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6話 お菓子作りとティータイム
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「いらっしゃいクロエ様! 隣のクラスだから話したことなかったよね。リリアーナです。リリって呼んでね」
「今日はお招きありがとうございます。それじゃあ、わたしのこともクロエと」
「うんよろしくねクロエ!」
すごい、秒で仲良くなってる。女の子同士だからなのかリリアーナだからなのかわからないが。オクタヴィア邸の玄関から二人は仲良く奥へと入っていった。取り残されたエミリオはアルフィオと一緒に呆気に取られて二人を見送っていた。
クロエを勢いで家に誘った日の夜、リリアーナに相談したらやたら食いつきが良かった。どうしてお昼を一緒に食べたのかとかいつ仲良くなったのかとか根掘り葉掘り聞かれた。そうは言っても知り合ってまだ間もないのだけど。そしてさすがに王子の婚約者を男一人でもてなすのはまずいだろうとリリアーナに付き合ってもらうことになったのだ。
そして男一人じゃ心細いと泣きついたのが幼馴染のアルフィオだった。最初はジェラルドの弟がいたら嫌だろうと及び腰だったけれどクロエは別に気にしていないと言った。
「……俺必要だったか?」
「安心しろ、俺にとって必要だった」
楽しそうな話声を聞きながらエミリオとアルフィオも歩き出す。目的地は屋敷の奥にある厨房だ。
今日は四人で茶会をするのだけれど、その茶請けの菓子を自分たちで作るのだ。
「今日はクッキーとマドレーヌを作るわよ」
「わたしにできるかしら。本当に厨房にも入ったことがなくて」
リリアーナにエプロンを結んでもらいながらクロエが不安そうに呟く。貴族の令嬢は普通そうだろう。リリアーナが特殊なのだ。そしてそれに付き合わされるエミリオも。
「エミリオやアルだってできるんだから大丈夫よ」
「まあ、男性もお料理を?」
「リリに付き合わされてね」
「そんなに難しいことじゃないよ」
弟のエミリオや幼馴染のアルフィオはリリアーナに付き合わされることに慣れっこだ。厳格な家庭であればこんなことはとんでもないと許してもらえなかっただろうが、オクタヴィア家の両親はわりと放任主義だった。だからこそリリアーナのような娘になったのだが。第二とはいえ王子まで巻き込んでも怒られないのはいいんだろうかとエミリオはたまに思うけれど。
リリアーナは何でも作るのが好きだが料理も好きだ。とても食べられたものじゃない毒のような料理を錬成することもあるが今日は普通にお菓子作りをするようだ。
「エミリオはその粉をふるって」
「わかった。この卵は?」
「こっちで泡立てる」
「あ、あのわたしは」
「じゃあクロエはこの型にバターを塗ってね」
慣れている三人はてきぱきと作業を始めるが、クロエ嬢はどうしていいかわからない。リリアーナが取り出したマドレーヌ用の貝型に一生懸命バターを塗っていた。
そのあとはアルフィオが泡立ててふわふわに膨らんだ卵液に小麦粉や砂糖を混ぜてレモンの皮も少しだけ削って混ぜた。こぼさないように型に流し込んでオーブンに入れてようやくクロエは一息ついた。
「おつかれさまクロエ。少し紅茶でも飲んで休みましょう」
「ええ、ありがとう。お菓子作りって楽しいのね」
「クロエは手際がいいよね」
「エミリオはその粉まみれの顔を何とかしてきた方がいいんじゃないか?」
アルフィオの言葉に驚いて鏡を見たら頬と鼻に白い粉がついていた。振り返ったらくすくすとクロエが笑っている。恥ずかしくて頬が赤くなるのを感じながらエミリオは布巾で顔を拭いた。
「もっと早く教えてくれよ!」
「ごめんなさい、エミリオが真剣だったから」
まあ、別にクロエが楽しそうだからいいけどとエミリオは口を尖らせた。
その後焼きあがったマドレーヌは大成功でクロエはとても感激していた。最初は緊張していたけれどリリアーナともすっかり打ち解けたようだった。
「だからね、わたし本当にまったく覚えがなくてびっくりしたのよ」
「ええ!? エミリオが女装……?」
「誤解しないでくれ! あれはリリに無理やりさせられたんだ!」
「そもそも兄貴はリリアーナの顔は知ってたけど変わり者の女だって眼中にはなかったんだよな。だけどエミリオが代理で出た茶会で思ったより上品で可愛らしいって……」
「やっぱりエミリオのせいじゃない!」
「ふ……ふふ……」
クロエが堪えきれないという風に笑いだしたので騒いでいた三人がぴたりと止まる。
エミリオは女装がばれたことで恥ずかしさもあって真っ赤だけれど。
「なんだかすごく楽しい……」
これがきっと本来のクロエなんだろう。笑いすぎて頬には赤みが差し紫水晶の瞳も潤んでいる。本当に幸せそうな笑顔にエミリオとリリアーナとアルフィオは顔を見合わせて笑ったのだった。
「今日はお招きありがとうございます。それじゃあ、わたしのこともクロエと」
「うんよろしくねクロエ!」
すごい、秒で仲良くなってる。女の子同士だからなのかリリアーナだからなのかわからないが。オクタヴィア邸の玄関から二人は仲良く奥へと入っていった。取り残されたエミリオはアルフィオと一緒に呆気に取られて二人を見送っていた。
クロエを勢いで家に誘った日の夜、リリアーナに相談したらやたら食いつきが良かった。どうしてお昼を一緒に食べたのかとかいつ仲良くなったのかとか根掘り葉掘り聞かれた。そうは言っても知り合ってまだ間もないのだけど。そしてさすがに王子の婚約者を男一人でもてなすのはまずいだろうとリリアーナに付き合ってもらうことになったのだ。
そして男一人じゃ心細いと泣きついたのが幼馴染のアルフィオだった。最初はジェラルドの弟がいたら嫌だろうと及び腰だったけれどクロエは別に気にしていないと言った。
「……俺必要だったか?」
「安心しろ、俺にとって必要だった」
楽しそうな話声を聞きながらエミリオとアルフィオも歩き出す。目的地は屋敷の奥にある厨房だ。
今日は四人で茶会をするのだけれど、その茶請けの菓子を自分たちで作るのだ。
「今日はクッキーとマドレーヌを作るわよ」
「わたしにできるかしら。本当に厨房にも入ったことがなくて」
リリアーナにエプロンを結んでもらいながらクロエが不安そうに呟く。貴族の令嬢は普通そうだろう。リリアーナが特殊なのだ。そしてそれに付き合わされるエミリオも。
「エミリオやアルだってできるんだから大丈夫よ」
「まあ、男性もお料理を?」
「リリに付き合わされてね」
「そんなに難しいことじゃないよ」
弟のエミリオや幼馴染のアルフィオはリリアーナに付き合わされることに慣れっこだ。厳格な家庭であればこんなことはとんでもないと許してもらえなかっただろうが、オクタヴィア家の両親はわりと放任主義だった。だからこそリリアーナのような娘になったのだが。第二とはいえ王子まで巻き込んでも怒られないのはいいんだろうかとエミリオはたまに思うけれど。
リリアーナは何でも作るのが好きだが料理も好きだ。とても食べられたものじゃない毒のような料理を錬成することもあるが今日は普通にお菓子作りをするようだ。
「エミリオはその粉をふるって」
「わかった。この卵は?」
「こっちで泡立てる」
「あ、あのわたしは」
「じゃあクロエはこの型にバターを塗ってね」
慣れている三人はてきぱきと作業を始めるが、クロエ嬢はどうしていいかわからない。リリアーナが取り出したマドレーヌ用の貝型に一生懸命バターを塗っていた。
そのあとはアルフィオが泡立ててふわふわに膨らんだ卵液に小麦粉や砂糖を混ぜてレモンの皮も少しだけ削って混ぜた。こぼさないように型に流し込んでオーブンに入れてようやくクロエは一息ついた。
「おつかれさまクロエ。少し紅茶でも飲んで休みましょう」
「ええ、ありがとう。お菓子作りって楽しいのね」
「クロエは手際がいいよね」
「エミリオはその粉まみれの顔を何とかしてきた方がいいんじゃないか?」
アルフィオの言葉に驚いて鏡を見たら頬と鼻に白い粉がついていた。振り返ったらくすくすとクロエが笑っている。恥ずかしくて頬が赤くなるのを感じながらエミリオは布巾で顔を拭いた。
「もっと早く教えてくれよ!」
「ごめんなさい、エミリオが真剣だったから」
まあ、別にクロエが楽しそうだからいいけどとエミリオは口を尖らせた。
その後焼きあがったマドレーヌは大成功でクロエはとても感激していた。最初は緊張していたけれどリリアーナともすっかり打ち解けたようだった。
「だからね、わたし本当にまったく覚えがなくてびっくりしたのよ」
「ええ!? エミリオが女装……?」
「誤解しないでくれ! あれはリリに無理やりさせられたんだ!」
「そもそも兄貴はリリアーナの顔は知ってたけど変わり者の女だって眼中にはなかったんだよな。だけどエミリオが代理で出た茶会で思ったより上品で可愛らしいって……」
「やっぱりエミリオのせいじゃない!」
「ふ……ふふ……」
クロエが堪えきれないという風に笑いだしたので騒いでいた三人がぴたりと止まる。
エミリオは女装がばれたことで恥ずかしさもあって真っ赤だけれど。
「なんだかすごく楽しい……」
これがきっと本来のクロエなんだろう。笑いすぎて頬には赤みが差し紫水晶の瞳も潤んでいる。本当に幸せそうな笑顔にエミリオとリリアーナとアルフィオは顔を見合わせて笑ったのだった。
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