究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

文字の大きさ
上 下
28 / 98

第28話 デストロイヤー・フォーメーション

しおりを挟む
 ボニーさんを同行者に迎えて俺たちの戦闘スピードは格段に上がり、サクサクと敵を殲滅しながら5区へとむかった。
ボニーさんのすごいところは戦闘力もさることながら、敵の気配を探知する能力、そして隠密能力だといえる。
闇の中から現れ、敵に一撃を加えてまた闇の中に体をとかしていく攻撃スタイルは、見ている俺も鳥はだが立つほど恐ろしい。
だが味方であれば心強いことこの上ない。
敵のせん滅数に比例してジャンとメグのレベルもどんどん上がった。
残念なのはゴブのレベルが上がらないことだ。
常に俺を守ってくれているので出番がほとんどないのだ。
「ごめんなゴブ。俺のお守ばかりさせて」
「うが」
なんて言ってるかはわからないけど、今の「うが」はなんとなく優しい声だった気がする。
ゴブはハチドリたちと違って、経験によってレベルが上がるゴーレムだ。
なんとかゴブの活躍する場を考えてやろう。

 俺たちは4区を抜け、夕方前に5区の第二階層へと続く階段の前にたどり着くことが出来た。
今日はここまでにして下の階層へは明日すすむ。
 この辺りは下の階層へむかう冒険者が多く、どの小部屋も使用中の赤い布が巻き付けられている。
5分ほどかかってようやく使用されていない小部屋を見つけて、今晩のねぐらを確保した。
 この探索の間、俺はなるべくゴブに調理や露営の準備を手伝わせていた。
ゴブは何かを教えると時間はかかるが、その意味を理解して行動ができるようになる。
そしてそのたびに経験値が入っていた。
ハチドリたちの投入で戦闘での活躍は少なくなったが、こういったポーターの仕事をゴブは担っている。先程料理をしようとしたときゴブは命令されなくても荷物から薪を取り出した。
これはすごいことだ。
俺はゴブの今後にかなり期待している。
ジャンとメグもゴブをパーティーの一員として扱って、声をかけてくれる。
このこともゴブの成長に一役かっているとおもう。

 夕飯はボニーさんが持っていたレッドボアの肉を使ってシチューを作った。
秋も深まり迷宮の中も寒さを増している。
温かい食べ物がありがたかった。
シチューを作るとき、野菜の皮むきは全部ゴブにやらせてみた。
幸い失敗してもゴブは指を切ったりすることはない。
多少傷がつくくらいだ。
いざとなれば腕の部分は換装が可能だ。
まだまだぎこちないがだいぶ上手になってきた。
そのうち一人で全部作れるようになるかもしれない。
先が楽しみだ。

 夕食が終わった後、ボニーさんが声をかけてきた。
「イッペイ…して…」
「な、なにを?」
「洗浄魔法」
やめてくれ、その言い方は俺でなくても誤解するぞ。
「ボニーさんは綺麗好きですね」
「匂いを取りたい。気配を絶つ…」
なるほど、敵に存在を知られないために匂いも消し去りたいわけだ。
そういえばコボルトは犬の顔をした魔物だけあって鼻が利くもんな。
他にも嗅覚のすぐれた魔物というのは多いのかもしれない。
俺は念入りに洗浄の魔法をかけてあげた。
「気持ち…よかった…」
だから誤解するって!

 今日はいよいよ第二階層へと突入する。
下へと続く階段は幅が3メートルくらいある。
魔石の照明器具がつけられているため階段は明るく照らされていた。
そのせいだろうか、恐怖や緊張をあまり感じなかった。
新人3人はギルドカードを手に階段を下りる。
おりきった直後、俺たちの手にあったギルドカードの階級が「第10位階」から「第9位階」に書き換えられた。
「おお!」
「やったぜ!」
「やりましたね!」
「警戒を怠るな…」
はしゃぐ俺たちをボニーさんがたしなめる。
でも、なんかいっぱしの冒険者になった感じがして気持ちを抑えきれなかった。
自らを戒める意味で俺は注意する。
「ボニーさんの言う通りだ。緊張感をもっていこう」
「はい。ここからです!」
俺たちは階段の照明にぼんやりと姿をみせる二階層に注視した。

 二階層も一階層と同じで石畳と石の壁が続いている。
見た感じはほとんど一緒だ。
「二階層1区…。地図をみて現在地を確認…」
ボニーさんの指示に従い地図を確認する。

第二階層略図
【4区       】【5区   】【6区       】【7区(下への階段)】
【1区(上への階段)】【2区   】【3区(ステュクス川)】

例によって縦横には進めるが斜めには進めないと考えてほしい。

現在地は第二階層1区だ。
下の階層に行く場合は1、2、3区を経て6区に入り7区へ抜けるのが一般的なルートだ。
ステュクス川は地下水の川で飲用になるので3区を外すルートはまず使われない。
「今日は1区の周辺で狩り…。慣れて」
 ボニーさんに導かれて狩りを始める。
2階層1区の敵はスケルトンが多かった。
そしてこのスケルトンは俺との相性が最悪だったのだ。

 バリの光線がこめかみを、バンペロの光線があばらを、ボーラの光線は骨盤を貫いた。
だがスケルトンは倒れない。
俺の銃弾が珍しく綺麗にスケルトンの眉間に吸い込まれていき貫通する。
それでもスケルトンは倒れない。
そもそも眼がないのでヒカル君のフラッシュはなんの意味も持たなかった。
こいつらは粉々に破壊しなければ倒れないアンデットなのだ。
この場所で一番活躍したのは、やはり殴打用のメイスを持つメグだった。
他の追随を許さない圧倒的なパワーで端からスケルトンを打ちこわし、磨り潰し、撃滅していく。
まさにメグの真骨頂だった。
「この場所、私に向いてるみたいです!」
メグは水を得た魚よろしく活き活きしている。
「おっさん目が死んでるぞ。気にするな、こと戦闘に関してはおっさんにはあんまり期待していねぇ」
 いきなり戦力外通告だと! 
せっかくハチドリトリオを開発したのに、もう使えなくなってしまうとは。
相性というはあるのだろうが、もう少しマルチに対応できるようになりたいものだ。

 スケルトンからはGランクとHランクの魔石がとれた。
「おお。ここは稼ぎのいい狩場だな。しばらくここで狩りをしようぜ」
ジャン君、ここだと俺の立つ瀬がないのだが…。
「そうしましょう。私、頑張っちゃいますよ!」
メグもやる気を見せている。
俺だけ反対もできないな。
スケルトンは動きが遅いし、飛び道具を使わないからゴブにこん棒でも持たせて近接戦闘の経験を積ませるか。
そうすれば俺は後ろでゴブのシールドを構えてみてればいいし…。
 俺はスケルトンが持っていた剣を集めて素材錬成を行いインゴットを作成。
鍛冶錬成でインゴットからゴブのメイスを作り出した。
全金属製のメイスは柄頭が球体でスパイク突起がついたものだ。
「ゴブ、俺の分までがんばってくれ」
「うが」
休憩時にメグから基本的なメイスの扱い方のレクチャーを受けたゴブは張り切って討伐を開始した。
陣形はメグとのツートップだ。
後に『不死鳥の団』デストロイヤーフォーメーションと恐れられる陣形が産声をあげた瞬間だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...