究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第73話 G.I.ボニー

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 翌3月13日は早朝にキャンプを撤収して移動を開始した。
今日の目標地点は第二階層7区だ。
二層の3区までは前回の探索で訪れたている。
3区は超巨大な室内植物園のような場所だ。
セシリーさんとクロが出合ったのも3区のスチュクス川の畔《ほとり》だった。
あの川ではネピア・マスが釣れるんだよな。
釣りが大好きなクロとしてはまた釣りたいだろうが今回は我慢してもらおう。
「クロ、悪いけど今回は釣りはなしだからな」
「大丈夫、わかってますよ」
顔は笑顔だが尻尾が力なく垂れさがっている。
自分がすごく悪いことをしているみたいだ。
セシリーさんも俺を睨まない!
「今度休みの時に行こうぜ。魚を釣ってバーベキューをしよう!」
「はい!」
途端にクロの笑顔がはじける。
大人な俺はフォローも忘れない。
「セシリーさんもご一緒にいかがですか?」
セシリーさんは俺を拝まない!

 帰還してくる冒険者と情報を交換したが、幹線道路上に魔物が沸いているなどの事態は今のところ起きていないそうだ。
迷宮内の状況など刻一刻と変化するので大して宛てにはならないが一つの指標にはなる。
このまま幹線道路を行くのがよさそうだ。
 スチュクス川の畔で休憩をとった時、ボニーさんにハンドガンを貸してほしいと言われた。
「構いませんが、一発撃つごとにMPを2消費しますよ」
「ん……大丈夫」
俺からハンドガンを受け取ったボニーさんは河原で射撃の練習を始めた。
なかなか筋がいい。
というよりも俺よりずっとうまいぞ! 
普通の射撃の練習が済むと、いろいろな態勢で撃ち始める。
32発撃ったボニーさんが一息入れた。
彼女の様子を見るに、64以上のMPがあることがわかる。
次にボニーさんは弾倉からマガジンを抜いた。
マガジンを抜いたのでハンドガンに弾は入っていない。
「ジャン……そこに立って」
どうやら訓練を開始するらしい。
ジャンも剣を抜いて半身の姿勢でボニーさんに対峙した。
その距離5メートル強。
ボニーさんは右手にマチェット、左手にハンドガンを持っている。
ボニーさんの左手がすっと上がったと同時に、ジャンが左へ走り出した。
銃弾が入っていたとして、命中したかどうかは素人の俺にはわからない。
俺に言えるのは俺やクロなら外していたということだ。
拳銃の弾は動く標的になかなか当たらない。
対象が大型の魔物だとそこそこ当たるのだが、人間くらいの大きさになると途端に命中率は下がるのだ。
実質急所を狙えるのは4メートル以内に入ってからではなかろうか。
 距離を詰めたジャンの剣がボニーさんへと振り下ろされるが、そこにはもうボニーさんはいない。
フェイントと体術を駆使して常にジャンの死角へ死角へと高速で移動し、マチェットを振るい、蹴りを入れている。
離れて見ているから動きを追えるが、ジャンにとってはボニーさんが消えた様に見えているのだろう。
ジャンも剣とバックラーで何とか捌いているのだが、限界が近そうだ。
そして剣の軌道を逸らされ、死角に入られたジャンに銃口が突きつけられた。
今のは俺でもわかる、実践だったらジャンは死んでいた。
どうやらボニーさんは中近接戦闘にハンドガンを取り入れたスタイルを確立したいようだ。
まるで格闘技にハンドガンを取り入れた様な動きをしていた。
「イッペイ、これ……私にも作って欲しい」
「もちろん構いませんよ。俺のハンドガンを使いますか?」
俺にはアサルトライフルがあるので、一丁ハンドガンをボニーさんに渡しても問題はない。
「もう少し短い方が……好み。出来たらもう少し軽いほうがいい」
「わかりました今晩錬成しますね。それまでは俺のハンドガンを使っていてください」
魔石は昨日のブルー・マンティスや道中で倒した魔物からGランクが3個でている。
それを流用すれば材料は事足りる。
ついでにコンバットナイフとかも作っちゃおうかな。
俺はミリオタじゃないけど、ボニーさんの軍人コスは少し惹かれる。
女の人がオリーブドラブ色のミリタリーTシャツ着ていると、何故か興奮しちゃうんだよね俺。
変な性癖でもあるのかな? 
でもナースも巫女もスーツもドレスも、俺ってば全部好きじゃん!
ゴブのストライクゾーンの広さは俺のこういうところに似たのかもしれないな。
それはともかくボニーさんのミリタリーTシャツ姿はみてみたいな。
……だめだ。
あの人ブラを付けない主義だった。
気をとられすぎて俺とジャンとクロが戦闘不能になってしまう。
俺は泣く泣くTシャツをあきらめるのだった。


 午後、6区に入る。
ここはネピア・サイドワインダーがいた5区と同じく岩稜地帯だ。
だが出てくる魔物は大蛇ではなくトカゲの魔物とジャイアント・フロッグというカエルの魔物がほとんどだった。
トカゲ種は見た感じは地球のイグアナによく似ているが、体調は3メートルを超えておりイグアナよりも大きい。
地上を這うトカゲ種は通常の武器では攻撃しづらかったがボニーさんはハンドガンを使って敵を倒している。
いろいろ試行錯誤しているようだ。
考えてみると迷宮内で敵と遭遇する場合はそれほど距離がない。
俺の様に射撃が下手な奴にはアサルトライフルより弾が広範囲に広がるショットガンの方が向いているのではないだろうか。
今更だがそのことに思い至る。
Fランクの魔石がたくさん取れたら作成を考えてみることにしよう。

 対トカゲ戦で活躍したのはジャンだった。
ジャンの得意技「斬撃波」は下段から切り上げてウィンドカッターのような闘気を飛ばす技だが、これが地を這うトカゲによく効いた。
もっとも斬撃波はスキルなのでMPを消耗する。
そのため、そうそう連続ではうてない。
しかし闘気は飛ばせずとも、下段からの切り上げ自体がトカゲには有効だった。
ジャンの剣筋は日に日に鋭くなっている。
ボニーさん曰く第四階層へいっても調子に乗らなければ生きて帰ってこられるレベルらしい。
一方、ハチドリのバリはここにきて火力の低さを感じさせる。
バリの【攻撃力】は167あるが、以前は一撃ないし全弾命中で敵を葬ることができていた。
しかし、迷宮も第二階層深部ともなるとそうはいかなくなっている。
トカゲ種やジャイアント・フロッグに傷を負わせることはできても致命傷には中々ならないのだ。
火力もさることながら【素早さ】も足りなくなっているのだろう。
機動力の低さから、急所を狙ってもずらされてしまうのだ。
3匹ではなく1匹になってしまったことも戦力低下の大きな要因だろう。
やはり1匹だと動きが見切られ易くなってしまう。
早いとこFランク魔石を手に入れて、ハチドリ・マークⅡとして蘇らせてやりたいものだ。

 岩稜地帯でリアカーを引いて進むのはかなりの苦労を要する。
けれども幹線道路は、迷宮の長い歴史の中で段差の大きい所には板を渡したり、一部木道ができていたりもする。
大勢の冒険者が時間をかけてこういった道を作ってきたのだろう。
俺も岩と錬成魔法で段差のいくつかをスムーズにしたり、壊れかけていた木道を補修したりした。
自分たちが通るために道を直したわけだが、地球にいた頃に聞いた「レガシー」という言葉を思い出した。
直訳すれば遺産とか先人の遺物といったところだ。
受け継いだ道をより良くして次代の冒険者に渡せたような気がして少しだけ嬉しかった。
「頑張れよおっさん。ここを抜ければもうすぐ7区だ。7区に入れば道は石畳だ!」
周囲を警戒しながらジャンが偉そうに言う。
外は日一日と暖かくなっている。
迷宮の中の気温も少しずつ上がっていた。
俺は流れる汗を今日何度目かの洗浄魔法で綺麗にした。
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