究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

文字の大きさ
上 下
7 / 98

第7話 オンケルの渇望

しおりを挟む
 視線がとっても痛いです。
俺はチェリコーク子爵家の応接室にいる。
「それでパティー、こちらはどなたかな? 紹介してほしいのだが」
子爵の言葉にドギマギするパティー。
「彼はイッペイよ。旅の途中で知り合ったの。その…私の友人よ」
みな目を見開いてびっくりしている。
やはり平民ぽいのが友人というのは常軌を逸しているのだろう。
子爵だけは表情を変えずに声をかけてくる。
「イッペイ君か。姿を拝見するに東のクリネスクよりさらに向こうの方のようだ」
「初めまして子爵。私はイッペイ・ミヤタと申します。ご推察の通り東方からの旅人でございます」
転移などと説明するのは面倒なので適当に話を合わせてしまおう。
「ふむ、ミヤタとは聞かない家名だが貴族の方か」
「えー、先祖が士族です」
ご先祖様はお侍らしいので嘘は言ってない。
「そうであったか。ネピアへよく参られた」
なんか納得しちゃったみたいだ。
他の人々が首をかしげているので子爵が説明をしてくれる。
「士族とは東方の国々において、武門を司る家のこと。我が国の騎士と同じだよ」
うん、それほど間違ってはいないと思う。
よくわかんないけどそういうことでいいんじゃない。
みんなも納得したように頷いているからいいことにしよう。
パティーもほっとした顔をしている。
身分差別はいけないが、この世界の常識ではそんなことは言えないだろう。
郷に入っては郷に従えという諺もあるくらいだから、空気を読んで静かにしておくことにする。
「君は士族ではないのかい?」
パティーの兄らしき人が追及してくる。
「私は次男なので家督を継いでおりません。なので、遊学のために旅をしております」
嘘半分、真実半分だ。
だが子爵は納得してくれたみたいだ。
「それで今日は当家にはどういった御用でいらっしゃったのかな?」
「一文無しだから泊めてもらおうとしてました」とは言えない。
ここは一発、はったりをかまして商売をさせてもらおう。
俺はパティーが弁明しようとするのを手で制して口を開いた。
「お恥ずかしい話ですが路銀が大分乏しくなりまして……。なに、贅沢をしなければまだ1月は暮らせます。その間に国元から金は届くと思うのですが、やはり宿や食事の質を落とすのは辛いのです。そこで私が所持している東方の秘薬やナイフなどをパティーさんに買っていただけないかと持ち掛けたところ、商品を見てくださることとなりました」
 自分なりに上流階級ぽく言葉を継いでみたけどどうだろう? 
「ほほう。東方の品々ですか。それは是非私も拝見したいですな」
よし! 
子爵は社交辞令でああいったに過ぎないだろう。
だが、品物さえ見れば絶対に喰いついてくるはずだ。
商品自体は一平印の良品ばかり。
きっと売れるに違いない。
売れてほしい!
俺は旅の途中に錬成したものを机の上に並べていった。

 まずは柄が鹿角で出来たナイフだ。
見る人が見ればこのナイフがただのナイフではないことはわかるはずだ。
持ち手の鹿角の芸術性もさることながら、刃には「聖」の属性がつけてある。
ちなみにネピア観光の途中で寄った教会の水を拝借して属性を付与したから間違いない!
教会の椅子に座って作業したのは内緒だ。
ナイフを手に取った子爵の目が見開かれる。
「だれか、オンケルを呼んでまいれ! ミヤタ殿、我が家のお抱え鑑定士にお品を見せてもかまいませんか? 気に入ったものがあればお互いに納得できる値段で取引ができますので」
「もちろん構いませんよ」
こちらとしても商品には自信がある。
品質を正しく理解してもらった方がいいのだ。

 しばらくして頭の禿げあがったオンケルという鑑定士がやってきた。
メタボ体型のせいか頭が汗で光っている。
眉毛が太くて結構濃い顔をしていた。

鑑定

【名前】 オンケル
【年齢】 52歳
【職業】 鑑定士
【Lv】 8
【HP】 39/39
【MP】 162/163
【攻撃力】39
【防御力】42
【体力】 36
【知力】 152
【素早さ】36
【魔法】 
【スキル】鑑定Lv.12

 どうしてこのおっさんが俺より素早いのか……。

 子爵が事情を説明すると、オンケルさんはすぐに鑑定を始めた。
「こ、これは『聖』の属性付きナイフではありませんか! 市場には滅多に出回らない品です。オークション会場でたまに見かけるくらいです。拵《こしら》えの芸術性も高い。ナイフの切れ味も申し分ない。まごうことなき逸品です」
聖属性の武器ってそんなにレアだったんだ。
神官さんが信者にかけていた水を勝手に使わせてもらったんだけど思った以上の効果だったな。
「どれ、このポーションは。……っ!!」
それは普通の下級ポーションだよ。
「バカな。これ一本で【HP】を500も回復させるというのか!!」
「なんだと?!」
部屋にいた男たちが色めきだす。
「ミヤタ殿これは?」
道端の薬草で作りましたとは答えられない雰囲気だ。
「母が私の身を案じて持たせてくれた秘伝の薬で反魂金液《はんごんきんえき》と呼ばれています。少々過保護が過ぎるとは思いましたが、せっかく母が用意してくれたので持ってきたものです」
我ながら適当なセリフがスラスラ出てくるものだと感心してしまう。
「これは5本すべて売っていただけるのですか?」
「構いませんよ。まだ数本ありますから」
このような会話が続き、ついにオンケルさんが売れ筋本命ポーションのところにやってきた。
さあ、その効果をみて驚くがいい。
ふふふ。
鑑定を終えたオンケル氏がポーションを持ったまま固まっているぞ。
「どうしたのだオンケル。早くポーションの説明をせぬか」
「それは……」
オンケルさんは応接室を見まわして口ごもる。
「失礼をば……」
オンケル氏は子爵に近づきそっと耳打ちした。
「それはまことか?!」
子爵が確認するように俺の顔を見てきたので、強く頷いてやった。
「ミヤタ殿、こちらの商品も6本すべて売っていただけるのか?」
「はい。私には必要ありませんので」
「そうか……」

結局、ナイフもポーションも全部買ってもらえた。
全部で白金貨3枚と金貨56枚もらったのだが、価値がよくわからない。
その後で夕食をごちそうになって屋敷を辞した。
シギという鳥の料理が出されてすごくおいしかった。
赤ワインを使ったソースによく合っていたな。
料理スキルのせいかレシピがわかったので今度自分でも作ってみようと思う。

 パティーが気を利かせて、馬車でホテルまで送ってくれるように手配してくれた。
昨日まで野宿ばっかりだったのに急にセレブな感じになってしまったな。
ところでホテルっていくらかかるんだろう?
パティーは俺の財布の中身を知っているから、足りないなんてことにはならない筈だ。
今度折をみてお礼の手紙を書くことにしよう。

 そう言えば帰りがけにオンケルさんに声をかけられたな。
「あの薬はもうないんでしょうか?」
かなり真剣な顔をしていた。
血の涙を流さんばかりだった気がする。
今度材料が見つかったら作ってあげるとしよう。

鑑定
【名称】バイアッポイ スペシャル
【種類】勃起薬
【効果】種類から察してくれ
【属性】性属性
【備考】継続時間 7時間 副作用:軽度の目眩と頭痛を感じることがあります。
心臓に疾患のある方は服用を控えてください。

聖なるナイフ 白金貨3枚
回復ポーション(小) 金貨10枚×5
バイアッポイ・スペシャル 金貨1枚×6
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...