究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第22話 脱出

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俺「カマキリ」
メグ「えーと、リンゴ」
ジャン「ご、ご、ご…ゴブリン!」
はい、またジャンの負けだ。
 ごらんの通り俺たちはしりとりをしている。
三人そろって現実逃避をしているわけではない。
現在俺たちは部屋から出られなくなってしまっているのだ。
 敵の襲撃を辛くも凌いだ俺たちはこの小部屋に逃げ込むことが出来た。
しばらくたって様子を見に行こうということになって扉を開けようとしたところ、扉が5センチしか開かなかった。
扉の前になにか巨大なものがあって、そのせいで扉があかないのだ。
 なんだろうね? 
この青くて堅いものは? となってよく観察したら見覚えのあるものでしたよ。
先程真っ先にベースキャンプを襲撃して護衛の3人を屠《ほふ》った巨大カマキリ、ブルー・マンティスだった。
もちろんそぉっとドアを閉めましたとも。
幸い俺たちの存在には気が付かなかったようだ。
そしてこのブルー・マンティスは何が気に入ったのか、かれこれ1時間以上扉の外に鎮座ましましているのだ。
いい加減にしろよ、このブルマンめ! 
ああ……コーヒーが飲みたい。

 逃げ出すのに必死で荷物はキャンプにすべておいてきてしまった。
幸いポーション類は俺とゴブのウェストポーチに入っている。
身体強化ポーション(10倍)もまだまだ大丈夫だ。
俺の場合、薬の切れ目が命の切れ目になりかねない。
肌身離さず持ち歩いていて正解だった。

「腹減ったなぁ。おっさん何か持ってないか?」
「あの状態で持って来られるかよ。水なら魔法で出せるぞ」
「あの。私はイッペイさんに貰った干し肉を持ってます」
メグは俺があげたレッドボアのジャーキーをおやつに食べようとポケットに入れておいたそうだ。
本当に肉が好きなんだね。
 俺たちはジャーキーと水だけのわびしい昼食をとった。
「さて、そろそろいったかな?」
俺たちは目で頷き合って扉の方へ移動する。
準備はオッケーだ。
ゴブよ、そおっと扉を開けるのだ。
「……」
まだいるよ……。
 その後ブルー・マンティスはジャンがしりとりで3回負けた後、あっち向いてホイで10連敗して、ふて寝して起きる2時間後までいて、いつの間にかいなくなっていた。

 かなり時間が経っていたが、俺たちはおっかなびっくり警戒しながら、静まり返ったベースキャンプへと戻ってきた。
「……誰もいませんね」
不気味なくらい静かだ。
荷物もなくなっている。
ベースキャンプの跡地には魔物が死屍累々(ししるいるい)とその身を晒すだけだった。
「おい、おっさん」
ジャンが指さす方向を見ると、新しい墓があった。
土を盛られただけの、すぐにでも忘れ去られそうな墓だった。
墓の規模を見る限り討伐隊の中でも少なくない死者が出ているのがわかった。
彼らがもうこの世界のどこにもいないなんて嘘みたいだ。
せめて祈ろう。
死んだ者たちが別の世界に飛ばされて、新しい人生をやり直していると信じて。

「どうしましょう? ここでみんなを待ちますか?」
「いや、荷物がないんだから本隊はもう移動したと考えるべきだ」
「だったら俺たちも早く移動しようぜ。またあのカマキリが来るかもしれない」
ジャンの言う通りだろう。
俺たちは足早にベースキャンプの跡地から離れた。

移動しながらステータスを確認する。

射撃Lv.7(命中補正+7%) 
【次回レベル必要経験値】 26/100000

射撃レベルが6から7に上がっていた。
経験値も4から26になってたぞ…。
およそレベルが上がる気がしないな。
そういえばゴブはどうだろう?

ステータスオープン

【名前】 ゴブ1号
【年齢】 0歳
【Lv】 7
【HP】 167/167
【MP】 0/0
【攻撃力】51 (+128)連射式クロスボウ
【防御力】172 (+175)アイアンメイル、ヘルメット、タワーシールド
【体力】 322 (-7)
【知力】 39
【素早さ】38  (-17)
【スキル】灯火Lv.2 目の部分が光って辺りを照らす。射撃Lv.8 シールド防御Lv.2
シールドバッシュLv.1
【備考】 半自立型ゴーレム。行動には3MP/分が必要。MPチャージは180まで。よって主人から1時間以上離れて行動できない。半径3メートル以内に主人がいれば魔力をチャージすることが出来る。
【次回レベル必要経験値】 14/1000

おお、知力が21も増えている。
【HP】と【MP】は魔石と材質に依存するから変わらないのだろう。
攻撃力と防御力は実戦で経験を積んだせいか、攻撃で1、防御で27ポイント上がっているな。
特に最近は盾役として頑張ってくれていたから防御力が伸びている。
盾系の新しいスキルまで覚えているではないか! 素晴らしいぞゴブ!

「で、おっさんはどっちに向かうのがいいと思う?」
ジャンが地図を広げながら聞いてくる。
恐らく本隊は2区のレビの泉に向かったはずだ。
俺たちも当然2区を目指す。
だが2区に行くには二つのルートがある。
一つ目は往路で通ってきた3区を経由するルート。
もう一つは第二階層へと続く階段がある5区を経由するルートだ。
3区を経由する場合は来るときに通ってきたばかりなので、道をよく覚えているという利点がある。
しかし3区というのは滅多に利用されない狩場だ。
『星の砂』のように3区をメインの狩場にしているパーティーは非常にマイナーなのだ。
故にどこかのパーティーに救援を求めることが出来ない可能性が高かった。
これに対して5区は第二階層へと続く階段があるくらいで、実力のあるパーティーがよく通る。
しかし俺はまだ5区に行ったことがないのでかなりの不安が残る。
「ジャンとメグは5区にいったことはあるか?」
「俺は1回だけポーターとしてならあるな」
「私はありません」
5区に行ったことがあるのはジャンだけか…。
「俺は3区に引き返すのがいいと思う。3区なら全員土地勘がある」
「私も賛成です」
「俺も異存はないぜ。5区は一回行ったきりで案内できるほど詳しいわけじゃない」
 意見がまとまったので俺たちは3区へと引き返すことにした。
無事に帰れるか不安だが、せっかく転移したんだ、もう少しこの世界で生きていたい。
そう考えている時にパティーの顔が頭に浮かんだ。
俺をこの世界につなぎとめているのは生へ執着だけじゃなくパティーの存在が大きいのだろう。
もう一度あいつに会いたいと思う。
よし絶対に帰るぞ!
静かな決意を胸に俺は歩き出した。

 なるべく魔物とエンカウントしないように気をつけているのだが、どうしても見つかってしまう場合はある。
そういう時はやむなく戦闘になのだが、俺たちは新人にしては強い方だ。
ジャンの剣技は新人たちの中では頭一つ抜き出ていた。
メグのパワーはベテランのそれを凌駕していた。
ゴブの盾の技術もそれなりに上がっている。
そして俺の射撃は、……なぜ当たらない。 
動いている敵に当てるというのは本当に難しい。
特に距離が10メートル以上離れているとほぼ偶然にしか当てることはできなかった。
魔石の関係でアサルトライフルは作れないし、無事に帰還出来たら新しい攻撃方法を考える必要がありそうだ。
言い直さなければならないな……。
俺以外のメンバーは新人にしては強い方だ……。

 移動を開始して2時間、俺たちはなんとか6区を抜けることが出来た。
来た時と違って荷物が全くないので移動速度は速かった。
しかも当人たちには気づかれないように、ごく弱い威力で回復魔法をジャンとメグにはかけている。
おかげで二人とも疲労を感じていないようだ。
もちろん俺にはフルリカバリーだ。
「3区にたどり着いたな。思ったより疲れないや。おっさんはへばってねぇか?」
おれが内緒で回復してやってるんだよ。
「私もなんか体が軽いです。レベルアップのせいかな?」
メグが嬉しそうに笑う。
ほんとにこの子の笑顔には癒されるわ。
「よし、この分なら今日中にレビの泉までいけるな」
俺たちは警戒を怠らずに歩き出した。
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