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一年後(その十四)最終話

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 錬に促され、元のソファに座る。
 すると環くんが戻ってきて、錬になにか紙を渡している。

「ユリ」
「うぐっ、ひくっ、なによ」
「これに名前書いて」
「うくっ、名前?」

 なによ? 別れます、っていう誓約書かなにか? って、付き合ってないってのっ!
 自分でツッコミを入れるが、もうどうでもいい。いいわよ、なんでも書くわよ。
 ん? これ……錬の名前と住所……それから右側には環くんと、なぜか春輝の名前もあるけどいいの?
 まあいいや、とにかく書けばいいのね。
 紙を見ると婚姻届と書いてある。

「ひぐっ、そう、婚姻届ね。うぐっ、はいはい、これに名前を書けばいいのね。婚姻、届……婚姻届? ……はいっ⁉︎」

 な、なにこれ、これなに?
 なんで、婚姻届?
 意味がわからない、よ?

「もうほらー、錬はなんでそうなのさ。ユリちゃんが固まっちゃってるじゃん。ユリちゃんにちゃんと言わないの? プロポーズの言葉」
「プ、プ、プロ、プロ、プロポ……」
「ユリ……あー、嫌なら、書かなくていいけど……まあ、書いてほしいけど」
「……」

 言葉が、出てこない。
 なんでこうなるの?
 プロポーズって、なんだ、あれだ、結婚するってこと?
 おかしい、おかしい。

「あ、あのね、ふたりとも。もう私をからかうのは……」
「ユリちゃん」
「……は、い」
「あのね、婚姻届はね、日本では重婚は認められていないからとりあえず錬と結婚て形で、僕はただの同居人。どうせ紙の上での話だし、どっちでもいいけど。でも、ユリちゃんはなにかしら形になっていないと不安だろうからね。本当は、嫌だけど……錬に譲った。そこまでこだわらなければ、普通に三人で暮らしていけばいいと思うしね」

 環くんは話を続ける。

「僕たちはね、最初からユリちゃんとずっと一緒に居るつもりでいたよ? 早く一人前になって、働いて、ちゃんと生活をしていけるようにがんばったよ? ユリちゃんは、僕たちと一緒に暮らしたくはない? ずっと一緒に居たくはない? ユリちゃんの気持ちは違うの? 僕たちだけの思い込みだったの? ねえ、ユリちゃん、ずっと一緒に居よう! 僕たち三人で! それからね、介護上等! 愛しいユリちゃんの体を、他の誰にだって触らせるもんか」


   * * * * * *


「ユリ」
「……はい」
「初めて会ったときから、俺……たぶんもう、ユリのことが好きだった。無理やりだったけど、ユリを連れてきてよかった。ユリのことが、可愛く見えて仕方ない。歳は関係ない。好きなんだ。愛してる。ずっと一緒に居たいし、居て欲しい。家族になろう、俺たち。俺たちと、新しい家族の形を作っていこう。どうか、結婚してください、ユリ」

 切れ長の目、通った鼻筋、涼しげな口元のイケメンは、甘い声、少し潤んだ目でこう言って私にプロポーズをしてきた。
 もうひとり、全く同じ顔のイケメンが、隣で優しく私を見つめている。

「ユリちゃん。僕たちのこと、好き?」

 もうひとりのイケメンの問いかけに、ブンブンと大きく頷く。

「ふっ、なんだよ、それ。……じゃあ、ユリ。これに名前書くか?」
「……」

 プロポーズをしてきたイケメンが、もう一度私にきいてくる。
 どうしよう……でもそれは、とりあえず、置いておきたい。
 だって……彼らの行動を縛ることになるのは……やっぱり嫌だ。
 黙っている私を見て、そのイケメンは一瞬寂しそうな顔をして、こう言った。

「わかった。ユリはプロポーズを断るんだな。覚悟しろよ。一生かけて後悔させてやる」

 それって、一生側に……いてくれる、ってこと?
 ああ、私、矛盾してる。結局、嬉しいんだもの。

「ユリちゃん、それでどうする? 一緒に住む?」
「……」

 もうひとりのイケメンが私に尋ねる。
 でも、今は……答えられない。
 ここまでしてくれたのに、私は大バカ者かもしれない。
 再び沈黙している私に、ふたりのイケメンは大きなため息をついて、こう言った。

「わかった。もう、こうなったら全力でわからせるしかないな」
「うん、そうだね。残念だけど、手加減なしだね。はあ、ほんと、なんでこんな頑固なんだか」

 ふたりのイケメンは、そう言ってゆっくり立ち上がると私に近づいてくる。

「あの……?」

 嫌な予感がする。
 急いで席を立つが、両腕をガッチリと押さえられる。

「ユリ、今日は寝られると思うなよ」
「えー……」
「ユリちゃん、少し痛いのとくすぐったいのと、どっちがいい?」
「どっちも、やだ……」

 ああ、神様。私、なにか答えを間違ったでしょうか?
 それでも、どうかお願いします。
 彼らともう二度と、離れることがありませんように。


      * 終わり * 
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