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第33話 リーダーはポーター

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 迷宮から地上へと上がる階段のエントランスホールは魔石を利用した照明器具で煌々と照らされている。
冒険者がいきなり明るい日光で目を傷めないための配慮だ。
俺たち『不死鳥の団』は疲れた顔で地上への階段を上っていた。
戦闘もさることながら戦利品としての素材や魔石などの荷物が重かったのだ。
 買取カウンターでとってきた魔石と素材を広げていく。
2泊3日の探索での買取総額は191400リム。
一人頭38280リムの収入になった。
俺たち新人にとってはいい稼ぎだが、パティーやボニーさんにとっては普段の半分もいかないだろう。
「やっぱりポーターを雇うべきですね。置いてきた素材のことを考えると悔しくて悔しくて…」
メグがいかにも無念そうな顔をしている。
素材の多くを持ちきれなくて迷宮の中に置いてきてしまったのだ。
一つ一つの買い取り額は低いものの、すべてを合わせれば2万リムくらいにはなったかもしれない。
例え迷宮の小部屋に隠しておいても、素材などは迷宮の壁や床に取り込まれてしまうそうだ。だから後で取に帰ることも出来ない。
「ポーター募集の張り紙でもだそうか?」
「それがいいと思います。一人4000リムで雇ってももうけは確実に出ますから」
メグは金銭の取り扱いにシビアだ。
「前から思ってたけど『不死鳥の団』の会計係はメグでいいよな」
「おう、俺もそう思う。頼んだぞメグ!」
厄介ごとを回避できたジャンは嬉しそうだ。
「わかりました。イッペイさんは採算度外視で変なものつくるし、ジャン君は問題外ですからね。私がやるしかないでしょう」
 俺は自費で作っているのだから文句を言われる筋合いはないのだが…。
要は金銭感覚がおかしいと言いたいのだろう。
お小遣いをゲームに課金して嫁さんに怒られる、そんな感じかな。
「メグの役職が『会計』なら俺は切り込み隊長な!」
ジャンが勝手な役職をつくっている。
「それでいいと思うよ。リーダーはイッペイさんですね」
「俺がリーダーなのか…」
「年上ですから」
「おっさんだもんな」
…仕方がないか。いまだ10代の二人に言われると言い返せない。
「…斥候役」
ボニーさんがぽつりとつぶやく。
「え? ボニーさんも参加ですか」
「ん…。けってい…!」
パティーが羨ましそうに見ていたが、彼女は既に『エンジェル・ウィング』のリーダーだ。
パティーの気持は後でケアするとして、ボニーさんがいれば心強い。
迷宮の知識も広いし、戦術の幅も広がるだろう。
「いっそボニーさんがリーダーでいいじゃないですか」
「だめ…」
「なんで?」
「懐刀…ぽいのがかっこいい…」
彼女なりのこだわりがあるようだ。

 話し合いで次の探索にはポーターを雇うことに決めた。
なにせ初めての経験なのでとりあえず一人雇ってみることにした。
俺のパーティーでの役割はリーダー兼ポーターなので、もう一人いれば何とかなるだろう。
最近ではゴブに頼らなくても30キロくらいの荷物を持って迷宮を移動できるようになってきた。
もちろんしょっちゅう回復魔法のお世話にはなっている。
だが、俺もポーターとしての経験値は確実に上がっている。
レベルは上がりそうもないけどね。


ポーター募集 1名
明るいパーティーの中で貴方も私たちと働いてみませんか。
【仕事内容】素材、魔石の運搬。解体。露営準備。
【給与】2泊3日で8000リム
【勤務地】第二階層1区~2区

○月×日△時より ハイドン・パーク東屋で面接をします。
お気軽にご参加ください。
第9位階パーティー 『不死鳥の団』


 ホテルに帰るとオンケルさんからの荷物が届いていた。
中身はなんと現金だった。
そういえばオンケルさんには劣化聖剣と模造ホーリー・メイスをオークションに出してもらっていたのだった。
落札価格は剣が890万リム、メイスが1230万リムだった。
ユーライアの奴、結構頑張って落札したようだ。
剣を売って、その剣を強奪しているのだから、考えてみれば俺もひどいことをしているな。
あいつのような悪辣な人間にはなりたくないので890万リムは返すことにしよう。
 メイスは教会が落札したそうだ。
なんでも中央の宝物庫に納められるそうだから、こちらは問題なさそうだ。
蔵の中で眠っていてくれれば誰の害にもならないだろう。
オンケルさんにお礼の手紙とバイアッポイ・スペシャルを3本忘れずに送っておいた。

 風呂に浸かるとしばらく頭の中が空っぽになったような気分になった。
宙に揺蕩《たゆた》うな、意識はあるのだがイメージが言語化できないような感覚だ。
それが気持ちよくてしばらくその感覚に身を任せていたが、気が付くとパティーのことを考えていた。
 俺は貴族にならなくてはならない。
では貴族になるにはどうすればいいか。
一番一般的なのは官僚になるという方法だ。
官僚になり出世して高級官僚になれば貴族に叙せられる。
しかしこれでは時間がかかりすぎてだめだ。
他には国家に貢献して叙勲されるというやり方もある。
この場合は大抵、一代限りの貴族位で世襲はされない。
俺はパティーとの関係のために貴族位が必要なだけだから世襲貴族である必要はない。
またパティーの家は子爵家で下級貴族だ。
一代貴族の男爵あたりでも充分釣り合うのが救いだ。
準貴族である騎士階級でも問題はないだろう。
その手の一代貴族の叙勲は毎年15人前後あるそうだ。
問題はどうやって俺がその15人の中に食い込むかだった。
パティーに聞いた話では経済や学術分野で多大な功績をあげた人間が叙勲を受けるそうだ。
そしてもう一つ、A~C級の魔石を持ち帰った冒険者は確実に叙勲の対象になるという。
史上初の第九階層到達ともなれば世襲貴族も夢ではないそうだ。
俺としては冒険者として叙勲されるのが一番望ましい形だ。
ここは一つ発奮はっぷんして探索を進めようと思っている。

 ハイドンパークの東屋に行くと既に3人の面接希望者が待っていた。
「皆さんこんにちは。『不死鳥の団』リーダー兼ポーターのイッペイです。本日はお集りいただきありがとうございます」
 俺の挨拶に呆れた顔をする面接希望者たち。
やっぱりリーダー兼ポーーターはまずかったか? 
韻を踏んでいていいと思ったんだが…。
俺の挨拶に不安になったのだろう、3人の内2人が辞退した。
そういえば『星の砂』のサウルさんが言ってたな、「生き延びそうなパーティーを見極めること。それがポーターに一番大切な技能です」って。
俺みたいなのじゃ安心できない気持ちはよくわかる。

「残ったのは貴方だけですね」
「はい…」
視線を向けると少年は恥ずかしそうに俯いてしまった。
頭に耳、お知りに尻尾を生やし、全体的に毛深い感じの獣人と呼ばれる種族の少年だった。
ネピアの街には数は少ないが獣人がいる。
この少年は犬人族と呼ばれる種族のようだ。
犬人族は力が強く持久力があり鼻がよく利く。
コボルトにちょっと似ているが顔は人間に近い。
この少年は銀色の体毛に覆われ、中世的な顔をしていた。
「それでは面接を開始しますね。お名前と年齢、これまでの冒険歴を教えてください」
「クロです。14歳です。ポーターをはじめて半年です。第2階層まで行きました」
クロは訥々(とつとつ)とはなす。見た目が幼く、可愛らしい顔つきは少女のようにも見えてしまう。
「じゃあ私たちと同じ第9位階ですね。何区まで行きましたか?」
「1から3区までいきました」
「ほうほう、私たちはまだ2区までしか行ってないんですよ。これは頼もしいですね」
「え?」
「それで条件の方なんですが2泊3日で8000リムでよろしいでしょうか?」
「え? それでいいんですか?」
「ん? 私たちとしてもこの値段は最大限譲歩した値段です。これ以上はちょっと…」
「いや、ボク、獣人だから…」
「? それは見ればわかりますよ」
「そうじゃなくて、普通は半分の値段…」
そこまで言われてだいたいの察しはついた。
どうやらこの国では獣人が差別を受けているようだ。
きっと通常の給金の半値が彼らを雇う相場なのだろう。
よく見ればクロの着ている服もかなり粗末なものだった。
「きちんと働いてもらえれば、こちらもきちんと給金を支払います」
「ほんとうに…」
「よろしければ3日後に迷宮です」
「…おねがいします」
こうしてクロは俺たちのポーターに雇われた。
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