究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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チーズ!

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 探索二日目(4月4日)。
俺たちは4区でキラーアントを駆除しながら進み、昼前に三層5区に到達した。
魔物が強くなっているので浅い階層のようにタッ君に乗って高速移動はできなかったが、順調に狩りは進行している。
 5区の道は切り立った岩に挟まれていて見るからに敵が隠れていそうだ。
ギルド配布の迷宮手引書によれば、ここを縄張りにする魔物はオークということだ。
オークはゴブリンなどと同じ人型の魔物だ。
身長は平均して2メートル程。浅黒い肌をし、顔は豚の様につぶれた鼻が特徴的だ。
腹は出ているが筋骨たくましい。
伝承によればオークは魔王の尖兵せんぺいであり、魔王復活のその時まで軍団を増やすことを主目的として生きている。
オークにとっては破壊が喜びであり、蹂躙じゅうりんが正義だった。
ネピアの迷宮は数多くの冒険者が出入りし、定期的に魔物を間引いているので魔物が溢れ出す所謂いわゆるスタンピード現象は起きない。
だが、地方の小さな迷宮など、人の手が入らなかったりするとある日突然魔物の軍団が湧き出して周囲の街などを襲うことがある。
その軍団の主要な一角を担うのがオークだった。
オークたちには他の魔物と違う一面がある。
それは他の魔物が効率よく人間を狩るのに対し、オークはなぶり殺しを好んだ。
時間があれば戦闘後に捕らえた人間に拷問を加え、凌辱することさえある。
故にオークは他の魔物よりも忌み嫌われる存在だった。
 そういえば俺がこの世界に来てから魔王の噂というのは聞いたことがないな。
迷宮の手引書をめくってみたが、「オークは魔王の尖兵である」という記述以外ほとんどでてこなかった。
たまに読む神殿の経典の「創世記」の当たりで伝説的に魔王について触れられているだけだ。
俺は一番詳しそうなマリアに聞いてみた。
「魔王っていうのは存在してるの?」
「300年くらい前にあらわれたそうですよ。ここではなくずっと南のイスリアという国ですけどね」
「へえ、ひょっとして勇者に倒されたのかな?」
マリアは怪訝《けげん》な顔をする。
「勇者? まあ兵士たちを勇者と呼ぶならそうですね。その時は神殿が中心となり各国の連合軍を取りまとめて魔軍に占拠されたイスリア国に攻め入ったそうです」
そりゃそうか。
わずか数人の勇者のパーティーだけで魔王に占拠された国を取り戻すことは不可能だろう。
普通なら軍隊で対処するよな。
「簡単に言ってしまえば、一進一退の攻防を繰り返しながらも人間側は徐々に領地を回復し、魔族を打倒していったそうです。最終的には首都イスリアナを包囲して魔王軍を全滅に追い込んだと聞いています」
「魔王はどうなったの?」
「戦いの中で散ったようですよ。そういえば詳しい記述は見たことがありませんね」
元女神官のマリアでも知らないのか。
魔物は皆殺しになったそうだから、魔王の最期を詳しく知る者はいなかったんだろうな。
いずれにせよこの時代に魔王がいなくてよかったよ。

 索敵に出ていたスパイ君から情報が入った。
やはり岩の上にオークの見張り役が一人いる。
このまま道をすすめば見つかってしまい、増援を呼ばれるな。
出来ればこちらから奇襲をかけたい。
オークがいる地点まで500mだ。
俺を介してスパイ君とハチドリ達をリンクさせてみよう。
ハチドリは俺から離れると3分しか活動できないが、それだけあれば充分だ。
俺はスパイ君から送られてきた情報をハチドリ達に送る。
いけ! ハチドリトリオ。
あのオークを倒すのだ。
高速で飛び立ったハチドリ達がオークの頭上にたどり着くのに約10秒。
地上を監視しているオークは頭上から接近したハチドリにはまるで気づいていない。
3本のレーザーがオークを撃ち抜き、その巨体がどっと地上に倒れた。
作戦は成功だ。
オークの本隊にもこの作戦は使えそうだ。
天井が低いエリアだとハチドリは低空飛行を余儀なくされ叩き落とされる危険が大きいのだが、天井が高いと上空からの攻撃が可能だ。
これは短期決戦の場合は大きなアドバンテージになるだろう。
 自信を得た俺は37体のオークの群れに奇襲を仕掛けた。

『不死鳥の団』は二手に分かれてオークたちに接近する。
α(男)チームを俺が率い、β(女)チームをボニーさんが指揮する。
地上の二地点と空からの三方向からの同時攻撃だ。
 奇襲は成功し、バタバタとオークは倒れていった。
だがシールドを持っていたり、仲間の死体を盾にするものがいたりで、いつものように短期で決着はつかなかった。
それでも俺たちは徐々にオークを窪地に追い詰め、最後はマリアの神聖魔法で一気に殲滅することができた。
装備がよくなり最近は討伐が楽になっていたが、迷宮の深度が上がるにつれ魔物も強くなっている。
いよいよ次は第四階層だ。
気を引き締めていかなければならないだろう。

 倒したオークはレッドボアを檻で飼っていた。
ちょうどいいので解体してお昼ご飯を作ることにする。
今日は迷賊焼きというネピアの郷土料理だ。
レッドボアの肉と厚切りのショルダーベーコン、玉ねぎを一緒に鉄串に刺し、塩と赤唐辛子をふって直火で焼くだけのシンプルな料理だ。
野趣があってなかなか良い。

 食事をしていると俺の目の前の大地が突然ボコッとせりあがった。
慌ててライフルを掴んで身構える。
マモル君に命じてマジックシールドを5枚も重ねがけしてしまった。
だが現れたのは四角い形状の何かだった。
「宝箱じゃないですか!!!!!」
メグが大声を上げる。
これが宝箱か。
噂には聞いていたが見るのは初めてだった。
迷宮では時折このような宝箱が出現するそうだ。
今回見つかったのは鉄製で幅40cm、奥行30cmほどの小さな宝箱だった。
罠は仕掛けられていないようだが、慎重を期してヒカル君にあけてもらう。
ヒカル君はランタンに手と足がついているのでこんな作業も出来るのだ。
爆発もガス噴射もなく宝箱は開いた。
ボニーさん以外宝箱を見るのは初めてだ。
興奮しながら中身を確認する。
真っ先に目に入ったのは柄《つか》が宝石で装飾された短刀だ。
大粒のエメラルドやサファイヤ、ルビーなんかが散りばめられている。
なかなかの値打ちものだろう。
鑑定で見たところ武器というよりは美術品のようだ。
他には金貨が30枚もあった。
「これは何でしょう?」
宝箱が嬉しくて笑顔が蕩けそうなメグが黒い箱を持ち上げた。
それは俺のよく見知ったものだった。
「インスタントカメラじゃないか!」
撮った画像がすぐに印画されるインスタントカメラにそっくりな魔道具が入っていたのだ。
なんで入っていたのか、誰が作ったのか、誰がいれたのか、一切は不明だった。
「イッペイさんはこれの使い方がわかるんですか?」
「任せておけ」
俺は早速、皆を集めて記念写真をとることにした。
フィルムは40枚もあったので心配はいらない。
構図を決めて皆を並ばせて、シャッターは宝箱に引き続きヒカル君に押してもらう。
「な、何だこれは! おっさんの魔法か?」
「すごいです! 僕が写っています」
「魂……とられた?」
「高級な細密画みたいです!」
「神よ!」
みんな初めてのカメラにびっくりしているようだ。
その後、全員に乞こわれて『不死鳥の団』の集合写真を一人一枚ずつ撮って配った。
地上にもどったら俺の分のフィルムを使って絶対にパティーの写真を撮るんだ! 
自分が写真一枚でこんなにワクワクするとは思わなかった。
やっぱり地球では恵まれていたんだね。
フィルムは二度と手に入らないかもしれない。
手ぶれしないように三脚を錬成することにしよう。
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