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第51話 実況の宮田さん

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 寒くて目が覚めた。
意識が覚醒した時、自分を客観的に見てわからないことが多すぎた。
いつ眠ってしまったのだろうか? 
うつぶせだったのに、どうやって仰向けになったのだろう? 
なんで縛られているのかな? 
そして、どうして裸なんだろう?
「眼が覚めましたか神官様」
シスター・マリアが俺を見下ろしている。
あれ、なんか変だ。
目つきがおかしい。
ついさっきまではなかった邪悪さがそこにある。
「うふふ、もっと癒して差し上げますわ神官様…」
赤く光る舌で唇を濡らし、シスターは神官服に手をかけた。
分厚い服がはぎ取られ隠されていた大きな胸があらわになる。
Gランク? 
いやそれはランクの低い魔石だ。 
そうではなくGカップはあろうか? 
張りはあるが、横に広がってさがるタイプの胸だ。
完璧な美しさがない所に蠱惑的な魅力がある。
末広がりでめでたいな。
いや違う。
なんかおかしいぞ。
「どうして服を脱ぐのですか?」
「だって、血がついてしまいますもの…」
初めてなの? 
いやいや、、そういうことではなさそうだ。
俺の考えなどお構いなしに、シスターの白い指が身に纏った最後の一枚をおろした。
「っ!!」

――宮田さん! 実況の宮田さん、どうしましたか? 聞こえますか宮田さん?
はい。現場の宮田です!
――そちらでは今、何が起こってるんですか?
はい。たった今、シスターが最後の一枚を取り去りました。
――それは全部見えてしまったという認識でよろしいんでしょうか?
……
――宮田さん? 大丈夫ですか? 宮田さん?
はい。大丈夫です。
――それで現場では今、何が見えているんですか?
口です。サメの口の中のように無数の歯が生えた口が見えます。
――?! 口ですか? それは顔のところについている口のことですか?
ち、違います。その、へその下あたりというか…
――よくわかりません。下腹部ということなんですか?
…もっと下です。先程シスターが最後に脱いだ下着の―― うわっ! 自分で開いて見せるな――
――どうしました宮田さん? 宮田さん? ………。ダメですね。中継が途切れてしまったようです。一度ストーリーを本文にお返しします。

シスターの異様な姿に俺は鑑定を使った。

鑑定
【名前】 シスター・マリア・ミスティア(偽名) ガース(本名)
【年齢】 89歳
【種族】 屍食鬼グーラ
【Lv】 47
【状態】 擬態
【HP】 272/272
【MP】 39/48
【攻撃力】196
【防御力】78
【体力】 240
【知力】 112
【素早さ】72
【スキル】擬態:人間の女に化けることが出来る
【備考】グーラはグールの雌。美女に化けて、その性的魅力によって魅了した男を食べる。

「グーラか…」
「ほう。我が正体を見破るとは祓魔師《ふつまし》だけはある。実際どっちなのだ、法術師なのか? 祓魔師なのか?まあ、こうなってはどちらでもいいか」
「いろいろ聞きたいことがあるんだがいいか?」
「よかろう、夜は長い。最後の望みぐらい叶えてやるぞ。なんなら気持ちよくしてやることも出来るぞ」
屍食鬼《グーラ》は下卑た笑いを漏らした。
俺はグーラの言葉を無視して質問する。
「行方不明者は全員お前が食べたのか?」
「そうよ。男も女もみんな私が食べたわ。もちろん神官もね」
「神官に濡れ衣を着せたな」
「ああ。あれは面白かったぞ。あいつを眠らせている間に服や口の周りに血をつけておいたのだ。ポケットに行方不明者の遺留品を入れたこともあった。泣きながら血の付いた自分の服を洗う神官は見ものだったぞ。奴は自分が悪魔にとり憑かれ、皆を殺したのではないかと考えるようになっていったのだ」
「それで悪魔憑きか…」
「この村の人間は簡単に釣れたぞ、ちょっと視線を向ければすぐに盛って後をついてくるのだからな。みんな、お前と同じだったよ」
面目次第もない。
「確か未亡人もいたよな?」
「あの女、本当は同性愛者だ。神殿では人は罪を告白するからな、秘密も知り放題ということだ。すこし耳元で愛を囁いてやるだけで太った体をよじらせて喜んでいたぞ。あの女が頬を赤らめながら私に告白してきた時は、笑いを堪えるのに苦労したものだ」
救いようのない下衆《げす》だ。
「最後に、なんで俺が寝ている間に殺さなかった?」
「ふふふ、その顔が恐怖で歪むのを見たかったからに決まってるじゃないか。苦痛に泣き叫ぶ顔を見ながら、声を聞きながら、お前の生肝を齧《かじ》りたかったんだよ。全員そうやって食べたんだからね」
「それで眠り薬を夕食のスープに混ぜたのか」
「ああ。ふふふ。この身体が欲しかっただろうに、残念なことだな」
そういって屍食鬼《グーラ》は自分の乳房を持ち上げて見せつける。
少し前なら興奮したかもしれないが、今や俺のアレはピクリとも動かない。
アレとは…心だ!
「そうでもないさ、けっこう安心している」
俺の言葉に屍食鬼《グーラ》が眉を吊り上げる。
「どういうことだ」
「浮気をしないで済んだからな。言い残すことはあるか?」
「何をバカな! 両手両足を縛られた状態で何ができる?」
「俺はいつだって何もできないさ。やってくれ…」
俺の思念を受けて机の上でじっとしていたバリとバンペロが高速で飛翔し、屍食鬼《グーラ》の頭をレーザーで打ち抜いた。
計6個の穴を頭にあけられて、グーラは冷たい石の床に倒れた。
鑑定で状態を確認したがちゃんと死亡になっている。
一連の事件はこうして終結した。
 考えてみるとこの神殿に入ってきたときから下水のような匂いがうっすらしていた。
こいつの匂いだったのだろう。
 その夜は別室で寝て、予定通り夜明け前にホフキンス村を出発した。
夜が明けて屍食鬼《グーラ》の死体が見つかったら村は蜂の巣をつついたような大騒ぎになるだろう。
だが俺には関係のない話だ。
俺は事件を説明する責任をもった探偵ではない。
俺は迷宮を暴くことに責任を負った冒険者なのだから。
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