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7話 嫌がらせの犯人は
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リリアーナは学園でもクロエと行動を共にすることが多くなった。それは友人として意気投合したからでもあり、クロエが疑われないためでもあった。現婚約者と現在王子が熱を上げている令嬢が仲良く過ごしている光景に周囲は戸惑っていた。
「将来の王妃になるのだからいつも模範的な行動をしなくちゃいけないと思っていたの。常に冷静に……。だけどそうしていたら周囲から浮いてしまったのね。皆わたしの立場を知れば気を使って声をかけてくる人もいなかった。だから……友人ができてすごく嬉しいの。エミリオ、ありがとう」
「俺は何もしてないよ。むしろリリが迷惑かけてないか心配なくらい。まああいつは色んな意味で強いから頼っていいよ」
「最初に声をかけてくれたのはエミリオよ。リリとも仲良く慣れて嬉しいし、アルフィオ様とも面識はあったけどあんな風に気安く話したのは初めてなの。全部エミリオのおかげ」
放課後の図書室。委員会の仕事をしていたエミリオのところにクロエが借りていた本を返しにやってきたのだ。貴族の子女たちは習い事などもあり放課後に図書室の利用をすることは少ない。今日も図書室に生徒は少なくクロエがやってきたときにはエミリオしかいなかった。
最初は人形のように表情が変わらなかったけれど最近のクロエはふとはにかむように笑う。
可愛いな、とエミリオは思う。だけど彼女はジェラルドの婚約者なのだ。これからどうなるか不安しかないけれど今は何もできないのがもどかしい。
「あーもう! 鞄の中がぐっちゃぐちゃ!」
「リリ! どうしたんだ?」
「鞄の中のノートやら教科書をまたぼろぼろにされたらしい」
「一体誰が……」
図書室が急に騒がしくなる。リリアーナとアルフィオが一緒にやってきたのだ。ご機嫌斜めらしいリリアーナは鞄の中身をエミリオに見せた。たしかに教科書やノートがズタボロにされ内側にはインクで落書きまでされている。
「うわ! ひどいな」
「いい加減にしつこいわ。鞄の底に罠を仕掛けておいたけど、それもはずされてるし」
「あっぶな……トラバサミだ」
ドン引きしているアルフィオと一緒に除き込むと、小さなトラバサミがしかけられていた。犯人は指を挟まれた後むりやり罠を外した形跡がある。そして鞄の底にまでインクがべちゃりとついている。これは買い替えるしかないだろうとエミリオが顔を顰めて鞄の中ををあさっていたときに気がついた。鞄の内側のポケットに四角く折りたたんだ紙が入っていた。
「……なんだこれ」
「何か書いてあるわ。えっと……ひどい」
一緒に覗き込んだクロエが悲しそうな顔をする。そこには【学園から出て行け!】と書いてあった。自分のことは何を言われても表情を変えなかったけれど友人が傷つけられるのは許せないようだ。
リリアーナへの嫌がらせは相変わらず続いていて、段々と過激になっていく。それはリリアーナが平然としているからだ。さすがに最近はあまり一人にならないようにしろ、とエミリオは忠告していたしアルフィオも気にしてよくリリアーナの側にいてくれる。
すぐに飽きるだろうと考えていたのもあって教師たちにも報告はまだしていない。これ以上は教師や家族へ報告した方がいいかもしれない。
「どうしてこんなこと。リリは大丈夫?」
「うん、わたしは平気。だけどこれじゃあ鞄や教科書がいくつあっても足りないわ」
「…………」
「アル?」
メモを見てアルフィオがじっと黙り込んでいた。それに気がついてエミリオが声をかけるとはっとしたように顔を上げる。
「どうかしたのか?」
「いや……」
少し考えこむように俯いたアルフィオが図書室の少し離れた席で鞄の中身を出して掃除し始めた女子二人を確認してからエミリオに近づいた。
「あのメモの字、どこかで見たことがあると思ったんだ」
「誰の字だ?」
「バルド・デルネーリ。…デルネーリ伯爵家の次男でうちの兄貴の取り巻きの一人だ」
いつも腰ぎんちゃくのようにジェラルドに付き従っている上級生だ。
「バルドとは委員会が一緒だからな。書類で何度か見たことがある」
アルフィオは学級委員なのだ。バルドも上級生のクラスで学級委員をしているのだろう。ジェラルドの態度を見て、彼もアルフィオのことはあからさまに下に見てくるいけ好かない奴だとアルフィオは毒づいた。
アルフィオは第二王子であるが正妃の子ではなく外国から嫁いできた第二妃の子供だったため、ジェラルドは彼を軽んじているのだ。実際金髪に琥珀色の瞳のジェラルドと黒髪に琥珀色の瞳で外国人の血が濃い顔立ちのアルフィオは瞳の色以外似ても似つかない。
「それじゃあリリに嫌がらせしてた犯人は……ってちょっと待て。つまり」
ことの真相とおそらくこれから起こることに気がついたエミリオにアルフィオが頷いた。おそらく二人が考えていることは同じだ。
「将来の王妃になるのだからいつも模範的な行動をしなくちゃいけないと思っていたの。常に冷静に……。だけどそうしていたら周囲から浮いてしまったのね。皆わたしの立場を知れば気を使って声をかけてくる人もいなかった。だから……友人ができてすごく嬉しいの。エミリオ、ありがとう」
「俺は何もしてないよ。むしろリリが迷惑かけてないか心配なくらい。まああいつは色んな意味で強いから頼っていいよ」
「最初に声をかけてくれたのはエミリオよ。リリとも仲良く慣れて嬉しいし、アルフィオ様とも面識はあったけどあんな風に気安く話したのは初めてなの。全部エミリオのおかげ」
放課後の図書室。委員会の仕事をしていたエミリオのところにクロエが借りていた本を返しにやってきたのだ。貴族の子女たちは習い事などもあり放課後に図書室の利用をすることは少ない。今日も図書室に生徒は少なくクロエがやってきたときにはエミリオしかいなかった。
最初は人形のように表情が変わらなかったけれど最近のクロエはふとはにかむように笑う。
可愛いな、とエミリオは思う。だけど彼女はジェラルドの婚約者なのだ。これからどうなるか不安しかないけれど今は何もできないのがもどかしい。
「あーもう! 鞄の中がぐっちゃぐちゃ!」
「リリ! どうしたんだ?」
「鞄の中のノートやら教科書をまたぼろぼろにされたらしい」
「一体誰が……」
図書室が急に騒がしくなる。リリアーナとアルフィオが一緒にやってきたのだ。ご機嫌斜めらしいリリアーナは鞄の中身をエミリオに見せた。たしかに教科書やノートがズタボロにされ内側にはインクで落書きまでされている。
「うわ! ひどいな」
「いい加減にしつこいわ。鞄の底に罠を仕掛けておいたけど、それもはずされてるし」
「あっぶな……トラバサミだ」
ドン引きしているアルフィオと一緒に除き込むと、小さなトラバサミがしかけられていた。犯人は指を挟まれた後むりやり罠を外した形跡がある。そして鞄の底にまでインクがべちゃりとついている。これは買い替えるしかないだろうとエミリオが顔を顰めて鞄の中ををあさっていたときに気がついた。鞄の内側のポケットに四角く折りたたんだ紙が入っていた。
「……なんだこれ」
「何か書いてあるわ。えっと……ひどい」
一緒に覗き込んだクロエが悲しそうな顔をする。そこには【学園から出て行け!】と書いてあった。自分のことは何を言われても表情を変えなかったけれど友人が傷つけられるのは許せないようだ。
リリアーナへの嫌がらせは相変わらず続いていて、段々と過激になっていく。それはリリアーナが平然としているからだ。さすがに最近はあまり一人にならないようにしろ、とエミリオは忠告していたしアルフィオも気にしてよくリリアーナの側にいてくれる。
すぐに飽きるだろうと考えていたのもあって教師たちにも報告はまだしていない。これ以上は教師や家族へ報告した方がいいかもしれない。
「どうしてこんなこと。リリは大丈夫?」
「うん、わたしは平気。だけどこれじゃあ鞄や教科書がいくつあっても足りないわ」
「…………」
「アル?」
メモを見てアルフィオがじっと黙り込んでいた。それに気がついてエミリオが声をかけるとはっとしたように顔を上げる。
「どうかしたのか?」
「いや……」
少し考えこむように俯いたアルフィオが図書室の少し離れた席で鞄の中身を出して掃除し始めた女子二人を確認してからエミリオに近づいた。
「あのメモの字、どこかで見たことがあると思ったんだ」
「誰の字だ?」
「バルド・デルネーリ。…デルネーリ伯爵家の次男でうちの兄貴の取り巻きの一人だ」
いつも腰ぎんちゃくのようにジェラルドに付き従っている上級生だ。
「バルドとは委員会が一緒だからな。書類で何度か見たことがある」
アルフィオは学級委員なのだ。バルドも上級生のクラスで学級委員をしているのだろう。ジェラルドの態度を見て、彼もアルフィオのことはあからさまに下に見てくるいけ好かない奴だとアルフィオは毒づいた。
アルフィオは第二王子であるが正妃の子ではなく外国から嫁いできた第二妃の子供だったため、ジェラルドは彼を軽んじているのだ。実際金髪に琥珀色の瞳のジェラルドと黒髪に琥珀色の瞳で外国人の血が濃い顔立ちのアルフィオは瞳の色以外似ても似つかない。
「それじゃあリリに嫌がらせしてた犯人は……ってちょっと待て。つまり」
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