究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第24話 結成

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 レストラン・デュマはサンガリラホテルから1ブロックほど離れた小さなレストランだ。
シェフのご主人が奥さんと娘さんと一緒に営んでいる。
高級食材を扱うのではなく、一般的な素材で手の込んだ美味しい料理を提供してくれる店だ。
普通の食堂より少し値段は高いが、味と量を考えれば誰もが納得する価格、カジュアルだけどちょっと高級、そんなお気に入りのレストランだった。
そして今夜、俺とメグとジャンは同じテーブルを囲んでいる。
迷宮で約束した通り今夜は俺のおごりだ。
「どれも美味そうで迷っちまうな」
「本当です。特にデザートが! 『アイスクリームを添えたイチジクのコンポート』と『洋ナシのタルト』のどちらにすべきか……」
「メグ、ここのタルトタタンも最高だぞ」
「もう、困らせるようなこと言わないでくださいよぉ!」
メグが可愛く拗ねている。
いろいろ迷いながら3人とも前菜・主菜・デザートを注文した。
「足りなかったらまた頼めばいいさ。約束だからな、好きなだけ食べていいぞ」
「おうよ!」
「いただきます!」
今夜はたくさん食べて、飲んで、生きている喜びを分かち合おう。
俺たちは生還の祝杯をあげた。

「しかし考えてみるとよく生き残ったと思うぞ俺たちは」
ジャンの言葉に俺もメグも頷く。
「そうですよね。イッペイさんに、ジャンにゴブちゃんに私。なかなかいいパーティーでしたよね」
「ああ。フォーメーションとか連携とか実戦で鍛えたから、今や結構いい形が出来てるもんな」
「それだよおっさん! 俺たちはいい形になってるんだ」
「? ……! もしかしてお前……」
「そうだよ。俺たちでパーティーを立ち上げようぜ!」
「それ、私もそれ考えていました!」
うん、盛り上がってるね二人とも。
だが待ってほしい。
俺には二人に伝えなきゃならないことがある。
「なあ待ってくれ。俺も二人がそう考えてくれてたのはうれしい。だけど俺は二人に伝えなきゃならないことがあるんだ」
「なんだよ……?」
そう、この二人には正直に告げなければならない。
俺の弱さを。
「俺のステータスのことだ。こいつをよく聞いてから決めてほしいんだ。例えパーティーの話がなかったことになっても恨まない。関係だってこれまで通りだ」
ジャンとメグは口をつぐむ。
「ここだけの話、俺のステータスはとんでもなく低い。レベルは1だ。こいつは俺の体質みたいなものでしばらく上がることはないと思う。【HP】80、【MP】はアホみたいに高いが攻撃魔法は使えない。基本攻撃力は30、防御力も50しかない。体力は40だし、素早さも50しかないんだ。」
俺はいったん言葉を切って二人の顔を見つめる。
「幸い俺は武器やゴレーレムを作り出す能力があるから、ハンドガンをつくりゴブを作って何とかやってきた。でもそれらを取っ払った素の俺はとんでもなく弱い。……それが真実だ」
沈黙が場を支配する。
「おっさん……。あのな、おっさんのステータスが低いことなんざわかってるぜ」
「そうですよ。あれだけ長く一緒に戦闘をしてたんです。打たれ弱さ、スピードの無さ、近接戦闘の絶望的なセンスの無さ、全部この目で確認済みです」
メグちゃん容赦ないね。
「そうだぜ、俺たち二人ともそれを承知でパーティーを組もうって言ってるんだ。言っとくけどおっさんを憐れんで誘ってるわけじゃないぞ。おっさんは、おっさんで冒険者として工夫してるからな。まあ戦いの才能がない分そっちで頑張ってくれないと除名だからな」
「ええ。たゆまぬ努力を期待します!」
まったく……このガキどもは口が悪くて、口が悪くて、優しくて……涙が出るよ……。
「あ、やだ。泣かないでくださいイッペイさん。バカにしたわけじゃないんですよ!」
「わかってるさメグ」
突然シェフがワインを1本テーブルに置いた。
「え?」
「新しいパーティーの門出だ。酒が必要だろ?」
その通りだ。
俺たちはその日二度目の祝杯をあげた。

 その後、パーティーの名前についてはかなり紛糾した。
食事の間の2時間強、ほとんど名前について考えていたといっても過言ではない。
俺の考えた「宮田一平探検隊」「オレンジ調査団」「鷲《わし》の爪団」などはすべて却下された。
そして結局ついた名前がメグの考えた「不死鳥の団」だった。
27歳の俺としてはちょっと恥ずかしいと思うのだが、メグとジャンは気に入ったようだ。
「それ、いいじゃねえかメグ!」
「でしょ! 迷宮でのあの絶望的な状況から生まれたから不死鳥とつけてみました」
これがジェネレーションギャップってやつですか? 
それともこの世界はこれがかっこいいのか?
「よし。今日から俺たちは『不死鳥の団』だ! いいな、おっさん」
「お、おう……」
改めて名乗るとやっぱり恥ずかしいって。
二人が盛り上がっているから敢えて反対はしないよ。
でもなあ、「救援にきました。不死鳥の団です!」とか、キリッて感じでやればまだいいけど、「救助を要請します。不死鳥の団です」とかだったら悲しさ通り越して笑えるぞ。
不死鳥の団なのに死にかけてるとか、冗談でしかない。
特に俺がいるからそうなる可能性が高いのに。
「それでは私たちは『不死鳥の団』ですね」
「うが!」
ゴブまで嬉しそうにしてやがる。
もういいさ……。
そう、俺たちは『不死鳥の団』だ。


 『不死鳥の団』結成の翌日、俺はホテルを出る決意をした。
いくら50㎡の広めの部屋を使っていても私物が増えれば手狭になってくる。
迷宮で集めた素材や、装備品、買い足した服などが少しずつ部屋を侵食し始めている。
だからといって1泊10万リムもするスイートルームに移るほどの余裕もない。
楽チンで居心地はいいのだが、ホテルを出る以外の選択肢はなかった。
一月で契約しているのでまだチェックアウトには3週間あるが、物件を探したり、家具を選ぶ時間もある。
俺は早めに動こうと思った。
「そういうことなら私に任せなさい」
部屋に遊びに来ていたパティーがなぜか張り切っている。
「迷宮はいいのか?」
「昨日戻ってきたばかりよ、しばらくはお休みするわ。ジェニーも忙しいだろうしね」
ジェニーさんとはパティーの幼馴染で本名をユージェニー・アンバサダーという伯爵家のご令嬢だ。
金髪に白磁の肌という容姿は深層のご令嬢をそのまま体現したかのようだ。
この二人は幼いころから勇者の冒険譚に目がないという共通の趣味を持っていた。
貴族の子女にもそういう人たちは多かったそうだ。
やがて大人になり、周りの同年代たちはそれぞれ現実と折り合いをつけ正しい貴族生活を始めたのだがこの二人は違った。
こともあろうに親に内緒で冒険者登録をした挙句、いっぱしの冒険者になってしまったのだ。
今では女だけのパーティー「エンジェル・ウィング」を結成し、その勇名はそこそこ知られているらしい。
「ユージェニーさんね。綺麗な人だったね、レイピアの腕もすごかった」
「そうね。イッペイはジェニーみたいなのがタイプなの?」
何気ない風を装ってパティーが聞いてくる。
ジェニーさんはパティーとは一見反対のタイプに見える。
パティーがどちらかというと情熱的な美人なら、ジェニーさんは所謂クールビューティーだ。
戦い方も、パティーはこちらの動きを窺おうとする敵の心を制して攻撃する「先々の先《せんせんのせん》」を得意とするのに対して、ジェニーさんは相手の技をかわして攻撃を決める「後の先《ごのせん》」を得意とする。
二人の戦い方はまさに二人の性格そのものだった。
「そうだな…………」
「なに悩んでるのよ! そこはすぐに私を選ぶところでしょう!」
二人は親友でありライバルでもあるわけだ。
「おいおい……。張り合うのはいいけど、俺を巻き込むなよ」
「わかってないわねイッペイは。もう少しスマートに女の子を褒められるようになりなさい」
難しいことをいう。
そんなことはわかっているが、いざとなると言葉が出てこないのが日本男児だ。
イタリア男って本当にすごいと思う。
「わかってるけど俺は詩人じゃないんだぜ。うまい誉め言葉なんてとっさにはでてこないよ」
「ほんとにバカね。パティーが一番だよ。それだけでいいの」
なるほど。それなら単純だ。
「パティーが一番だよ」
「……ばかにしてる?」
……まったくもって難しい。
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