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5話 気になる女の子
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その言葉通り翌日からもクロエは淡々と学園で過ごしていた。
初めて彼女を意識してエミリオは気づいたのだけれど、クロエはいつも一人だった。いつも物静かできちんと授業を受け放課後は妃教育があるからと早めに下校する。リリアーナに聞けば彼女とはクラスが違うから話したことない、という情報しかなかったけれどおそらく彼女が婚約者であることで学園では浮いているんだろうなとエミリオは感じていた。
「クロエ嬢、一人でお昼?」
「エミリオ様……」
ある日の昼下がり、食堂へ向かう途中に庭園の片隅でバスケットを広げているクロエを見かけたエミリオは思い切って声をかけてみた。
「エミリオでいいよ」
「じゃあわたしもクロエで。いつもは食堂でお昼はとるんですけれど、少し気分を変えたくて」
ああ、とエミリオは苦笑いした。
最近食堂ではジェラルドがリリアーナにまとわりついていることが多い。もちろんリリアーナはまったく相手にしていないのだが。そんなところで食べる食事が美味しいわけがない。
「俺も今日は家からお弁当持ってきたんだ。隣いい?」
「……どうぞ」
一瞬きょとんとした顔でクロエは頷いた。嫌がられるかなと思ったけれどそんなことはなかったようで内心エミリオはほっとした。なんとなくクロエはいつも寂しそうに見えたのだ。単なるエミリオの思い違いかもしれないが放っておけなかった。
「今日はオムライスなんだって。はあお腹減った……ああ!?」
「え……まあ!」
エミリオがぱかりと蓋を開けるとそこには黄色い薄焼卵に覆われたオムライスが入っていた。しかも海苔で目を象り、不格好な人参で作った大きめの嘴がなんともまぬけで愛嬌があるひよこのオムライスだ。しかも脇にはタコさんとカニさんのウィンナーがちょこんと載っている。まるで子供用のお弁当だ。
「り、リリだな!? あいつはもう~!」
「ふ、ふふふ、……と、とっても可愛らしいです」
「え?」
弁当自体は使用人が作ったものだろうがそれに手を加えていたずらしたのは間違いなくリリアーナだ。可愛すぎるお弁当に顔を赤くしていたら、隣から笑い声がきこえてきた。クロエが目じりを下げてこらえきれないという風に笑っていたのだ。
「食事がこんなに可愛らしくなるなんて……」
「ああ、これはたぶんリリがやったんだよ。あいつはとにかく色々作るのが好きだからさ……」
「まあ、料理をなさるのですか?」
「するよ、変なのから美味しいのまで色々ね。工作とか裁縫も好きだし。料理ならお菓子作りもするよ」
「すごいですね。わたしは料理はしたことがなくて」
もともと綺麗な顔立ちだけれど笑うとこんなに可愛いのか。リリアーナがいるから女の子にはわりと慣れているつもりだったけれど妙に胸が騒いで落ち着かない。
もっと笑った顔が見たいなあ。
そう思った時には自然とエミリオは口を開いていた。
「あのさ、もし良ければうちに遊びに来ない?」
「え……?」
ぱちりと真顔に戻ったクロエに見つめられ、慌てて誤魔化すようにエミリオは両手を振った。
「あーその、うちだったら気にせず厨房が使えるしさ。お菓子作りとかリリアーナもいるから! 一緒にどうかなと思って」
ああでもジェラルドと噂になっているリリアーナがいたらさすがに嫌だろうか。
口に出してからちらりと思ったけれどクロエは意外にも頷いてくれた。
初めて彼女を意識してエミリオは気づいたのだけれど、クロエはいつも一人だった。いつも物静かできちんと授業を受け放課後は妃教育があるからと早めに下校する。リリアーナに聞けば彼女とはクラスが違うから話したことない、という情報しかなかったけれどおそらく彼女が婚約者であることで学園では浮いているんだろうなとエミリオは感じていた。
「クロエ嬢、一人でお昼?」
「エミリオ様……」
ある日の昼下がり、食堂へ向かう途中に庭園の片隅でバスケットを広げているクロエを見かけたエミリオは思い切って声をかけてみた。
「エミリオでいいよ」
「じゃあわたしもクロエで。いつもは食堂でお昼はとるんですけれど、少し気分を変えたくて」
ああ、とエミリオは苦笑いした。
最近食堂ではジェラルドがリリアーナにまとわりついていることが多い。もちろんリリアーナはまったく相手にしていないのだが。そんなところで食べる食事が美味しいわけがない。
「俺も今日は家からお弁当持ってきたんだ。隣いい?」
「……どうぞ」
一瞬きょとんとした顔でクロエは頷いた。嫌がられるかなと思ったけれどそんなことはなかったようで内心エミリオはほっとした。なんとなくクロエはいつも寂しそうに見えたのだ。単なるエミリオの思い違いかもしれないが放っておけなかった。
「今日はオムライスなんだって。はあお腹減った……ああ!?」
「え……まあ!」
エミリオがぱかりと蓋を開けるとそこには黄色い薄焼卵に覆われたオムライスが入っていた。しかも海苔で目を象り、不格好な人参で作った大きめの嘴がなんともまぬけで愛嬌があるひよこのオムライスだ。しかも脇にはタコさんとカニさんのウィンナーがちょこんと載っている。まるで子供用のお弁当だ。
「り、リリだな!? あいつはもう~!」
「ふ、ふふふ、……と、とっても可愛らしいです」
「え?」
弁当自体は使用人が作ったものだろうがそれに手を加えていたずらしたのは間違いなくリリアーナだ。可愛すぎるお弁当に顔を赤くしていたら、隣から笑い声がきこえてきた。クロエが目じりを下げてこらえきれないという風に笑っていたのだ。
「食事がこんなに可愛らしくなるなんて……」
「ああ、これはたぶんリリがやったんだよ。あいつはとにかく色々作るのが好きだからさ……」
「まあ、料理をなさるのですか?」
「するよ、変なのから美味しいのまで色々ね。工作とか裁縫も好きだし。料理ならお菓子作りもするよ」
「すごいですね。わたしは料理はしたことがなくて」
もともと綺麗な顔立ちだけれど笑うとこんなに可愛いのか。リリアーナがいるから女の子にはわりと慣れているつもりだったけれど妙に胸が騒いで落ち着かない。
もっと笑った顔が見たいなあ。
そう思った時には自然とエミリオは口を開いていた。
「あのさ、もし良ければうちに遊びに来ない?」
「え……?」
ぱちりと真顔に戻ったクロエに見つめられ、慌てて誤魔化すようにエミリオは両手を振った。
「あーその、うちだったら気にせず厨房が使えるしさ。お菓子作りとかリリアーナもいるから! 一緒にどうかなと思って」
ああでもジェラルドと噂になっているリリアーナがいたらさすがに嫌だろうか。
口に出してからちらりと思ったけれどクロエは意外にも頷いてくれた。
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