究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第71話 第三階層へ

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 防御特化の指輪型ゴーレム「マモル君」とアサルトライフル「ワサビニコフ」の完成を期に、俺は第三階層を目指す。
個人的目標はFランクの魔石を入手して運搬型ゴーレムを作成することだ。
ボニーさんによれば第3階層まで潜れば、魔石の入手はそれほど難しくないらしい。
タイムリミットはライナスたちと約束した3月18日。
今回は予定表を立ててみよう。

3月13日 第二階層1区到達 宿泊
3月14日 第二階層7区到達 宿泊
3月15日 第三階層探索開始 主に1区と2区周辺
3月16日 午前中は第三階層を探索し、午後から帰還開始 第二階層3区宿泊
3月17日 第一階層2区へ移動 宿泊
3月18日 第一階層1区へ移動 留守番を小部屋に残し残りのメンバーはライナスと合流後、素材の運搬。

今回も移動時にはなるべく戦闘を避けて幹線道路を最速でいく予定だ。
二層の6,7区は未踏破地帯だが、6区には大した敵はいないそうだ。
大型のカエルの魔物、ジャイアントフロッグがメインの敵になるらしい。
7区も似たようなもので、たまにコボルトが集団で冒険者を襲うくらいしか脅威はないと聞く。
苦戦するとしたら第三階層に入ってからだろう。
第三階層は動きの速い狼系の魔物がでる。
ビシャス・ウルフだ。
迷宮の岩場や壁を巧みに使った集団戦を得意とする魔物で非常に厄介だ。
およそ十五匹から二十匹で一つの群れをつくる。
群れのリーダーは他の個体と比べてかなり強く、足首の周りの毛が銀色になることからシルバー・マフと呼ばれる。
優れた統率力と強靭な力を持ち、ただのビシャス・ウルフの数倍は強いが、このリーダーを倒せれば群れは急速に力を失うそうだ。
また、シルバー・マフは他のウルフたちと比べて魔石を落とす確率が格段に高いので、確実に仕留めておきたい魔物でもあった。


「おはようございます、偶然ですね!」
ゲート前広場でセシリーさんに、三日前とまるっきり同じセリフで挨拶された。
おそらくこの人は昨日も一昨日も偶然クロに会うためにここに来ていたと確信している。
パティーたち『エンジェル・ウィング』は昨日第五階層に向けて出発したはずだ。
一昨日、パティーは家に来てさんざん甘えていったからそれは確かなはず。
セシリーさんは迷宮に連れて行ってもらえなかったのか? 
「これ私の実家で焼いたパンなんです。食べてください」
そこの件くだりもまるっきり一緒かよ。
今日はクロがいるから元気だけどね。
セシリーさんはクロに大きな紙袋を渡した。
「ありがとうございます。この前頂いたパンもすごく美味しかったですよ。ハート型のブリオッシュがすごく美味しかったです」
セシリーさんが嬉しさのあまり、イヤン、イヤンと首を振っている……。
そう、前回もらったパンの中に一つだけハート型のブリオッシュがあったのだ。
こいつだけは俺やジャンが食べてしまったら呪われる気がして、きちんとクロに渡した。
やっぱりあれで正解だったようだ。
セシリーさんが俺の方を向いてサムズアップしてるぞ。
グッジョブいただきました!
 クロが買い物の受け取りをするために店へ行くと、セシリーさんが真顔で俺の方を向いた。
「イッペイ殿、貴方は非常に信用のおける御仁らしい」
そんな、キリリとした顔されてもね、クロにハート型のブリオッシュを渡しただけですから。
「ところでセシリーさんは『エンジェル・ウィング』とは別行動ですか? 確か昨日から第五階層ですよね?」
「うっ、そ、そうなんです。今回は地上待機でして」
やっぱり置いていかれたのか。
迷宮の中でもクロのことばかり考えて注意が散漫になりそうだもんな。
賢明な判断だと思うぞ。
 クロがリアカーを引いて戻ってきた。
荷台には食料などが積み込まれている。
「イッペイさん、注文の品はすべてそろってます。いつでも出発できますよ」
「ごくろうさん! じゃあそろそろ出発するか」
「待ってください」
迷宮に潜ろうとする俺たちをセシリーさんが引き留めた。
「どちらまで行かれるのですか?」
「今回は三階層1区か2区が目的地です」
セシリーさんが決意したように俺を見つめる。まるで射殺いころさんばかりの目つきだ。
「わ、私も連れて行ってくださいませんか!」
それは困る! 
セシリーさんは他のパーティーの人だし、クロのことで浮ついているし、何かあったら大変だ。
俺はすぐに断ろうと思った。
思ったのだが……怖いよ。
主に顔が。
「すごいです! 僕、火炎魔法を間近で見るのなんて初めてです!」
クロのバカ! 
そんなこと言ったらこの人、それだけで天国に行っちゃうだろうが!
「ああん、そうなの? お姉さん頑張っちゃおうかしら。バンバン燃やしちゃいますよ!」
セシリーさん、身悶みもだえちゃってるよ。
「ジャン何とかしろ」
「できるわけねえだろ!」
「メグ――」
「勘弁してくださいよ。今切り離したら一生恨まれます」
「ボニーさん――」
「アラサー女の情け……、連れて行ってやれ」
普段はクールなボニーさんだが、同年代の女として何か思うところがあるらしい。
ボニーさんたちにできないことを俺ができるわけもない。
連れて行くしかなさそうだ。
『不死鳥の団』は同行者にセシリーさんを加え、第三階層を目指すこととなった。

 俺は『不死鳥の団』のリーダーだ。
だが同時にポーターでもある。
基本の戦闘はボニーさんとジャン、メグ、ゴブが行う。
今回は俺がリアカーを引きクロが押す。
そんな予定でいた。
セシリーさんはごくごく自然な(強引ともいう)流れでクロと一緒にリアカーを押している。
「ゲストにそんなことはさせられない」なんて野暮《やぼ》を言うつもりは毛頭ない。
燃やされてしまいそうだからだ。
後方の索敵は俺とクロの他にハチドリのバリが行っているので大丈夫だとは思う。 
 バリといえば今回の探索でFランクの魔石がたくさん取れたら、このゴーレムはお役御免になる予定だ。
Gランクの魔石3個で構成されているバリにかわり、Fランクの魔石を一つずつ使ったハチドリトリオを復活させる予定なのだ。
魔石の数は減るがランクは上がるので性能も段違いに良くなる予定だ。
今あるバリを解体するのは可哀想なので休眠してもらうことにしている。
バリ、バンペロ、ボーラのハチドリ・マークⅡとして、三匹の連携ビームが炸裂する日は近い。
 ゴブには鎧とヘルメット、盾を新調した。
物理攻撃はもちろん魔法攻撃も軽減する優れものだ。
ゴブは俺の守護役として活躍していたが、最近ではパーティーの前衛としての盾役がすっかり定位置になってきた。
マモル君のお陰でゴブが俺から自由になったことが大きい。
寂しいのだがゴブの成長は俺がとても楽しみにしていることでもある。
最近では「うが」のバリエーションが多くなった。
嬉しい「うが」。悲しい「うが」。楽しい「うが」。怒ってる「うが」など喜怒哀楽によって「うが」の違いがはっきり出るのだ。
先日もレベルが上がってスキップを覚えていた。
女の冒険者をみると喜んで小さく鼻歌を口ずさんだり、軽くスキップをする。
相変わらずストライクゾーンが広い。
顔つき、胸の大小にかかわりなく女の人が好きなようだ。
敢えて好みを上げるとするとポニーテールが好みのようだ。
ポニーテールの冒険者に会うといつもより少しだけ興奮した「うが」になる。
我が子の成長を見守る親の気持がなんとなくわかる気がする。
今後のゴブの成長に期待したい。
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