上 下
7 / 14

6話 お菓子作りとティータイム

しおりを挟む
「いらっしゃいクロエ様! 隣のクラスだから話したことなかったよね。リリアーナです。リリって呼んでね」
「今日はお招きありがとうございます。それじゃあ、わたしのこともクロエと」
「うんよろしくねクロエ!」

 すごい、秒で仲良くなってる。女の子同士だからなのかリリアーナだからなのかわからないが。オクタヴィア邸の玄関から二人は仲良く奥へと入っていった。取り残されたエミリオはアルフィオと一緒に呆気に取られて二人を見送っていた。
 クロエを勢いで家に誘った日の夜、リリアーナに相談したらやたら食いつきが良かった。どうしてお昼を一緒に食べたのかとかいつ仲良くなったのかとか根掘り葉掘り聞かれた。そうは言っても知り合ってまだ間もないのだけど。そしてさすがに王子の婚約者を男一人でもてなすのはまずいだろうとリリアーナに付き合ってもらうことになったのだ。
 そして男一人じゃ心細いと泣きついたのが幼馴染のアルフィオだった。最初はジェラルドの弟がいたら嫌だろうと及び腰だったけれどクロエは別に気にしていないと言った。

「……俺必要だったか?」
「安心しろ、俺にとって必要だった」

 楽しそうな話声を聞きながらエミリオとアルフィオも歩き出す。目的地は屋敷の奥にある厨房だ。
 今日は四人で茶会をするのだけれど、その茶請けの菓子を自分たちで作るのだ。

「今日はクッキーとマドレーヌを作るわよ」
「わたしにできるかしら。本当に厨房にも入ったことがなくて」

 リリアーナにエプロンを結んでもらいながらクロエが不安そうに呟く。貴族の令嬢は普通そうだろう。リリアーナが特殊なのだ。そしてそれに付き合わされるエミリオも。

「エミリオやアルだってできるんだから大丈夫よ」
「まあ、男性もお料理を?」
「リリに付き合わされてね」
「そんなに難しいことじゃないよ」

 弟のエミリオや幼馴染のアルフィオはリリアーナに付き合わされることに慣れっこだ。厳格な家庭であればこんなことはとんでもないと許してもらえなかっただろうが、オクタヴィア家の両親はわりと放任主義だった。だからこそリリアーナのような娘になったのだが。第二とはいえ王子まで巻き込んでも怒られないのはいいんだろうかとエミリオはたまに思うけれど。
 リリアーナは何でも作るのが好きだが料理も好きだ。とても食べられたものじゃない毒のような料理を錬成することもあるが今日は普通にお菓子作りをするようだ。

「エミリオはその粉をふるって」
「わかった。この卵は?」
「こっちで泡立てる」
「あ、あのわたしは」
「じゃあクロエはこの型にバターを塗ってね」

 慣れている三人はてきぱきと作業を始めるが、クロエ嬢はどうしていいかわからない。リリアーナが取り出したマドレーヌ用の貝型に一生懸命バターを塗っていた。
 そのあとはアルフィオが泡立ててふわふわに膨らんだ卵液に小麦粉や砂糖を混ぜてレモンの皮も少しだけ削って混ぜた。こぼさないように型に流し込んでオーブンに入れてようやくクロエは一息ついた。

「おつかれさまクロエ。少し紅茶でも飲んで休みましょう」
「ええ、ありがとう。お菓子作りって楽しいのね」
「クロエは手際がいいよね」
「エミリオはその粉まみれの顔を何とかしてきた方がいいんじゃないか?」

 アルフィオの言葉に驚いて鏡を見たら頬と鼻に白い粉がついていた。振り返ったらくすくすとクロエが笑っている。恥ずかしくて頬が赤くなるのを感じながらエミリオは布巾で顔を拭いた。

「もっと早く教えてくれよ!」
「ごめんなさい、エミリオが真剣だったから」

 まあ、別にクロエが楽しそうだからいいけどとエミリオは口を尖らせた。
 その後焼きあがったマドレーヌは大成功でクロエはとても感激していた。最初は緊張していたけれどリリアーナともすっかり打ち解けたようだった。

「だからね、わたし本当にまったく覚えがなくてびっくりしたのよ」
「ええ!? エミリオが女装……?」
「誤解しないでくれ! あれはリリに無理やりさせられたんだ!」
「そもそも兄貴はリリアーナの顔は知ってたけど変わり者の女だって眼中にはなかったんだよな。だけどエミリオが代理で出た茶会で思ったより上品で可愛らしいって……」
「やっぱりエミリオのせいじゃない!」
「ふ……ふふ……」

 クロエが堪えきれないという風に笑いだしたので騒いでいた三人がぴたりと止まる。
 エミリオは女装がばれたことで恥ずかしさもあって真っ赤だけれど。

「なんだかすごく楽しい……」

 これがきっと本来のクロエなんだろう。笑いすぎて頬には赤みが差し紫水晶の瞳も潤んでいる。本当に幸せそうな笑顔にエミリオとリリアーナとアルフィオは顔を見合わせて笑ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

自宅が全焼して女神様と同居する事になりました

皐月 遊
恋愛
如月陽太(きさらぎようた)は、地元を離れてごく普通に学園生活を送っていた。 そんなある日、公園で傘もささずに雨に濡れている同じ学校の生徒、柊渚咲(ひいらぎなぎさ)と出会う。 シャワーを貸そうと自宅へ行くと、なんとそこには黒煙が上がっていた。 「…貴方が住んでるアパートってあれですか?」 「…あぁ…絶賛燃えてる最中だな」 これは、そんな陽太の不幸から始まった、素直になれない2人の物語。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。 守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。 だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。 それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。

愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?

海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。 「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。 「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。 「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。

義母の秘密、ばらしてしまいます!

四季
恋愛
私の母は、私がまだ小さい頃に、病気によって亡くなってしまった。 それによって落ち込んでいた父の前に現れた一人の女性は、父を励まし、いつしか親しくなっていて。気づけば彼女は、私の義母になっていた。 けれど、彼女には、秘密があって……?

処理中です...