究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第25話 新居

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 俺とパティーは物件を探しに街へでた。
俺の持っている現金は500万リムくらい。
賃貸ならなんの問題もないが、購入となると無理だろう。
出来れば一軒家を借りたい。
地球にいた時は実家は団地だったし、一人暮らしになってからも賃貸マンションだった。
一軒家に憧れてるんだよね。
「それで、どんな物件がいいの?」
「素材を置いとける倉庫がある家がいいな。そのほかは寝室とキッチンがあればいいや」
パティーは不服そうだ。
「やっぱりお客様が来た時のために居間は必要じゃない? くつろげるソファーは欲しいわよ。それに食事をするためのダイニングだっているわ。せめて二人掛けのテーブルが置けるくらいの広さの」
「……」
「寝室は二つね。私が泊まりに行ったとき用の部屋ね。……その、……入ってきちゃだめよ」
こいつ、いいように俺の家を使うつもりだな。
「なんかさ、パティーの希望が随分と盛り込まれている気がするんだけど、俺の家だよね?」
「うっ、いいじゃない。昔から秘密基地に憧れていたのよ! どうせ一軒家を借りればそれくらいの部屋はついてくるんじゃない?」
それもそうか。
「家具やカーテンは私がお金を出してあげるから、私にも利用させてよ」
それって自分の趣味で部屋をコーディネイトするってことでは……。
でも、そんなキラキラした瞳で見つめられたら断れないじゃないか。
俺は押しに弱いんだから。
「わかったよ。でもあんまり値段の高い所はだめだからな」
「そこは理解してるわよ。だいたいホテルでは月に100万リムで契約してたんでしょ? 月100万なんていったら結構な家が借りられるわよ」
「そこまで出す気はないよ。せいぜい20万リムくらいまで? まあ物件を見ながら考えるさ」
「わかったわ。ああ、庭も欲しいわね。ジェニーも呼んで一緒に考えようかしら」
パティーは勝手なことを言いながら自分の世界に入ってしまった。
妄想の中でインテリアコーディネイトを楽しんでいるらしい。
時々「ソファが……」「カーテンは…」とか聞こえてくる。
俺はその手のことは面倒なのでパティーがやってくれるならその方が楽でいい。
センスだってパティーの方がずっとよさそうだしね。
なんかこうしていると新婚の夫婦みたいだ。
うん、朝起きるとパティーが朝食の準備をしている。
エプロン姿がとても可愛い。
エプロンの下はもちろん……。
俺も妄想の中でいろいろ楽しんだ。

 不動産屋にこちらの希望条件を告げていく、主にパティーが……。
「というわけで、庭付きの一戸建て。間取りは3LDK以上でお風呂と倉庫のついた物件をみせてほしいの」
「かしこまりました。ご予算の方はどれくらいでしょう?」
月20万リムで考えていたが、条件が高くなってるぞ。
「月30万リムくらいまででお願いします……」
あ、パティーのやつ視線を逸らせやがった。
バイアッポイのおかげで月々300万リムの収入があるから当面は大丈夫だろう。
冒険者の収入だけならやっていけないだろうな。
先日の討伐隊のポーターの給金は4泊5日で2万リムだった。
今後、雇われポーターではなくパーティーとして活動すればもう少し稼げるかもしれない。
だが新人である俺たちが比較的安全に活動できるのは第一階層のごく一部だけ。
収入はどうしても生産系の技能に頼らざるをえない。
いつかFクラス以上の魔石がとれるようになれば、冒険者の収入だけでやっていけるのだろう。
当面の『不死鳥の団』の目標はそこだった。

 いくつか見せてもらったが気に入る物件はなかった。
俺にとってではなくパティーにとってだが。
「ここは陽当たりが悪いわね」
「もういいんじゃないか、ここで」
「私は武器と防具と物件は妥協しない主義なのよ!」
そんなに気迫を込めなくてもいいだろう。
「なにも高級物件が欲しいわけじゃないの。与えられた条件の中で最高のものを選択したいだけなのよ。ほら、次のお店に行くわよ、グズグズしないで」
俺は気づかれないようにため息をはきつつ、回復魔法を自分にかけた。
 昼食を挟んで3つの不動産屋を巡り、7軒の借家を見せてもらったが、パティーの気に入る物件は見つからないままその日は終わった。
 俺たちは疲れ果ててホテルの部屋のソファに並んで座っていた。
「疲れた……」
思わず口に出してしまう。
「なあパティー、もう少し妥協しないか?」
「いやよ」
にべもない。
なんでそこまでこだわるのか。
急に肩に重さを感じて横を見るとパティーがすやすやと寝ていた。
何でこんなに疲れるほど一生懸命になるんだろう。
そこでようやく思い至る。
俺のために一生懸命に探してくれていたんだな。
自分の為でもあるだろうけれど……。
「ありがとうパティー」
返事はない。
スースーという寝息の音だけが返ってくる。
左肩からパティーの温かさが伝わってきて、自分の体の中に広がっていくような気持ちだ。
暮れていく秋の日が緩やかに室内を照らす。
少し眠くなってきた。
俺もパティーの重さを心地よく感じながら目を閉じた。


「さあ、今日も頑張って家を探すわよ!」
パティーは朝からテンションが高い。
今日はなんとかいい物件が見つかって欲しいものだ。
このままではネピア中の不動産屋をまわることになってしまう。
俺の希望はただ一つ。
迷宮ゲートから徒歩30分以内であればそれでよかった。

 その家は迷宮ゲートから徒歩20分の距離にあった。
背の高い2階建ての石造りで煙突が一本ついている。
形は長方形をしていて、短い方の辺が通りに面して建てられていた。
通りに面したファサードは大きなアーチになっている。
高さ3メートル以上あるアーチには鉄製の格子扉がはめ込まれていたが、これがなかなかのギミックを備えていた。
この格子は外から内部は見えず、内側からは外が見える仕掛けになっているのだ。
格子扉は普段は閉めっぱなしで使えるように、真ん中のところだけ人が通れるように小さくあいている。
階段を5段あがり、格子扉をくぐり両開きの玄関から内部に入るとそこはエントランスだ。
夏は玄関の扉をあけっぱなしにするとよく風がはいって気持ちがいいと、案内してくれた不動産屋のお兄さんが説明してくれた。
格子扉のおかげで開けっ放しでも外から中は見えずプライベートが守られるそうだ。
エントランスの右には二階へつづく階段、左側には奥へと進む廊下がある。
廊下の先は居間、キッチン、ダイニング、トイレなどがある。
そしてエントランス右手前には目立たぬように工夫された半地下室への階段もあった。
半地下室は天井のすぐ下が地上部になっていて明り取りの窓がついている。
奥の方は倉庫にもなっていて作業場として申し分なかった。
2階は部屋が3間とお風呂だ。
お風呂は白い大理石でできていた。
庭はついていなかったが建物の横には馬車を止めるスペースと厩舎もついている。
「パティー、俺、ここがいい」
これ以上の物件はまず見つからないだろう。
それに何とも言えず惹かれるものがこの家にはある。
「そうね。ここなら私としても文句はないわ」
パティーも納得したようだ。
「はい、若夫婦の新居として申し分ない物件と自負しております。お子様がお生まれになっても部屋数は十分とれると思いますよ」
不動産屋のお兄さんの言葉にパティーが顔を真っ赤にする。
「まだ若いから子供はもう少ししてからでいいよね!」
と冗談で言ったら、突き飛ばされてしまったぞ。
ゴブが受け止めてくれなかったら頭をうっていたかもね。
ありがとうゴブ。
ゴブはきちんと学習してるな。
あ、俺が学習していないだけか。
家賃は32万リムと予算を少し超えてしまった。
新しい商品でも開発してチェリコーク子爵にでも売り込むか? 
そのへんもおいおい考えていこう。
こうして俺はネピアの街に新たな拠点を設けたのだった。
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