究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第90話 『メイドたちの午後』

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 今日で探索も六日目だ。
オークが飼っていたレッドボアの肉を手に入れたり、6区の密林地帯で果物をたくさん採集できたので食料には困っていない。
特に密林ではバナナ、マンゴー、パパイヤ、パイナップル、ヤム芋、などが手に入ってかなり嬉しい。
トロピカルフルーツなんて地球にいた頃以来だから本当に久しぶりだよ。
 今日から帰還を開始するが、帰りに5区によって五層への階段を下りておこうという話になった。
第五階層に到達すれば俺たちは晴れて全員第6位階の冒険者になる。
そうすればギルドから第五階層の小部屋の鍵が貰えるのだ。
鍵が貰えた小部屋はパーティーの持ち物として私有化が認められている。
五層の小部屋は迷宮内におけるパーティーの中継基地であり、一流冒険者としてのステータスの証だ。

 幅10m以上はある階段を転ばないように慎重に降りる。
先行するスパイ君の情報だと、深さ150mほどで5層に到達するそうだ。
他の階段に比べてやけに短い。
5層は植物園や密林エリアのような広いエリアがなく天井も低いのだろう。
直線の階段に魔物の姿はない。少しだけ緊張を解いてゴブに話しかけた。
「ゴブ、ボディーに異常はないか?」
「はいマスター。すべて順調です」
ゴブが喋れるようになったのが嬉しくて、ついつい用もないのに話しかけてしまう。
「何か欲しいものはあるか? できることなら叶えてやるぞ」
俺ってば子供ができたら甘やかしちゃうタイプかしら? 
俺の問いかけにゴブはしばし考え込む。
「マスター、私は文字を覚えたいです」
「なるほど。それはいい。文字を覚えれば本が読める。本が読めれば知識が深まる」
「はい。マスターがお持ちの官能小説を読むことが私の夢であります」
……なんだと?
「以前マスターがパティー様に見つかって大恥をかかれた『メイドたちの午後』という小説でございます」
あれは気まずかった。
パティーもエロ小説とわかっていて無視してくれたからよかったけどね。
だけどなんで字の読めないゴブがあれのタイトルを知っているのだ?
「実はマスターがお茶を淹れにお部屋を出ている間、パティー様がそれを読んでくださいました。パティー様も大変興味がおありだったようで」
はい!?
「私に小説の一部を読んでくださいまして、『ねえゴブ、男の人はこんな行為に興味があるの?』とご質問されました」
俺の知らないところでそんなイベントが起こっていたのか!
「私は『当然でございます』とお答えしました。もっとも当時は『うが』としか言えませんでしたが」
どんな行為だよ? 
「そうか、パティーも読んでいたか……」
「はい。それはもうご熱心に。特に主人公の陰茎をメイドのメリッサがく――」
「あ! あの……、そういった会話はプライベートなお時間にでも……」
マリアの声がゴブの言葉を遮ぎった。
しまった。
ヘッドセットのマイクがゴブの声を皆に届けているよ。
「チッ……マリアめ……余計なことを」
今のはボニーさんだな。
ん? 
プライベート通信?
「どうしましたかボニーさん?」
緊急事態だろうか? 
俺は小声でボニーさんからのコールに返事をする。
「イッペイ……今度貸して」
読みたいんですね。
わかりました『続 メイドたちの午後』もお付けします。

 ほどなく第五階層へ到着する。
階段を下り切った先は、どこかの城や神殿のような明るい色の石を使ったエントランスのようだ。
天井からはシャンデリアが下がり辺りを煌々と照らしている。
「せっかく来たんだ。少しだけでも探索していこうぜ」
ジャンの言葉に皆が頷く。
五層の様子を見るためにも2時間くらい周辺を見て回ってから、戻ってもいいだろう。

 五層の1区にいたのはゾンビナイトと呼ばれるフルプレートを装備したゾンビだ。
動きは鈍のろいのだが分厚いカイトシールドも装備している。
ライフルの弾はカイトシールドを貫通するのだが、その分破壊力は失われる。
よく狙って、鉄兜の目の部分の隙間から頭部へ命中させるのが一番効率の良い倒し方だ。
ボニーさんはゾンビナイトの懐に飛び込み、至近距離から頭部に弾を打ち込んでいた。
ジャンも真似している。
俺にはとてもできない芸当だ。
だが、ここで一番活躍したのはマリアだった。
敵の動きが遅いうえ、相手はナイトとは言えアンデットのゾンビだ。
神聖魔法がやたらと効く。
範囲殲滅型の神聖魔法で一気にゾンビナイトを昇天させていた。
今回ゴブはお休みだ。
ゴブのアンチマテリアルライフルはゾンビナイトの装甲だって簡単に貫けるが、如何せんコストパフォーマンスが悪すぎる。
俺が破産してしまうので使用は禁止しておいた。
 五層は狩場として悪くない。
ゾンビナイトは良質の鋼で出来たカイトシールドをドロップするので銃弾の補充に困らない。
わざわざ小部屋の鉄扉を溶かさなくて済むのだ。
しばらく探索を続け、戦闘の手ごたえを感じてから俺たちは上層へ戻った。

 二日後、地上に出た俺たちは買取を済ませてギルドの事務所へ行った。
もちろん第五階層の小部屋を貰う手続きをするためだ。
職員は俺たちに賛辞を述べてから地図を開いて空き部屋を見せてくれた。
ギルドにとっても五層にたどり着けるパーティーは貴重であり、それなりに大切に扱うようだ。
 地図を見ると水場である噴水広場がある5区と、下り階段がある4区の人気が高い。
第五層は1区から4区へ抜けることができない。
だから幹線道路は1→2→5→6と繋がっている。
基本的にこの幹線道路沿いの部屋はほとんど空きがない。
3区と6区は入口からも下り階段へも遠いので人気がない。
その代わり一つ一つの部屋は大きくて、少し豪華になっているらしい。
「ボニーさんのお勧めはどこですか?」
ボニーさんがかつて所属していたパーティーは5区に小部屋を持っていたそうだ。
「3区と6区の部屋……お風呂がついてる」
な、なんですと! 
探索の間は毎晩俺の生活魔法でみんなを綺麗にしているが、お風呂に入るというのはまた別の快楽だ。
言い忘れたがこの世界には湯船に入るお風呂は富裕層にしか浸透していない。
庶民はお風呂場で桶に湯をいれて体にかけたり、拭いたりするだけだ。
当然俺のアパートにも湯船はついていない。
風呂は捨てがたいな。
「部屋の広さは3区や6区の方が広いみたいですがどのくらい違うのですか?」
俺はギルドのお姉さんに聞いてみる。
「1、2、4、5、は50㎡強くらいで二間という造りが多いですね。それに対して3,6は100㎡以上の広さで、三間という造りが多いです。これは100年以上前のギルド長が迷宮妖精《ラビリンスフェアリー》に掛け合ってそういう構造にしてもらったらしいですよ」
人気が集中する区画の間取りを小さくして、その分たくさんのパーティーに割譲かつじょうしたのだな。
第五階層の全ての部屋が私室として使えるわけではない。
迷宮妖精との古い盟約で特定の場所にある120室だけが占有を認められているそうだ。
この120室だけが特別に物を置いておいても迷宮に取り込まれることはない。
その内、持ち主が決まっている部屋は72室。
つまり第五階層に到達しているパーティーは72組しかいないということだ。
 俺たちは簡単な話し合いの末、3区の入口付近の部屋をもらい受けることにした。
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