今日、私達は家出します。

＃12 先輩…

先輩と共にホテルに戻る。
ホテル員さんには私から報告しておいた。
部屋に入ると先輩は「おー」と声を上げた。
「向こうの部屋にベッドが一つあるので、先輩はそこで寝てください。私達はここで寝ますから」
「…んー」
先輩はすごく嫌そうな顔をした。
…どうせソウみたいなもんだろう。
〝一緒に寝たい〟そうでしょ？
「妹と寝ちゃダメかな？」
「え？…あ、いいですよ」
えぇぇ!?
私じゃないの！…ちーん。

先輩は妹と一緒にこの部屋で寝るらしい。
私は向こうの部屋で、本を読んでいた。
〝今日、私達は家出します。〟という本だ。
だがこの本は、何も書かれていない〝白紙〟が半分以上で、しかも字が書いてあるところは、すべて私たちが体験したことと全く一緒なのだ。
ソウと出会い、共に家出し、ファーストキスを奪われ、ソウが犯罪者とわかり、犯されそうになって、殺して、先輩と出会い、一緒に水族館を回り、ベッドの事で少し嫌な顔になって、妹が取られ、今は部屋で本を読んでいる。全てが書いてあった。
そしてまだ、体験していないこの先は、白紙だった。

隣の部屋からテレビの音がする。
…何見てんだろう。
ガチャとドアを開ける。
部屋には先輩しかいなかった。
妹はこのホテルの二階にある〝こどものひろば〟に行ったらしい。
「先輩…」
「お！やっときた」
ポンポンと隣の席を叩いている。
座れと言う意味だ。
私は腰をおろした…近い。
肩が当たるほどだ。ドキドキして、心拍数が上がる。
「緊張してるの？」
胸の鼓動が…先輩に聞こえてた!?
「え…はい…」
「アヤ…お前キスとかした事ある？」
「…ファーストキス…ですか？」
「うん、まぁね」
「この前強制的に奪われました」
「…そっか。じゃあ、まだ奪われてないのは？」
奪われてないもの…それは…
「心です！」
何言ってんだ私
馬鹿すぎるだろ
「ぷっ…ハハハッ！」
「アハハ…」
「面白いこと言うな、アヤは」
と言って頭を撫でてくれた。
…まさに理想の彼氏。
「アヤ…あのさ」
「はい」
「付き合ってくれないか？」
えぇぇ!?『まさに理想の彼氏』とか思ってた時にこれ言われるとか、私の心を読んでる!?
な、なんて返そう…
「はい…」
言ったぁぁぁぁぁ!!
「やった！ありがとう」
先輩は爽やかな笑顔を私に向けた。
…やっぱりかっこよかった。

年上と付き合うと、浮気されやすいと聞いたことがある。先輩ならしないと思うけど、一応慎重に…
もし、浮気をしていたら「浮気してるよね？」って言わずに、その日は一日中優しくすればいいんだっけ…確か罪悪感を覚えるって書いてあったな。
ま、試す日は当分来ないと思うけど。

「先輩…」
「ん？」
「妹、迎えに行きましょう」
「んー、もうちょい待ってくれる？」
「え？」