究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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 迷宮の中を縄で繋がれた迷賊たちが駆けていく。
なかなかシュールな光景だ。
俺たちはタッ君に乗り、後ろから迷賊たちを追い立てる。
シスターにはタッ君の荷台の樽の上に座ってもらった。
お客様扱いなので一番いい場所だ。
「なあシスター、なんで迷賊に捕まってたんだ?」
ジャンが無邪気に質問している。
シスターは少し頬を染めた。
「それは、その、あの人たちが悩んでいることがあるから相談に乗って欲しいと言われまして」
「はあ? あの悪人面《あくにんづら》が相談事!」
「顔で判断するのはよくありませんよ。どんな人でも心に悩みを抱えているものです。私は祓魔師《ふつまし》ですが人々の悩みを聞くことも大事な仕事です。まあ、相談を聞いている内に油断して捕まったんですけどね」
ジャンがあきれ顔をしている。
恐らくこのシスターは何でも人のいうことを真に受けてしまうタイプなのだろう。
先程鑑定でステータスを覗いたがシスターは強い。
祓魔師としての実力は申し分ない。
それに魔物相手なら神聖魔法は非常に強力だ。
神聖魔法とは聖女をはじめとした清らかな乙女のみが使える神の祝福をうけた魔法だ。
どうでもいいが、どうして神様とか悪魔とかは処女が好きなんだろうか? 
よくわからん。
それはさておき、シスターマリアは魔物には強そうだが、対人では頼りない所がある。
どう見ても騙され易そうな性格をしているのだ。
悪人に命乞いをされて赦し、後ろから刺されるタイプだと思う。
今までよく無事だったもんだ。
主に純潔が。
ところでこの人はなんで迷宮にいたんだろう? 
シスターは北のスコティアの人だ。
西のネピアとは何千キロも離れている。
聞いてみると祓魔師として魔族を追いかけてこの地に来たそうだ。
「魔族? 魔物ではなくて?」
「そうです。魔族の正確な定義というのはないのですが、我々祓魔師は一定の知性を持ち人語をあやつれる魔物を魔族と呼んでいます。ですから先ほどお話にでたグーラなども魔族ですね」
「それでどんな魔族を追いかけてきたんですか」
俺の質問にシスターは表情を曇らせた。
「非常に強力な魔族です……。ヴァンパイアという魔物をイッペイさんはご存知ですか?」
ヴァンパイアといったらあれだよな。
「血ィ吸うたろか?」的な魔物だ。
シスターの説明を聞いてもこの世界のヴァンパイアと地球のヴァンパイアにそれほどの違いはなかった。
人間の血液を吸い、吸った相手を眷属化できる。
肉体的にも魔力的にも相当な力をひめ、強力な闇属性の魔術を使いこなす。
不老不死ではないが長い寿命を持っており、肉体的回復力も相当なものらしい。
「ヴァンパイアはニンニクとか十字架とかを苦手としていますか?」
俺の質問にシスターはキョトンとした。
「はい? ニンニクですか? そのような情報は初めて聞きます。もしそれが本当なら討伐の大きな手助けになるでしょう!」
たぶん効かないな。
「あ、いえ、これは俺の故郷のローカルルールというか……忘れてください」
「そうですか。有益な情報かと思ったのですが残念です」
しかし、そんな強力な魔族を相手にたった一人で迷宮に潜るなんて正気の沙汰《さた》ではない。
ヴァンパイアが何層にいるかは知らないが、たどり着く前に死んでしまうのではないか?
「シスターはお一人なのですか? 普通、迷宮に挑むときはパーティーを組みます。ソロで活動するなんてよっぽどの変人です」
俺はチラッとボニーさんを見る。
この人は『不死鳥の団』に入る前はソロで狩りをしていた。
隠密行動が得意なボニーさんだからこそできる芸当だ。
「仲間は……仲間はいたのです。ですが全員死にました。本当はとっくに帰還命令が出ているのです。ですが、ここで退くわけにはいきません。私が退いてしまったら、死んでいったみんなは何のために……」
シスターは唇をかんで俯く。
仲間の敵討ちか。
とはいえソロは無謀すぎるだろう。
「一度帰還して、新たなチームで臨むべきではないですか? このままいったら犬死ですよ」
俺の言葉にシスターは自嘲《じちょう》するように笑って首を振った。
「どうしてヴァンパイアが迷宮にいると私が知っていると思います? 神殿の恥を晒すようで恐縮ですが、ヴァンパイアとさる高位の聖職者が裏で協定を結んだからなんですよ。ヴァンパイアは今後百年、迷宮の深部に潜って姿を現さない。その代わり神殿はヴァンパイアを放置する。そういう取り決めが交わされたそうです。少なくないお金が動いたとも聞いています」
金と目先の平和のために神殿の上層部は問題を先送りにしたわけだ。
人々の安寧《あんねい》のために死んでいった祓魔師たちはさぞ無念なことだろう。
「これは私個人の戦いなんです。神殿がヴァンパイアの討伐を認めないのならば、私は祓魔師ではなく冒険者として魔物を狩るだけです」
シスターの瞳の奥に静かな闘志の光が見えた。
だが、彼女をこのまま一人で迷宮に潜らせるわけにはいかない。
「シスターマリア、しばらく俺たちと一緒に迷宮へ潜ってみませんか?」
「あなた方と?」
「おう、それがいいぜ!」
ジャンが賛同する。
「僕もその方がいいと思います。ヴァンパイアがいるのは迷宮の深層ですよね? だったらソロでたどり着くのは無理です」
クロも同意見のようだ。
「私もその方がいいと思うな。じっくりと腰を据えてかからないと迷宮は踏破できないですよ。亡くなったお仲間のためにもマリアさんは死んじゃだめだと思います」
あら? 
メグも賛成?
「今は耐える時……一緒に来るといい」
ボニーさんまで! 
男性陣が賛成するのはわかっていたけど、女性陣まで簡単に受け入れてくれたのは意外だった。
これってリーダーのカリスマ性? 
……そういえばシスターは魅了スキルがパッシブだったな。
そういうことか。
 シスターマリアは俺たちの言葉を聞いて涙ぐんでいる。
「ありがとうございます。本当は一人ぼっちで心細くて、怖くて……。でもよろしいのでしょうか?」
「うが!」
そうだね、ゴブなら魅了なんて関係なしに賛成だよな。
「なあに、構いませんよ。しばらく一緒に迷宮を探索するって感じです。あんまり深く考えなくていいですよ」
魅了とは関係なく俺はシスターに同情したのかもしれない。
組織に振り回される個人を見捨てるのが嫌だった。
もしお前が生きていれば、デレデレと鼻の下を伸ばしながらシスターを助けたはずだろう? 
チェイサー。
だから俺はお前の分もシスターに協力するぜ。
その代わり旅の間のラッキースケベは俺のもんだ。
恨みっこなしだぜ。

 迷賊たちをギルドに引き渡した結果、俺たちは全部で一三六万リムもの報奨金を貰うことができた。
メグはもちろん大喜びだ。
俺としては現金よりもランクの高い魔石が欲しかったから少し残念だ。
「いよっしゃあ! 飯だ飯だ! 行くぜみんな!」
我らが切り込み隊長が先陣を切ってレストランへと向かう。
一時的な協力関係になるかもしれないが新しい仲間が増えたのだ。
こんな時に俺たちが行くのは『不死鳥の団』の生まれ故郷、レストラン・デュマだ。
「うが」
シスターが戸惑っているとゴブが誰よりもスマートにエスコートした。
さすが今回の探索でレベルを上げているだけはある。
ジャンも俺も少しは見習わなくてはならないな。
このエロゴーレムめ! 
クロはセシリーさん的にはそのままの方がいいんだろうな。
はにかみながらエスコートというのがショタの正統だろう。
 報奨金のお陰で懐は温かい。
今晩はせいぜい美味いものでも食べることにしよう。
その晩俺はニンニクのムースが添えられたフィレステーキを食べた。
ヴァンパイアの名前がでたのでついニンニクのムースに惹かれてしまったのだ。
こっちのヴァンパイアにはニンニクは効かないだろうにね。
ニンニクのムースはニンニクを牛乳で柔らかくなるまで煮てピュレ状にしたものだ。
牛乳で煮ることによってニンニク特有の匂いはなくなる。
酸味のある赤ワインのソースともよくあい、とても美味しいステーキだった。
 ちなみにゴブはシスターが座る時に椅子をひいてあげていた。
こいつはどこまで紳士になるんだろう。
悔しいぜ、ジェントル・ゴーレムめ!
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