究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第67話 スチュクス川にて

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 迷宮の石壁は冷たく、ドアから吹き込む隙間風が時に亡者のうめき声を運ぶ。
荒涼とした雰囲気を振り払うように焚火に薪を追加し、みんなの寝顔を見た。
昼間の疲れからかぐっすり眠っているようだ。
寝顔はみな一様にあどけない。
生意気なジャンでさえ可愛く見えてしまうのだから不思議だ。
俺は皆をおこさないように部屋の隅に移動した。

 部屋の隅にはもう一つたき火がありゴブが火の番をしていてくれた。
うるさくないように今夜はここで作業をしている。
「さて、今度は俺の武器を作るよ」
「うが」
皆をおこさないようにゴブの返事が小さい。
ゴブはこんな気遣いもできるようになっていた。

 俺は鞄から素材をだして準備をする。
俺が作ろうとしているのは突撃銃《アサルトライフル》と呼ばれる自動小銃だ。
手持ちの素材と魔石でどのよなものが作成可能かデーターベースを検索する。
 迷宮の環境は過酷だ。
今日のような凍てつく日もあれば、灼熱の溶岩地帯もあると聞く。
高温や低温による金属の変形に強く、少々の泥や砂などものともしない信頼性が必要だ。
やがて手持ちの素材による最適解が俺の中で完成する。

鑑定
【名称】タイークマット・ワサビニコフ(TW-47)
【種類】アサルトライフル
【攻撃力】301
【属性】無し
【備考】有効射程600メートル 装弾数30発/90発 セミ/フルオート切替射撃。1発撃つごとに消費MP2
「狙撃」の習得が可能になる。無反動。

いまある素材では最高の出来だろう。
魔力を使う銃なので相変わらず反動がないのがありがたい。
結構精密な射撃ができそうだ。
ただ、深い階層の魔物は大型で装甲が厚いくせに早いと聞く。
果たしてそういった魔物に有効かどうかはまだわからない。
また銃であるからして攻撃は直線的になる。
正面に盾をかざして突っ込んでこられたらひとたまりもないかもしれない。
だが、ありがたいことに俺には仲間がいる。
新しい武器のお陰で戦術の幅も広がるだろう。
みんなレベルが上がってきているので武器を新調してもいいかもしれない。
それぞれと面談してどんな武器がいいか聞いてみることにしよう。
俺は見張りをゴブに任せ、満足の内に眠りについた。


 迷宮四日目、俺たちは5区には戻らずに3区へと移動した。
他のメンバーは経験済みだが俺は3区に行くのは初めてだ。
3区にはスチュクス川という地底を流れる川があり、冒険者たちの水場になっているそうだ。
生活魔法があるので飲料水には困らないが是非一度みてみたかった。
いずれ第三階層へ向かうときは必ず通る道なので下見をしておきたかったのだ。

 3区はとんでもなく広い空間だった。
各エリアは壁で仕切られているのだが、3区はその壁がない。
しかも天井が明るく、大量の植物がある。
季節が冬なので木々の葉は落ちているが春から秋にかけては暗い森になるそうだ。
一言で言えば超巨大な室内植物園といった感じだった。
どうやって天井を支えているかもわからなければ、天井の光の正体もわからない。
まさにファンタジークオリティーだ。

 森林をすすむのでどこから敵がくるかわからない状況だ。
魔物はビーストタイプと昆虫タイプの2種類が多い。
爬虫類タイプもいる。
そんな中、俺の新兵器ワサビニコフは快調に敵を蹴散らしている。
3点バーストがないので無駄弾を使いがちだが、そこは今後改良していくことにしよう。

 予定通り、昼前にスチュクス川に到着した。
迷宮の中であることが嘘のような、森の中の川だった。
川幅は15メートルほどで、飛び石伝いに渡ることができる。
この川にはネピア・マスという魚がいて大変美味だそうだ。
クロの目が光っている。
尻尾もブンブン揺れている。
「マス釣りする?」
「はい!!」
この子は本当に釣りが好きなのね。
俺はクロの言う通りに道具錬成で釣竿を制作した。
他のメンバーもやるというので三人の分も作ってやる。
釣りは四人に任せて、俺は昼食の準備に取り掛かった。
メインディッシュはクロの腕を信じて、新鮮なネピアマスのバターソテーを作る予定だ。
だから、先にサイドメニューから作っていく。
本日の献立はカブとニンジンのサラダ。
玉ねぎのスープ。
そしてネピア・マスのバターソテーだ。
 まずは先日獲ったウサギの骨を焼いてから、香味野菜と一緒に出汁をとるところから始めた。
「うが!」
料理の途中でゴブが嬉しそうな声をあげた。
ゴブの視線の先をたどると美少女の集団がいるではないか。
可愛い子たちだなあ~と眺めていると、パティー率いる『エンジェル・ウィング』だった。
「イッペイ!」
厳しい顔をしていたパティーの表情が俺を見て破顔する。
やっぱりパティーは可愛い。
本当はイチャイチャしたいけどみんなの目があるからぐっと我慢だ。
「今帰りかい?」
「ええ。さすがに七日目ともなると地上が少し恋しいわ。ゆっくりお風呂に入ってワインでも飲みたい気分」
「パティーみたいなベテランでもそうなんだ。ワインは無理だけど…」
俺はパティーに生活魔法の洗浄をかけてやる。
「ああ……ふぅ……、さっぱりした。後でうちのメンバーにもかけてやってくれる? あの子たちも汗の匂いとか気にしてたから」
「了解。パティーもスープ飲んでく? 今ウサギの骨から出汁をとってるところ」
「相変わらずマメねえ。そんな料理は迷宮じゃ食べないのよ」
「たまには嫁の飯でも食ってけよ」
「そうね。愛情多めでお願いね」
ボディータッチができない分、ひそひそ声でイチャついてやったぜ。
パティーのパーティーはポーターも入れると11人もいるので大急ぎで材料を用意した。
『エンジェル・ウィング』の人たちも、お局様っぽい人があれこれ仕切って手伝ってくれた。
お局様の名前はセシリーさん。
茶色の髪をアップにしている。
貴族かと思いきや、実家はパン屋さんだそうだ。
年齢は俺より上っぽいが聞くわけにもいかない。
「ほらそこ、野菜の泥を川で洗ってきてください。野菜は私が切ります。お湯は少し多めに沸かして。ジェニー様、紅茶はもう少し後にして下さい」
セシリーさんは迫力がある。
パーティー最年長だろうし皆も彼女のいうことには逆らえない雰囲気があるな。
「ほら! 玉ねぎが焦げ付いてますよ。しっかり手を動かしなさい!」
顔は知的な美人でちょっとおっかないタイプだ。
太っているわけではないが豊満な体つきだ。
タイトなスーツとかが似合いそうだ。
俺が社長だったらこんな美人秘書が欲しいかも。
「負傷者は休んでいなさい! 手伝いなどしなくていいから傷を癒すことだけを考えなさい!」
言い方はきついが根はやさしい人だと思う。
パティーもセシリーさんのことを信用してあれこれ任せているようだ。

川の方から『不死鳥の団』のメンバーも帰ってきた。
「みてくださいイッペイさん! こんなに釣れましたよ!」
銀の髪を輝かせながらクロが満面の笑みで微笑む。
桶には20匹以上のネピア・マスが入っていた。
これなら全員分たりそうだ。
 あれ? 
なんかおかしいな。
急に場の雰囲気が変わった気がした。
さっきまでと何かが違う。
なんだろうと考えて、違和感の原因に気が付いた。
セシリーさんが急に静かになっていたのだ。
急に無口になって、俯うつむいたまま野菜をきざんでいる。
「また始まったわね」
いつの間にか俺の隣にいたパティーの親友のジェニーさんが、俺の疑問に答えるように教えてくれた。
「セシリーの悪い病気が出たわ」
「なんのことですかジェニーさん。ポーションなら非常用に各種ありますが」
「彼女の病気はポーションでは治せないわ」
「病名は?」
「ショタコン」
「そいつは……」
「かなり悪性よ……」
頬を染めながら野菜を刻むセシリーさんを眺めながら、ジェニーさんは深いため息をつくのだった。
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