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一年後(その十三)
しおりを挟む「ユリ、そんな奴らのことは忘れろ。俺たちを信じろ。そして今、アンタの周りにいる奴らを信じろ。……ずっと、必死にやってきたんだろ? いつだって一所懸命……精一杯、やってきたんだろ? だったらなにより、自分を信じてやれよ!」
錬の言葉に、ただ涙が、あふれてくる。
「ユリ、忘れるな。俺たちには、ユリが必要だ」
抱き締める力が強くなる。
「……ひつ、よう? ……私、が?」
「そうだよ、ユリちゃん」
環くんが加わり、抱き締める力が二倍になる。
「忘れないで。僕たちは、ユリちゃんのことが大好きなんだよ? 愛してるんだ」
「あい……してる?」
「そうだ」
「ユリちゃん、愛してる」
「うくっ、ひっ、ひぐぅ……」
……春輝も、こう言ってくれてたな。
『ユリはがんばった。もう、がんばらなくてもいいんだ。俺が側にいるから』と。
結局、別れてしまったけれど、たくさんの愛をもらった。いろいろな気づきをもらった。それで十分。
今は、エミちゃんとの幸せを願っている。
そう、問題なのはーー今。
そしてーーこれから。
* * * * * *
「うぐっ、えぐ……私、ね」
「「うん?」」
「このごろ、顔のシワやたるみが気になるの……」
「「……うん?」」
「それにね……ひくっ、体だって……お腹周りがちょっと、タプタプしてきてるし……」
「「うん」」
「髪の毛だって……白髪が増えたし、うくっ、抜け毛だって多いし……」
「「うん」」
「毎日すごく疲れて……お風呂にちょっと入っただけじゃあ、えっく、疲れが取れないの」
「「うん」」
「そんなんだから……うぐっ、夜はいつも、満開弁当屋のお弁当か……スーパーの安くなったお総菜なの」
「くっ」
「ふふ」
「「……うん」」
「私ね、もう少ししたら……うぐぅっ、四十九に、なるよ?」
「「知ってる」」
「今はさ、そうやって……うまいこと言って……でも何年か先になって……私が今よりもっともっとおばさんになったら……そうしたらポイっと捨てるんでしょ? ぐす、うえっ……。だって、ふたりはそのころまだ、若い子も……年上の女性も……まだまだ全然余裕でいけるじゃん? うぐっ、ひぐっ」
「くっくっ」
「ふふふ」
「私が八十歳のおばあちゃんになっても好きだ? そんなのあるわけ、ないよ……うっ、ううっ……っていうか、介護じゃん、それもう、うぐっ。……一緒に暮らそう? ひぐっ……なによ……ううっ、そんなこと……うえっ、簡単に……言わないでよ。そんな簡単に……えぐっ、愛を、囁かないでよー! うわーん、ひぐっ……ひっく……」
* * * * * *
涙が後から後からあふれてきて、またグシャグシャだけど関係なかった。
吐き出した。全部、吐き出した気がする。
もう、いいのだ。これで嫌われたほうがスッキリする。
ここでお別れしても、まだ、やっていける。
だって、木花ユリは今までだって、ひとりで生きてきたのだから。
これからだって、ひとりで生きていける。
「これ……ユリは、やっと本音を言ったのか?」
「……そう、みたい」
ふたりは、泣きじゃくるユリを優しく見つめたままでいる。
「ねえ、錬」
「ん?」
「ユリちゃんさ、こんな小さな体で……一体どれだけのものをひとりで背負い込んできたんだろうね」
「ああ、そうだな……。まあ、これからは少し、軽くなるんじゃないのか?」
「ふふ、僕らが居るからね♡」
「ふっ。……じゃあ環、アレ、持ってこいよ」
「うん」
泣いている私をよそに、頭の上でふたりが冷静になにやら話しているが、もう関係ないのだ。
だって……こんな、恥ずかしいこと言って……いろいろ、さらけだして……たぶん、もう、呆れてるもの……
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