究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

文字の大きさ
上 下
30 / 98

第30話 教師二人

しおりを挟む
 今日は講師にパティーを迎えて『不死鳥の団』初心者講習会中級編が開かれる日だ。
パティーは朝からはしゃいでいた。
早朝からホテルまで訪ねてきて俺を朝食に誘い、食事を食べている時も終始ご機嫌で今日の予定を話してくれた。
「今日中に5区まで行ってそこで宿泊ね。翌日は朝から第二階層で狩りをするわよ」
第二階層の地形、どんな魔物がでるのか、何に気をつけるべきかを経験談を交えて詳しく教えてくれる。
その後、部屋に戻ると俺の荷造りまで手伝ってくれて、二人で迷宮前ゲートまで歩いてきたが、その間、花がこぼれるような笑顔を終始見せてくれていたのだ。
俺もこれから迷宮なのにウキウキした気分になっていた。
だがそれも迷宮前ゲートにつくまでの話だった。

「おっさん! こっちだ、こっち!」
ゲート横の待ち合わせ場所では相変わらずのおサルさんが飛び跳ねていた。
その横でメグも元気に手を振ってくれる。
これから迷宮に探索に行くというのにどこかピクニックに行くような雰囲気だ。
けれども、それは俺も同じかもしれない。
すぐ横にパティーの息遣いを感じ、どうしても華やいだ気分になってしまう。
気を引き締めなければと考えた時、メグの後ろの建物の影から一人の人物が手をあげながら現れた。
「おはよう…」
となりでパティーの雰囲気が変わったのが見なくてもわかる。
「驚いただろ! 俺がボニーさんに頼んで来てもらったんだ!」
ジャンは褒めてくれと言わんばかりの目で俺を見ている。
嗚呼! 無邪気さは罪だ。
有罪だ。
ギルティ―!
「ごめんなさい。気が付いた時にはジャン君が誘ってて…」
メグが小声で詫びてくる。
いいのだよメグ。
君は悪くない…。
パティーとボニーさんが対峙する。
他のメンバーは見えていないようだ。
「おはようございます。第7位階冒険者、パトリシア・チェリコークです」
「ボニー…、第6位階だ…」
互いに名乗り合って探るような目つきを絡ませている。
「イッペイとはどういうご関係かしら?」
「イッペイは私の生徒…。私のポーターとして育てる…」
いや、初耳ですよボニーさん。
「あら、イッペイはもう前から私のポーターなんですのよ」
俺はそういうポジションだったのか?!
「俺、いつからパティーのポーターになったの?」
「あら、だって一緒に冒険したいって言ってたじゃない。でもイッペイには戦闘は無理だからポーターでいいかなって」
「うむ、戦闘は無理だ…」
二人ともひどいよ。
「まあ今回はお二人でイッペイさんを鍛えて上げてください」
一番年齢の若いメグのとりなしでその場は収まる。
 確かに俺は生活魔法に回復魔法、各種スキルがあるからポーターとしては優秀なのかもしれない。
でも、できるなら冒険者として見てほしいよ…。

それはともかく、俺は鈍感系主人公じゃないからパティーとは、今微妙な関係にあることはわかっている。
今日だって俺と探索できるのを楽しみにしていたから、ボニーさんという人が突然現れて面白くない気持ちも理解できるのだ。
俺だってパティーのことが好きだし、関係を一歩推し進めたいところだ。
だけどパティーは貴族だ。
この世界で貴族の令嬢が平民とお付き合いすることは社会的に許されない。
ましてや結婚など言語道断なのだ。
なにせ法律で明文化されているくらいだから。
ちなみに男の貴族が平民の女に手を出すことはいいらしい。
ひどい男尊女卑だよね。
一方で平民の男が貴族と恋に落ちると処罰を受ける。
令嬢の方は修道院に送られて強制的に尼さんにさせられる。
男の方は鉱山で強制労働か処刑が待っている。
強制労働と処刑の分かれ目は肉体関係があったかどうか。
令嬢は身持ちが堅い娘が多いそうで、意外と肉体関係まで発展しないケースが多いという。
つまり俺がパティーに思いを打ち明けるには強制労働を、ベッドを共にするには死を覚悟しなければならないわけだ。
ゆえにパティーも躊躇する。
だからボニーさんの登場に必要以上にヤキモキしてしまうわけだ。

 皆を前に俺は仕切り治す。
「みんなおはよう。今回はパティーとボニーさんを講師に迎えて第二階層を探索したいと思います。それでは二人の先生に挨拶しましょう。本日はよろしくお願いします」
「「よろしくお願いします」」
ジャンとメグはいい笑顔だ。
こいつらの為にも今は仲良く先生をやって欲しい。

 今日のゴブはいつもの大きなリュックの他に長い包みを両脇に抱えていた。
これはメグとジャンのために作り直した武器だ。
最初に作った劣化聖剣と模造ホーリー・メイスはパティーに止められたので渡さないことにした。
あれは鑑定士のオンケルさんに頼んでオークションに出してもらっている。
 二人に作った武器は普通のモノより頑丈で少し攻撃力が高い程度の性能におさえた。
聖の属性を付与したがそれくらいならいいだろう?

「さあ、約束通り新しい武器をつくってきたぞ」
「おお! いい剣じゃねぇか!」
「このメイスも使いやすそうです」
評判も上々だ。
しかし二人ともよくあんなに重い武器が扱えるものだ。
剣はともかく、メイスは装備しても俺の攻撃力に10しか反映されなかった。
本来は189の攻撃力があるのだが、相も変わらず俺では武器の性能を十全に引き出せないようだ。
 前回、メグとのタッグがはまっていたのでゴブにもメイスを作ってやった。
模造ホーリー・メイスを使わせることも考えたが、ゴブはレベルアップするゴーレムだ。
成長を阻害しないようにメグのと同じくらいの性能のメイスにした。

「それじゃあ今日中に5区まで移動するわよ!」
パティーの元気な声に導かれて俺たちは奈落の底へと通じる階段をおりるのだった。
ついに3泊4日の探索がはじまった。

 スケルトンの前では役立たずと化したハチドリ達とヒカル君だが、一階層での殲滅速度は誰よりも早い。
目潰しをされた後に、3方向からの同時射撃を初見で見切れる者などそうはいないのだ。
後続にはジャンとメグ、遊撃にはボニーさん、後詰にはパティーまで控えている。
俺たちはいつもの必勝パターン、プラスアルファで第一階層を駆け抜けた。
午前中に4区に入り、3時くらいには5区まで来てしまうほどの快速だった。

「そろそろ休憩にしましょうか」
メンバーの状態をみてパティーが提案する。
こういうところはさすが『エンジェル・ウィング』のリーダーだけあると感心してしまう。
快進撃で新人たちは気づいていないが、疲労がたまり、僅かだが動作が遅れてきている。
パティーは常にメンバー各人の疲労の度合いや、負傷、水分とエネルギー補給を気にかけていた。
「よし、今日は特別なおやつを用意してるからな。期待してくれ」
適当な小部屋に入り俺はおやつの用意をする。
きょうのおやつはクレープ・シュゼットだ。
レストランによって微妙に作り方が違うのだが、カラメルソースやオレンジジュース、オレンジの皮などを使用して作ることが多い。
でも今日は野外だしここは迷宮だ。
季節的にもオレンジは手に入らない。
俺はもっとシンプルに作ることにした。
バターを溶かした鉄鍋にホテルで焼いてもらったクレープ生地を敷いて火にかけた。
その上に砂糖を振りかけオレンジリキュールを垂らしていく。
蒸発したオレンジリキュールのアルコールに火がついて、フランベすれば出来上がりだ。
「火の魔法みたいで綺麗です! それにオレンジのいい匂い」
甘いものと肉が大好きなメグがうっとりとした声をだす。
その通り、このお菓子は五感で楽しむお菓子なのだ。
視覚と音、匂いを楽しんだ後は、温かさと味を楽しんでほしい。
今日も迷宮の中は寒い。
温かいおやつは皆に大好評だった。

 おやつを食べ終わると、ボニーさんがすっと体を寄せてきた。
パティーが思わず目を剝く。
「イッペイ…いつもの…して…」
「なっ、なにを?!」
パティーがこちらを凝視している。
気持ちはわかるよ。
「洗浄魔法…」
「そ、そう…」
うん。最初は俺も誤解した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

キモおじさんの正体は…

クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。 彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。 その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。 だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。

処理中です...