おばさん刑事、恋をする！ 〜超年下イケメン双子と甘々生活〜

一年後（その五）

　どのくらい時間が経ったのか。
　涙が収まると、急に現実感が増し不安になる。
　夢じゃ、ないよね？
　私の手は、間違いなくふたりの服を掴んでいる。
　そっと顔を上げると、錬と環くんの以前と変わらない笑顔がそこにはあった。

「ユリ」
「ユリちゃん」

　名前を呼ばれる。
　よかった。夢じゃない。
　錬の右手が私の頬に触れる。
　顔が近づいてくると、慌てて顔を背ける。

「ユリ？」
「あーあ、錬、嫌われた」

　環くんはふざけてそう言うと、私の顎に手をかける。

「やっ……」

　思わずその手を振り払う。　

「ユリちゃーん……」
「環、お前のほうが嫌われてるだろ」
「えー」
「違う！　違うの。ごめん……」
「どうした？　ユリ」
「ユリちゃん、僕たちのこと、嫌いになった？」
「あの……」
「「うん？」」

　ふたり同時に優しく聞いてくれる。

「わ、私……今、鼻水と涙で、顔グシャグシャだし。い、一年ぶりなのに……久々のキスが……そんな顔でなんて……恥ずかしいもん」

　顔を伏せたままそう言うと、ふたりは黙っている。
　どうしよう、もしかして、ひ、引かれた？
　このおばさん、なに言ってんの？　とか思われてる？
　でも、こんな顔でしたくないよ。
　頭の中がグルグルしていると、急に体が浮き上がる。

「きゃあっ！」

　これはーー錬に荷物のように担がれてる？
　この光景はどこかで見たような……

「環、順番違うけど、いいよな？」
「うん、構わないよ。むしろそのほうが♡」

　私を担いだまま、店の奥へと歩いていく錬。
　環くんが、落ちた私のバッグを持って後からついてくる。

「順番て……やだっ、怖いよ、錬」
「大丈夫だ」

　カウンターの中に入ると、さらに奥へと進む。
　ふたりが出てきた扉を抜けると、そこは住居スペースになっていた。


　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊


「ユリちゃん、一階はね、店舗と住居を半々くらいにしてあるんだ。あまり広い店だとふたりで回せないし、二階の住居スペースだけだとちょっと狭いからね」

　環くんがそう説明をする。

「二階？　二階もあるの？　きゃっ……」

　部屋の右奥へ進んだかと思うと、錬が急に階段を上がり始める。

「ここはね、元は一階と二階が独立した物件だったんだ。だから外にしか階段がなかったんだけど。一度外に出るのは大変だから、行き来ができるように中に階段を作ったんだ」
「一軒家として住めるように、改装したってこと？」
「うん、そうだよ。流行りのリノベ、になるのかな？　よくわかんないけど。二階もね、いろいろ手を加えて住みやすいようにしたんだよ」

　二階に着くと、ようやく錬に下ろされる。
　着いたのはどうやらリビング。左の壁際にカウンターキッチン、真ん中にテーブルとソファが置かれている。
　広さは、前のマンションと同じくらいだろうか。
　ふと右側の窓のほうを見るとなんと二重窓になっていて、中側で洗濯物が広々と干せるスペースになっている。

「うわーっ、すごい、すごいよ！　よくできてるねー。これもリノベ？　誰のアイデアなの？　環くん？　すごーい」

　自分が住むわけでもないのに、やたらと興奮してしまう。
　しかもすごいの連発で、なんともボキャブラリーのないこと。

「あっ、ごめんね。私、勝手にはしゃいで……」

　振り向くとふたりは並んで立ち、私を見て微笑んでいる。
　久しぶりに見たそのツーショットに、心臓をキュッと掴まれる。

「あー、あの、こうやってお店を開いたり、そこに住んだりっていうのは、以前からふたりで決めてたの？」

　ドキドキしながら尋ねると、環くんが少し意外なことを言った。

「うん、まあね。こんなに早くは考えてなかったけど、なにせ不測の事態が起きたからね」

　ーー不測の事態？

「それよりユリちゃん、恥ずかしかったんでしょ？　洗面所に案内するよ」

　そう言うと、環くんは来い来いと手招きをした。