究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第36話 その後

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過酷な一週間が終わった。
俺たちはブラッディ―・ターキーを狩り、ネピアへと運び続けた。
その数12頭。中抜きをして羽をむしったブラッディ―・ターキーの重さは平均600㎏前後になる。
俺たちは実に7.2トンもの肉をネピアに送っていた。

 イエストルダム大聖堂の広場にはコンテストの結果を知ろうと大勢の人間が詰めかけていた。
ブラッディ―・ターキー・レースは1時間前の正午に締め切られている。
集まった群衆は集計中の結果を今や遅しと待ち焦がれていた。
やがて壇上に教会の偉いさんやこの地方の領主コーク侯爵が姿を現した。
「これより、今年度のブラッディ―・ターキー・レースの入賞者を発表する」
大司祭の言葉に民衆が歓声をあげ、熱気がどんどんと膨らんでいく。
「5位から発表していこう。5位はナンバー17、684キロ。狩人グラハム!」
大観衆が足を踏み鳴らし地響きのように広場がなる。
かなりの迫力だ。
俺も広場の雰囲気に飲み込まれて足を地に打ち付けた。
 壇上に登ったグラハムという狩人がメダルと賞金を受け取っているのが見えた。
みなが彼を褒め称え、英雄のように扱っていた。
「続いて4位を発表する…」
このように授賞式は続き、順位が上がるたびに会場に詰め掛けた観衆のボルテージもぐんぐんと上がっていった。
「いよいよ第1位の発表だ。第一位は冒険者パーティー「ホワイト・ベリー」が獲った967キロ!」
 壇上に『ホワイト・ベリー』のメンバーが上がった。
可愛いパーティー名に反して筋肉ムキムキのおっさん5人組だった。
「俺たちの冬が終わったな…」
ジャンが季節外れの高校球児のようなセリフを呟く。残念ながら俺たちの入賞はなかった。
俺はジャンの頭を掌で掴んでゴシゴシしてやった。
「どうせ来年も参加して、俺をこき使うんだろ?」
「あたりめーだ。覚悟しとけよおっさん」
俺に背を向けているのでジャンの表情はわからない。
悔しくて泣いているのだろうか。
青春の涙というやつだ、ほっといてやろう。

「これで授賞式は終わるが、最後に私から個人的に発表したいことがある」
大司祭の言葉に広場の歓声がやんだ。
「入賞するターキーは捕まえられなかったが、なんと5人のパーティーで12頭ものブラッディ―・ターキーを狩り、運んだ強者つわものたちがいるそうだ」
俯いていたジャンの顔が上がる。
「発表しよう。冒険者パーティー『不死鳥の団」だ』
「うおおおおおおおおお!」
おサルさんが雄たけびを上げていた。
「いよっしゃぁ! 俺たちだ!」
「坊主が『不死鳥の団』か?」
「おうよ!」
ジャンはたちまち側にいた人々から抱え上げられ、手から手へと受け渡されて舞台の方へ運ばれた。
ライブ会場のクラウドサーフ状態だ。
あいつが行ったんならそれでいい。
この場の栄誉は切り込み隊長殿に任せるとしよう。
その夜、俺たち『不死鳥の団』はネピアの街でほんの少しだけ名を売った。

 入賞したターキーは聖女が聖別を施して、孤児や路上生活者などの恵まれない人々に配られるそうだ。
なかなか粋なことをするもんだ。
俺たちもターキーの売り上げが60万にもなったから、祝いの宴でもしようかと思ったのだが、冬祭の日は家族で祝うのが当たり前ということでメグとクロに辞退されてしまった。
仕方がないので金を分けてその日は解散することにしたが、馬車や食料の経費を差っ引いて、均等割りにしたらクロにびっくりされてしまった。
それはそうかもしれない、ポーターで8万リムもらえることはまずないだろう
クロだけでなく他のメンバーにも説明しておく
「今回のレースの間中、クロの仕事ぶりを見てきたが非常に素晴らしい。俺としては是非『不死鳥の団』に入ってもらい専属契約を結びたいくらいだ」
「それはボクとしてもありがたいです。皆さんは優しいですし、ボクを種族で差別しませんでした…」
「だったらその金は手付だと思って受け取っておけばいい。異議のあるものがいれば言ってくれ」
メンバーに異議を唱えるものはいなかった。
「うし、これでお前も『不死鳥の団』だな。しっかりやれよ!」
「よろしくね、クロ君」
「励めよ…」
「うが」
最後はクロが泣き出してしんみりしてしまったが、俺たちは笑顔でブラッディ―・ターキー・レースを終えた。
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