89 / 89
一年後(その十四)最終話
しおりを挟む錬に促され、元のソファに座る。
すると環くんが戻ってきて、錬になにか紙を渡している。
「ユリ」
「うぐっ、ひくっ、なによ」
「これに名前書いて」
「うくっ、名前?」
なによ? 別れます、っていう誓約書かなにか? って、付き合ってないってのっ!
自分でツッコミを入れるが、もうどうでもいい。いいわよ、なんでも書くわよ。
ん? これ……錬の名前と住所……それから右側には環くんと、なぜか春輝の名前もあるけどいいの?
まあいいや、とにかく書けばいいのね。
紙を見ると婚姻届と書いてある。
「ひぐっ、そう、婚姻届ね。うぐっ、はいはい、これに名前を書けばいいのね。婚姻、届……婚姻届? ……はいっ⁉︎」
な、なにこれ、これなに?
なんで、婚姻届?
意味がわからない、よ?
「もうほらー、錬はなんでそうなのさ。ユリちゃんが固まっちゃってるじゃん。ユリちゃんにちゃんと言わないの? プロポーズの言葉」
「プ、プ、プロ、プロ、プロポ……」
「ユリ……あー、嫌なら、書かなくていいけど……まあ、書いてほしいけど」
「……」
言葉が、出てこない。
なんでこうなるの?
プロポーズって、なんだ、あれだ、結婚するってこと?
おかしい、おかしい。
「あ、あのね、ふたりとも。もう私をからかうのは……」
「ユリちゃん」
「……は、い」
「あのね、婚姻届はね、日本では重婚は認められていないからとりあえず錬と結婚て形で、僕はただの同居人。どうせ紙の上での話だし、どっちでもいいけど。でも、ユリちゃんはなにかしら形になっていないと不安だろうからね。本当は、嫌だけど……錬に譲った。そこまで拘らなければ、普通に三人で暮らしていけばいいと思うしね」
環くんは話を続ける。
「僕たちはね、最初からユリちゃんとずっと一緒に居るつもりでいたよ? 早く一人前になって、働いて、ちゃんと生活をしていけるようにがんばったよ? ユリちゃんは、僕たちと一緒に暮らしたくはない? ずっと一緒に居たくはない? ユリちゃんの気持ちは違うの? 僕たちだけの思い込みだったの? ねえ、ユリちゃん、ずっと一緒に居よう! 僕たち三人で! それからね、介護上等! 愛しいユリちゃんの体を、他の誰にだって触らせるもんか」
* * * * * *
「ユリ」
「……はい」
「初めて会ったときから、俺……たぶんもう、ユリのことが好きだった。無理やりだったけど、ユリを連れてきてよかった。ユリのことが、可愛く見えて仕方ない。歳は関係ない。好きなんだ。愛してる。ずっと一緒に居たいし、居て欲しい。家族になろう、俺たち。俺たちと、新しい家族の形を作っていこう。どうか、結婚してください、ユリ」
切れ長の目、通った鼻筋、涼しげな口元のイケメンは、甘い声、少し潤んだ目でこう言って私にプロポーズをしてきた。
もうひとり、全く同じ顔のイケメンが、隣で優しく私を見つめている。
「ユリちゃん。僕たちのこと、好き?」
もうひとりのイケメンの問いかけに、ブンブンと大きく頷く。
「ふっ、なんだよ、それ。……じゃあ、ユリ。これに名前書くか?」
「……」
プロポーズをしてきたイケメンが、もう一度私にきいてくる。
どうしよう……でもそれは、とりあえず、置いておきたい。
だって……彼らの行動を縛ることになるのは……やっぱり嫌だ。
黙っている私を見て、そのイケメンは一瞬寂しそうな顔をして、こう言った。
「わかった。ユリはプロポーズを断るんだな。覚悟しろよ。一生かけて後悔させてやる」
それって、一生側に……いてくれる、ってこと?
ああ、私、矛盾してる。結局、嬉しいんだもの。
「ユリちゃん、それでどうする? 一緒に住む?」
「……」
もうひとりのイケメンが私に尋ねる。
でも、今は……答えられない。
ここまでしてくれたのに、私は大バカ者かもしれない。
再び沈黙している私に、ふたりのイケメンは大きなため息をついて、こう言った。
「わかった。もう、こうなったら全力でわからせるしかないな」
「うん、そうだね。残念だけど、手加減なしだね。はあ、ほんと、なんでこんな頑固なんだか」
ふたりのイケメンは、そう言ってゆっくり立ち上がると私に近づいてくる。
「あの……?」
嫌な予感がする。
急いで席を立つが、両腕をガッチリと押さえられる。
「ユリ、今日は寝られると思うなよ」
「えー……」
「ユリちゃん、少し痛いのとくすぐったいのと、どっちがいい?」
「どっちも、やだ……」
ああ、神様。私、なにか答えを間違ったでしょうか?
それでも、どうかお願いします。
彼らともう二度と、離れることがありませんように。
* 終わり *
0
お気に入りに追加
29
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
【なろう400万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ
海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。
衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。
絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。
ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間1位、月間2位、四半期/年間3位の実績あり。
カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる