白百合と黒薔薇

巴雪緒

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白百合と黒薔薇 白百合視点

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私はずっと貴女を見つめていた。
心の中に想いを秘めながら。
男性と並んでも引けをとらない体付きに長い手脚、白髪のポニーテール、よく透き通る声。
そして溢れんばかりの笑顔が私には眩しかったが大好きだった。
出会いは偶然、森で迷子になり泣きじゃくっている私に手を差し伸べてくれたことがきっかけだった。
差し出された手はとても優しく、そして温かかった。貴女は私にとって、童話に出てくる王子様のように見えた。
そうやって私は恋に落ちてしまった。

話してみると、貴女はこの国の騎士であることがわかった。
それに比べて私はごく普通の花屋の娘。
身分には雲泥の差があった。
それでも私は貴女に惹かれていき、この想いは加速していく一方であった。

出会った日を境に私と貴女は友達になったけれど、心の何処かでは満たされていないこともまた事実であった。
だって私にとっては特別でも、貴女にとって私は数ある友達の一人に過ぎないから。
それがただただつらくて悲しかった。
私は恋愛感情として貴女のことが好きだからだ。

想いは日に日に積もっていくばかりで、かき消すにはもう手遅れになっていた。

だからこそ誰かからもらった薔薇の花束を、満面の笑みで抱える貴女の姿を見た時は、胸が張り裂けそうになった。

私は見てるのがつらくて、その場から逃げ出した。

家に着いた途端、部屋に逃げ込んだ。
すると同時に涙がポロポロと頬を伝った。

本当は貴女と結ばれたかった。
だけど、それが許されることではないことくらいわかっていた。
花束を手にした貴女はとても幸せそうだったから、きっと異性にプロポーズでもされたのだろう。

どうして、こんなにも身分が違うのだろう。
どうして、同じ性別に生まれてきてしまったのだろう。
どうして、貴女を好きになってしまったのだろう。
私は初めて自分を呪った。

だからこの気持ちに終止符を打つことにした。

この想いが溢れてしまう前に、自分自身を殺すことにした。そうでもしないと、私が壊れてしまいそうだったから。

初めて出会った場所に腰掛け、瓶の中の液体をじっと見つめる。

それに幸せであり続けるためには、遅かれ早かれこうするしかないと思った。

瓶の中の液体を口に含むとそのまま飲み込んだ。飲み込んだ毒が私の身体を蝕むのには、あまり時間は掛からなかった。
こんな方法しか思いつかなかった私を許してほしかった。

切り株に瓶と手紙を置くと、そのまま百合畑に仰向けに倒れ込んだ。
視界は朦朧として、もう何も見えなくなった。


ただ、もし……。
もしまた会うことができたら……。

その時は抱きしめてもらって良いかな……?
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