究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第18話 初めてのポーター

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 出来上がったばかりのスキンケアセットをパティーに届けてもらうよう手配して、俺とゴブはホテルを出た。
迷宮に到着するとベテランのような顔でギルドカード提示してゲートを通る。
もたつかずスマートにカードを出すことが出来た。
ホテルで練習しておいてよかったぜ。

 ゲートの中は冒険者たちの喧騒に包まれている。
ポーター募集の声もあちらこちらで聞こえた。
「三階層の探索5泊6日だ。食料はこちらもちで一日4500リムだ。6人募集するぞ」
「二階層3区までの探索よ。3人募集。2泊から3泊ってとこね。一人3800リムよ」
条件の良いところ、強そうなメンバーや美人がいるところから枠は埋まっていく。
俺が観察している内に、よさそうなパーティーの募集は次々と締め切られてしまった。
俺は他のポーターの勢いに押され、自己アピールも割り込むことも出来ずに取り残された。
残っているパーティーもポーターもまばらになり、それぞれが窺うようにお互いの顔を見ている。
「あのぉ、1階層3区周辺ですが1泊2日で3000リムでどうですか?」
40代くらいの冴えない感じの冒険者が声をかけてきた。
同じ40代でもロットさんとはえらい違いだ。
「1日3000リムですか?」
「いえ、2日で3000です。その代わり食料はこちら持ちです。荷物も多少少な目ですから…」
1階層2区までは講習会で行ったが、3区はまだだ。
着実に進めていくのがいいかもしれない。
それにこの人はしょぼくれたおじさんに見えるが、逆を言えばこの年まで冒険者として死なずに生き抜いてきたベテランでもあるのだ。
「あの、私やります」
俺が考えていると、横から小さな女の子が手を上げた。
身長は145センチくらいで、がりがりに痩せている。
目鼻立ちははっきりしていて可愛いが、顔色が悪かった。
「いくら荷物が少なめといっても20キロは越えるよ? 大丈夫かい?」
「はい。絶対運んで見せます」
女の子は真剣だ。
きっとこれまでにいくつかのパーティーに断られたのだろう。
喰いつかんばかりにアピールしている。
「それで君はどうする?」
他にパーティーもほとんど残っていなかったので一緒に行くことにした。

 俺を誘ってくれたおじさんはサウルさんといって『星の砂』というパーティのリーダーだそうだ。
階級は第8位階。
サウルさんの他に後二人メンバーがいるそうだが、今はゲート横の商店で買い物中とのこと。
ゲート横の商店は冒険者御用達で探索に必要なものはほとんどここでそろう。
値段も安いのでこの商店を利用する冒険者は多いそうだ。
しばらく待っていると賑やかな二人組がやってきた。
何やら言い争っていると思ったら、買い物が遅れた責任をなすりつけあっていた。正直どっちでもいい。
「トムさんもジュリーさんもいい加減にしてください。みんな待ちくたびれてますよ」
迷宮に入る前から疲れた様なサウルさんに促されてようやく自己紹介がはじまった。

パーティーリーダー サウル(43歳)第8位階、盾役。
トム (24歳) 第9位階、槍使い。
ジュリー(23歳)第9位階 弓使い。

リタ (16歳) 第10位階 ポーター
そして俺。
以上が今回の探索パーティーのメンバーだ。
俺とリタは渡された荷物を背負う。
俺の分はゴブが持つので、リタの分を少しもってやった。
そうでもしないとすぐにも倒れてしまいそうなんだよねこの子。
歩きながら食べるようにと飴ちゃんをあげたら、貪るように矢継ぎ早に口に入れていた。

 『星の砂』の面々は決して強くはないが堅実な戦いをしていた。
サウルさんが敵の攻撃を大盾で防ぎ、トムがその後ろから槍で牽制する。
さらに後衛からジュリーが矢を射るという基本的なスタイルだ。
数の多い魔物には手を出さずに、そっとやり過ごす。
はぐれていたり、2匹くらいの魔物だけを選んで討伐していた。
戦闘力は低いが索敵や隠密行動という技能においてこのパーティーは有能だった。

 戦闘がはじまると俺とリタは後方まで下がり身を隠した。
この間は荷物もおろせるし俺たちにとっては休憩になる。
二人でカボチャチップス(歩きながら素材錬成で乾燥させて作った)をかじりながら見学した。
もちろんゴブにタワーシールドを構えさせ、自分はハンドガンを手に持った態勢で警戒はしている。
リタにはすっかりなつかれて、いろいろな話を聞いた。
ここのところ、きちんと給金を払って貰えなかったり、ついていったパーティーが全滅して他のパーティーに救助してもらったりが続いてお金がなく、碌に食事がとれなかったそうだ。
リタを雇ったパーティーが全滅したのは第1階層。
突然現れたジャンボ・ホッパーの群れになす術もなくやられたという話だ。
「最後の一人が倒れたのを見て逃げ出したんです。もう生きた心地がしませんでした。偶然にも他のパーティーの人がいて、その人たちは優しかったから随行を許可してくれたんです」
「運がよかったんだね。下手したら悪い人に殺されるなんてこともあるんじゃない?」
「それは大丈夫です。そんなことしたらギルドカードが赤くなりますから。ただ荷物が奪われるなんてことはしょっちゅうらしいですよ」
なるほど。
ギルドもいろいろ考えているのね。
ゲートのところではギルドカードの提示が絶対だし、その時に赤いカードを出したらすぐに逮捕されちゃいますな。
「もっとカボチャチップス食べる?」
「はい! いただきます。素朴だけど美味しいですねこれ」
俺たちはポリポリやりながら戦闘を見学し続けた。
このパーティーは堅実だけど戦闘に時間がかかるんだよね。
かなり安全マージンを大きくとっている。
戦闘が終了すると今度は俺たちが忙しい。
解体作業をして素材を集めるのは俺たちポーターの仕事だ。
その間にサウルさんたちは剣を砥ぎ、矢を回収してから休憩していた。
解体は素材錬成がある俺が上手なのでゴブには矢の回収を手伝わせた。
トコトコと走り回って矢を回収する姿がいたく気に入ったらしく、ジュリーさんが喜んでいた。
「この子かわいいわぁ。なんか一生懸命拾っててさぁ。ウチの男どもにも見習わせたいわ」
「うが」
ゴブがジュリーさんに張り切って矢を手渡している。
本当にこのゴーレムは女好きだよ。
しかもストライクゾーンが広い……。
ジュリーさんのお顔はあんまりモテそうなタイプではない。
むしろその逆……。
でもゴブは嬉しそうに矢を拾っていた。

 夜になると迷宮の中は一段と冷え込んだ。
小さめの部屋を占拠し、外側のドアノブに赤い布を巻き付ける。
今夜の野営場所だ。
たき火を熾《おこ》そうと生活魔法で火をつけていたら「星の砂」の面々に驚かれた。
生活魔法持ちはポーターでもかなり優遇されるそうだ。
「普通は私たちのような貧乏パーティーでは雇えないんですよ」
サウルさんの説明に俺は苦笑するしかない。
「今日一日でお気づきでしょうが、『星の砂』は臆病者の集まりです。私たちはほとんどリスクをとりません。倒せる敵に対して、倒せる状況下にある時だけ闘います。そうやって稼ぐパーティーなんです」
「じゃあ、いつも1階層で狩りをするのですか?」
リタが質問する。
「そんなことはありません。他のパーティーが多い日は、魔物の群れが蹴散らされますよね。そんな時は逃げて単体になっている魔物を狩りに2階層に行くこともあります。状況次第です」
村人が落ち武者狩りをするような感じだな。
「失望しましたか? でも私は強くないですし、死にたくもありませんからね。このスタイルは気に入ってるんです」
「失望なんてしません。先日私がついていったパーティーはジャンボ・ホッパーの群れに囲まれて全滅しました。サウルさんのような人がいたらそんなことにはならなかったと思います」
「ありがとうリタさん。うちはパーティーメンバー募集中ですからね、その気があったら言ってください。イッペイさんもですよ」
なるほど。
こうやって自分に合ったスタイルのパーティーをそれぞれ見つけていくのかもしれない。
果たして俺はどんなパーティーに参加するのだろうか……。

リタはマントを持っていなかったのでゴブのマントを貸してあげる。
「いいんですか?」
「大丈夫。ゴブは寒さを感じないからね」
「ありがとうゴブちゃん」
「うが」
木でできたマネキンのような顔をしたゴブの表情は変わらない。
でも一瞬だけゴブが優しく微笑んだようにみえた。
きっと焚火の揺らめく炎のせいだろう。
薪がパチリと音をたて小さな火の粉が舞った。
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