究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第85話 迷宮妖精

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 銃を使う限り戦闘では大量の弾丸が消費される。
当たり前だよな。
だが、迷宮に運び込むことができる荷物には限りがある。
だから俺は迷宮の小部屋の鉄扉を流用する。
素材錬成で扉を溶かして弾丸にするわけだ。
使用した扉は二日もすれば直っている。
不思議なものだ。
「イッペイさんこっちのマガジンの弾込め終わりました」
「ありがとうクロ。新しい弾丸を作ったからこっちも頼む」
六人でアサルトライフルを使っていると300発くらいの弾なんてすぐになくなってしまう。
使い始めたのが自分だから文句は言えないけどね。

 探索も三日目に入り、俺たちは第四階層の2区まで来ている。
四層に来てから探索スピードを大幅に落として狩りに専念し、レベルアップを敢行中《かんこうちゅう》だ。
戦闘指揮はボニーさんが執ることになったが、スパイ君は変わらず運用している。
今もまた先行するスパイ君が何かを見つけて情報を送ってきた。
ミスリル板に投影された映像には二体のフェアリーが映っている。
身長はだいたい30cmくらい。
背中には4枚の羽根が生えており、薄いベールのような衣を身に着けていた。
一人は少女のようであり、もう一人はお爺さんのような顔をして白いあごひげを生やしている。
スパイ君の高性能集音マイクが二人の声を拾っていた。

「腹減ったのぉ」
「そうね。レッドボアの丸焼きが食べられるほどお腹が減ったわ」
通路の真ん中に座って何をしているのだろう?
「こんなところで待っていても冒険者など来ないぞ。いっそ上の階層へ行かんか?」
「ダメよ。担当区域を離れるのは厳禁でしょ。私より長く生きてるくせに知らないの? それとも忘れたの? 痴呆《ちほう》?」
「年寄りの愚痴じゃないか。ディナシーは口が悪いな」
「オットーは口が臭いわ」
二人はその後も空腹について延々としゃべっている。
通りがかりの冒険者に食べ物を恵んでもらおうとしているようだ。

「なんなのあれ?」
俺の質問に答えてくれたのはマリアだった。
「おそらく迷宮妖精《ラビリンスフェアリー》ですね。迷宮の保守点検を使命とする妖精です。魔物ではなく邪悪な存在でもありません」
そういえば、迷宮妖精《ラビリンスフェアリー》は迷宮運営には欠かせない存在として保護対象であり、むやみに攻撃してはけないとギルド配布の迷宮手引書にも書いてあったな。
「たしか冒険者にとって、迷宮妖精に会うことは非常に縁起のいいことだとされていますよ」
「じゃあどうする?」
「お腹が空いているようですから食料を分けてあげて、通り過ぎればよいのではないでしょうか」
確かに腹を減らした奴を放っておくのはしのびないよな。
マリアのいうことはもっともだったので、警戒は解かずに俺たちは迷宮妖精のところまで進んだ。
「こんにちは」
コミュニケーションの基本は挨拶だよね。
「よい探索日和たんさくびよりじゃな冒険者たち!」
探索日和? 
迷宮に天気があるのだろうか。
よくわからんが攻撃の意思はなさそうだ。
爺さん妖精は笑顔で俺の挨拶に答えてくれた。
「食べ物下さい」
女の子の方はやけにストレートだ。
当初は食料だけを置いてさっさと去る予定だったが、迷宮妖精ラビリンスフェアリーに興味を持った俺は一緒に昼食を食べないかと、彼らを小部屋に誘った。
「それはありがたい申し出じゃ。お言葉に甘えてご馳走になろうかの」
爺さん妖精はそういうと、羽を動かしてふわりと宙に飛び立った。
……おい! 
ちゃっかりマリアの肩にとまってるんじゃねぇ! 
しかも胸に足を置いていやがる! 
微妙に足踏みしてるぞ! 
あ、あの爺、俺と目が合った時にすごく厭らしい目をしてニマっと笑いやがった。
迷宮妖精《ラビリンスフェアリー》……できる。
女の子の方はジャンの頭の上にとまった。
「なんで俺の上に乗るんだよ!?」
「平たいらだから」
なんだかんだ言ってジャンは妖精を振り払わない。
気に入ったのかな?

 昼飯はオークの飼っていたレッドボアの肉が余っていたので、豆と肉の煮込みにした。
妖精用には食べやすいように素材を少し細かめに切った。
料理は愛情だ。
ゴブはみじん切りのレベルもアップしている。
すっかり優秀なお料理助手だ。
日持ちのする干鱈《ひだら》とジャガイモでコロッケも作った。
評判はどちらも上々だ。
 昼食をとりながら俺は疑問に思ったことを妖精のオットーとディナシーに聞いてみた。
「オットーたちは普段何をしているの?」
「儂らは迷宮妖精じゃからな、迷宮の保守点検を行っているんじゃよ。とはいっても肉体労働をするわけじゃない。迷宮は壊れても自動修復する力を持っている。儂らは魔素の薄い場所へいって魔素をばらまくのが仕事じゃ」
魔素? 
魔素ってなんじゃろ?
「魔素は魔力の元じゃな。魔素がなければ魔力は作られない。人も迷宮も魔物も魔素がなければ生きていくことはできないんじゃ。特に迷宮は存在するだけで多量の魔素が必要となる。だからわしら迷宮妖精ラビリンスフェアリーが専門に住んでおるわけじゃ」
植物の光合成みたいな感じ? 
少し違うか。
とにかく環境サイクルの重要な一翼を担っているようだ。
「魔素をばらまくってどうするの?」
「どうもせんよ。魔素の薄い所へいって、喋ったり、ゴロゴロしていれば、儂らは魔素を出す。こうして飯を食っている間も魔素を出しているぞ。意識してやってるわけじゃない」
なかなか楽そうな人生じゃないか。
ちょっとうらやましいぞ。
「魔物も冒険者もわしら妖精には手を出してこないし、困ることといったら迷宮は食料が少ないことくらいのお」
「普段はどうしてるの?」
「この階層は6区が密林でな、果物などは豊富なんじゃよ。だからいつもはずっと6区にいるんじゃ」
たしかゴムの木があるくらいだから、トロピカルフルーツなどもありそうだな。
マンゴーとかバナナがあったら是非収穫したい。
「普段は6区に閉じこもっているけど、昨日から1区と2区の魔素が薄くなっているようなの。迷宮が大量の魔素を必要としているみたい。迷惑な話よ」
ディナシーが憤慨したように言う。
迷宮になにかあったのだろうか?
「調べたら迷宮の扉が大量になくなっていたのよ! それを修復するために迷宮が魔素を必要としたのね。誰がやったか知らないけど頭に来ちゃう!」
俺のせいだった!
「お代わりいかがですか? すぐにデザートも作ります!」
俺はせっせとリンゴクレープを作り始めた。
「あら、人間にしてはなかなか気が利くじゃない。ハチミツなんて久しぶりだわ」
カルバドス(リンゴブランデー)とカラメリゼしたリンゴを使ったリンゴクレープだ。
ディナシーの機嫌がかなり良いのでここぞとばかりに謝っておいた。
「まったく迷宮の扉を溶かすなんて何考えてんのよ! スチュクス川の上流なら金と銀がとれるし、三層の4区の壁の奥に鉄を産出する層があるわ。今度からそこを使ってちょうだい!」
おお! 
正直に謝ったらとんでもない情報が手に入ったぞ。
これはかなり嬉しい。
ありがたく使わせてもらおう。
「アンタがバカなことをしなければ、私たちは6区に籠っていられたのよ。最近は変な奴が私たちを狙っているみたいだから、なるべく森の外には出たくないのよね」
「変な奴?」
いつもお気楽そうだったディナシーとオットーが初めて渋面を作る。
「儂らは魔物にも人間にも必要な魔素を出すおかげで、どちらからも狙われることはなかった。だが、最近この迷宮に魔族どもが来てな、魔素の研究とか称して儂らの仲間をさらう事件が起きているのじゃ」
「魔族!?」
マリアがすぐに反応した。
「オットーさんその魔族というのはヴァンパイアですか?」
オットーは重々しく髭をしごきながら頷く。
「お嬢さんは何か知っているようじゃな。そう、そのヴァンパイアの眷属の一人よ。魔素研究家のエイベル・ハーカーと自ら名乗っておったの」
普段穏やかなマリアの目に憎悪が宿っている。
俺は新たな戦いの予感を感じていた。
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