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一年後(その十)

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 二十六歳ーーこの年齢差。
 今はまだいいとしても、五年後、十年後と考えていったら想像できない。

 それから、錬も環くんもすごくカッコよくて……間違いなく、多くの女性から好意を寄せられているであろう。

 そんなふたりと私が、この先どうにかなっていくなんて……あり得ない。
 
 だからーー離れた。

 あのとき感じた気持ちを、そのまま素直に話した。
 ふたりはずっと黙って私の話を聞いていた。

「大体、アイツの言ってたことと同じだな……」

 錬がボソッとなにかを呟いた気がした。

「あのときは……ふたりのことが好きで、どうしようもなくて、気持ちを抑えられなかった。でも、その後は……ただ、離れなきゃって。そればかりだったの。……本当にごめんなさい、勝手に出ていって」

 ふたりに頭を下げて謝ると、しばらくの沈黙の後、環くんが言う。

「ユリちゃん、今はどうなの? 僕たちのこと……好き?」
「えっ⁉︎」

 突然の質問に顔を上げると、環くんは穏やかな微笑み、錬は真剣な顔でいる。

  「……そりゃあ、……好き、だよ?」
「ふふ、なんで疑問文なのさ」

 環くんが優しく笑う。

「それで、ユリはどうしたい?」
「えっ?」
「久しぶりに俺たちに会ってーーこれから、どうしたい?」

 錬が変わらず真剣な顔で言った。

「これ、から?」
「うん、そうだよユリちゃん。これからの話だよ」
「えっとー、ふたりがここにいるってわかったから……これからは、お店に飲みに来てもいい?」
「お店、に?」
「うん。ここに来ればいつでも会えるもの。あっ、定休日は? お店は何曜日休み? 何時までやってる? 遅くに来ても大丈夫かなあ。食事はーー」
「ユリ」

 いろいろききすぎたのか錬に遮られる。

「あ、ごめんね」
「ユリちゃん、さっきの続きだよ。……あのね、僕たちとここで一緒に暮らさない?」
「……えっ? ……ここで、一緒に暮らす……?」
「そうだよ」


   * * * * * *


 え、どういうこと?

「えっと、あの、それは無理よ? だって、ここは錬と環くんの大切なおウチでーー」
「ユリちゃん、ここはね、錬と僕、そしてユリちゃん……三人の家なんだよ?」
「三人の……家?」
「うん。あのね、話が戻るけど……、僕たちが家を出たのは……早く一人前になるため。一人前になって、ユリちゃんを迎えに行くためだったんだよ?」

 えっ? 私のため? 私を、迎えに来るため?

「まあ、予想より更に早く家を出ることにはなったけどな」
「そうそう。父さんの耳に入るのが早くて、結局追い出された感じではあったけど……。でも、結果的にそうなってよかったよね」

 環くんは立ち上がると窓のほうへと行き、話を続けた。

「それでねユリちゃん。ユリちゃんが褒めてくれたこの二重窓も洗濯干場も、ユリちゃんが前に洗濯物は外に干さないって言ってたでしょ? だから業者さんにいろいろ相談してこうしたんだ。それからベッドルーム、基本さっきの部屋で三人で寝たいけど……でもユリちゃんの仕事はハードだから、ひとりで寝たいときもあるかなあと思って……隣に六畳のひとり部屋があるよ。少し狭いけどクローゼット付きだよ。それと、年齢を重ねるごとに歩くのが辛くなるだろうから全部バリアフリーだし、トイレもお風呂も普通より広くした。二階に上がるのが辛くなったら、さっきの一階の部屋で過ごすように変えてもいいし、またリノベしてもいい。それからーー」
「ま、待って! 環くん、ちょっと待って……」

 環くんの話を聞いていると……まるで、これから長い年月を一緒に過ごすようなーー

 ふたりは、私のためにあの家を追い出されるように出て? 元々あった話とはいえ、このお店を開いて? こんな素敵な家を造って? 
 私のためにバリアフリー……
 便利な洗濯干場も、バリアフリーも、お風呂が広かったのも、全部、私の、ため……?

「ユリちゃん?」

 環くんの声にハッとなり顔を上げると、真剣な眼差しのふたりがそこにいた。

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