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2話 王子の婚約者

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「おはようリリアーナ嬢。今日も美しいな」
「おはようございますジェラルド殿下」

 エミリオ達が在学している王立学園に登校すると、玄関できらきらとした光の粒を纏わせたジェラルドがリリアーナの前に飛び出してきた。リリアーナは機械的に挨拶をして視線すら合わさず王子の前を通り過ぎる。慌ててジェラルドがリリアーナを追っていった。

「よかったら今日の放課後一緒にカフェでお茶でもどうかな? 最近学園の女生徒に人気の喫茶店を予約して」
「大変申し訳ありませんが本日は予定が入っておりますので」
「それなら明日はどうかな?」
「明日は踊りのお稽古がありますので」

 すたすたと早歩きで廊下を進んでいくリリアーナに必死にジェラルドがついていく。ちなみに一緒に登校したエミリオにはまったく気づいていないらしい。

「あの人は何をしてるんだ?」
「あ、おはようアル」
「おはようエミリオ」

 エミリオに声をかけてきたのは短い黒髪に琥珀色の瞳のエキゾチックな少年だった。アルフィオ・セスト・リヴァルト。この国の第二王子でジェラルド王子の弟だ。そしてエミリオとリリアーナの幼馴染で友人でもある。

「実はリリアーナが王子に目をつけられちゃったみたいでさ」
「はあ? なんだそれ……ってクロエ嬢が見てるじゃないか。まったくあいつ」

 目を丸くしたアルフィオが眉をひそめて視線を向けた先には一人の少女がいた。ジェラルドは彼女に気づかずリリアーナに話しかけている。
 銀に近い色素の薄いまっすぐな金髪に紫水晶のような瞳の華奢な女生徒だ。男子と女子はクラスが分かれているから話したことは無いが見かけたことはある。

「えっと、たしかアルファーノ辺境伯のところの……」
「クロエ・アルファーノ嬢。彼女が兄貴の婚約者だ」

 クロエはちらりとジェラルドを見たけれど特に表情も変えずにさっさと教室に入ってしまった。思わずエミリオは不機嫌な顔になる。

「正式に婚約者がいるのにリリにまで手を出そうっていうのか? お前の兄ちゃんだけど呆れた奴だな」
「昔から身勝手で我儘な奴だからな。王位継承者だからとちやほやされすぎたんだ」

 深いため息を一度吐いてアルフィオが呟いた。
 ジェラルドとクロエは二人が三つにもならない頃に両家によって婚約が決まったらしい。特に不仲というわけでもなかったが第一王子として正妃や周囲の人々に可愛がられて増長したジェラルドは年頃になるにつれ他の女性に興味を持ち始めたらしい。
 そして同じ学園に通いながらもクロエはまったく相手にされていなかった。エミリオが彼女が王子の婚約者だと知らなかったのもそのためだ。クロエは将来の王妃として教育を受けているらしいのだがジェラルドは彼女をまるで見えないもののように扱っていた。
 そしてクロエは淡々としかし真面目に学園生活を送っているようだった。
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