浮いてしまったのね。皆わたしの立場を知れば気を使って声をかけてくる人もいなかった。だから……友人ができてすごく嬉しいの。エミリオ、ありがとう」
「俺は何もしてないよ。むしろリリが迷惑かけてないか心配なくらい。まああいつは色んな意味で強いから頼っていいよ」
「最初に声をかけてくれたのはエミリオよ。リリとも仲良く慣れて嬉しいし、アルフィオ様とも面識はあったけどあんな風に気安く話したのは初めてなの。全部エミリオのおかげ」
放課後の図書室。委員会の仕事をしていたエミリオのところにクロエが借りていた本を返しにやってきたのだ。貴族の子女たちは習い事などもあり放課後に図書室の利用をすることは少ない。今日も図書室に生徒は少なくクロエがやってきたときにはエミリオしかいなかった。
最初は人形のように表情が変わらなかったけれど最近のクロエはふとはにかむように笑う。
可愛いな、とエミリオは思う。だけど彼女はジェラルドの婚約者なのだ。これからどうなるか不安しかないけれど今は何もできないのがもどかしい。
「あーもう! 鞄の中がぐっちゃぐちゃ!」
「リリ! どうしたんだ?」
「鞄の中のノートやら教科書をまたぼろぼろにされたらしい」
「一体誰が……」
図書室が急に騒がしくなる。リリアーナとアルフィオが一緒にやってきたのだ。ご機嫌斜めらしいリリアーナは鞄の中身をエミリオに見せた。たしかに教科書やノートがズタボロにされ内側にはインクで落書きまでされている。
「うわ! ひどいな」
「いい加減にしつこいわ。鞄の底に罠を仕掛けておいたけど、それもはずされてるし」
「あっぶな……トラバサミだ」
ドン引きしているアルフィオと一緒に除き込むと、小さなトラバサミがしかけられていた。犯人は指を挟まれた後むりやり罠を外した形跡がある。そして鞄の底にまでインクがべちゃりとついている。これは買い替えるしかないだろうとエミリオが顔を顰めて鞄の中ををあさっていたときに気がついた。鞄の内側のポケットに四角く折りたたんだ紙が入っていた。
「……なんだこれ」
「何か書いてあるわ。えっと……ひどい」
一緒に覗き込んだクロエが悲しそうな顔をする。そこには【学園から出て行け!】と書いてあった。自分のことは何を言われても表情を変えなかったけれど友人が傷つけられるのは許せないようだ。
リリアーナへの嫌がらせは相変わらず続いていて、段々と過激になっていく。それはリリアーナが平然としているからだ。さすがに最近はあまり一人にならないようにしろ、とエミリオは忠告していたしアルフィオも気にしてよくリリアーナの側にいてくれる。
すぐに飽きるだろうと考えていたのもあって教師たちにも報告はまだしていない。これ以上は教師や家族へ報告した方がいいかもしれない。
「どうしてこんなこと。リリは大丈夫?」
「うん、わたしは平気。だけどこれじゃあ鞄や教科書がいくつあっても足りないわ」
「…………」
「アル?」
メモを見てアルフィオがじっと黙り込んでいた。それに気がついてエミリオが声をかけるとはっとしたように顔を上げる。
「どうかしたのか?」
「いや……」
少し考えこむように俯いたアルフィオが図書室の少し離れた席で鞄の中身を出して掃除し始めた女子二人を確認してからエミリオに近づいた。
「あのメモの字、どこかで見たことがあると思ったんだ」
「誰の字だ?」
「バルド・デルネーリ。…デルネーリ伯爵家の次男でうちの兄貴の取り巻きの一人だ」
いつも腰ぎんちゃくのようにジェラルドに付き従っている上級生だ。
「バルドとは委員会が一緒だからな。書類で何度か見たことがある」
アルフィオは学級委員なのだ。バルドも上級生のクラスで学級委員をしているのだろう。ジェラルドの態度を見て、彼もアルフィオのことはあからさまに下に見てくるいけ好かない奴だとアルフィオは毒づいた。
アルフィオは第二王子であるが正妃の子ではなく外国から嫁いできた第二妃の子供だったため、ジェラルドは彼を軽んじているのだ。実際金髪に琥珀色の瞳のジェラルドと黒髪に琥珀色の瞳で外国人の血が濃い顔立ちのアルフィオは瞳の色以外似ても似つかない。
「それじゃあリリに嫌がらせしてた犯人は……ってちょっと待て。つまり」
ことの真相とおそらくこれから起こることに気がついたエミリオにアルフィオが頷いた。おそらく二人が考えていることは同じだ。
21
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~
アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。
逆恨みをした侯爵令嬢たちの末路~せっかくのチャンスをふいにした結果~
柚木ゆず
恋愛
王立ラーサンルズ学院の生徒会メンバーである、侯爵令嬢パトリシアと侯爵令息ロベール。二人は同じく生徒会に籍を置く格下であり後輩のベルナデットが自分たちより支持されていることが許せず、ベルナデットが学院に居られなくなるよう徹底的に攻撃をすると宣告。調子に乗った罰としてたっぷり苦しめてやると、揃って口の端を吊り上げました。
「パトリシア様っ、ロベール様! おやめください!」
ですがそんな二人は、まだ知りません。
自分たちは、最初で最後のチャンスを逃してしまったことを。自分達は、最悪のタイミングで宣告してしまったということを――。
【完結】義母が斡旋した相手と婚約破棄することになりまして。~申し訳ありませんが、私は王子と結婚します~
西東友一
恋愛
義母と義理の姉妹と暮らしていた私。
義母も義姉も義妹も私をイジメてきて、雑用ばかりさせてきましたが、
結婚できる歳になったら、売り払われるように商人と結婚させられそうになったのですが・・・・・・
申し訳ありませんが、王子と結婚します。
※※
別の作品だと会話が多いのですが、今回は地の文を増やして一人の少女が心の中で感じたことを書くスタイルにしてみました。
ダイジェストっぽくなったような気もしますが、それも含めてコメントいただけるとありがたいです。
この作品だけ読むだけでも、嬉しいですが、他の作品を読んだり、お気に入りしていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。
私の婚約者を狙ってる令嬢から男をとっかえひっかえしてる売女と罵られました
ゆの
恋愛
「ユーリ様!!そこの女は色んな男をとっかえひっかえしてる売女ですのよ!!騙されないでくださいましっ!!」
国王の誕生日を祝う盛大なパーティの最中に、私の婚約者を狙ってる令嬢に思いっきり罵られました。
なにやら証拠があるようで…?
※投稿前に何度か読み直し、確認してはいるのですが誤字脱字がある場合がございます。その時は優しく教えて頂けると助かります(´˘`*)
※勢いで書き始めましたが。完結まで書き終えてあります。
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
みんなが嫌がる公爵と婚約させられましたが、結果イケメンに溺愛されています
中津田あこら
恋愛
家族にいじめられているサリーンは、勝手に婚約者を決められる。相手は動物実験をおこなっているだとか、冷徹で殺されそうになった人もいるとウワサのファウスト公爵だった。しかしファウストは人間よりも動物が好きな人で、同じく動物好きのサリーンを慕うようになる。動物から好かれるサリーンはファウスト公爵から信用も得て溺愛されるようになるのだった。
シナリオではヒロインと第一王子が引っ付くことになっているので、脇役の私はーー。
ちょこ
恋愛
婚約者はヒロインさんであるアリスを溺愛しているようです。
そもそもなぜゲームの悪役令嬢である私を婚約破棄したかというと、その原因はヒロインさんにあるようです。
詳しくは知りませんが、殿下たちの会話を盗み聞きした結果、そのように解釈できました。
では私がヒロインさんへ嫌がらせをしなければいいのではないでしょうか? ですが、彼女は事あるごとに私に噛みついてきています。
出会いがしらに「ちょっと顔がいいからって調子に乗るな」と怒鳴ったり、私への悪口を書いた紙をばら撒いていたりします。
当然ながらすべて回収、処分しております。
しかも彼女は自分が嫌がらせを受けていると吹聴して回っているようで、私への悪評はとどまるところを知りません。
まったく……困ったものですわ。
「アリス様っ」
私が登校していると、ヒロインさんが駆け寄ってきます。
「おはようございます」と私は挨拶をしましたが、彼女は私に恨みがましい視線を向けます。
「何の用ですか?」
「あんたって本当に性格悪いのね」
「意味が分かりませんわ」
何を根拠に私が性格が悪いと言っているのでしょうか。
「あんた、殿下たちに色目を使っているって本当なの?」
「色目も何も、私は王太子妃を目指しています。王太子殿下と親しくなるのは当然のことですわ」
「そんなものは愛じゃないわ! 男の愛っていうのはね、もっと情熱的なものなのよ!」
彼女の言葉に対して私は心の底から思います。
……何を言っているのでしょう?
「それはあなたの妄想でしょう?」
「違うわ! 本当はあんただって分かっているんでしょ!? 好きな人に振り向いて欲しくて意地悪をする。それが女の子なの! それを愛っていうのよ!」
「違いますわ」
「っ……!」
私は彼女を見つめます。
「あなたは人を愛するという言葉の意味をはき違えていますわ」
「……違うもん……あたしは間違ってないもん……」
ヒロインさんは涙を流し、走り去っていきました。
まったく……面倒な人だこと。
そんな面倒な人とは反対に、もう一人の攻略対象であるフレッド殿下は私にとても優しくしてくれます。
今日も学園への通学路を歩いていると、フレッド殿下が私を見つけて駆け寄ってきます。
「おはようアリス」
「おはようございます殿下」
フレッド殿下は私に手を伸ばします。
「学園までエスコートするよ」
「ありがとうございますわ」
私は彼の手を取り歩き出します。
こんな普通の女の子の日常を疑似体験できるなんて夢にも思いませんでしたわ。
このままずっと続けばいいのですが……どうやらそうはいかないみたいですわ。
私はある女子生徒を見ました。
彼女は私と目が合うと、逃げるように走り去ってしまいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる