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十一ヶ月後(そのニ)

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「あっ、ユリさん! こっちこっちー」

 二階の食堂前で私を呼んでいるのは、交通課のエミちゃんだ。
 去年くらいから話す機会が増え、昼の時間帯に私が署にいるときは、食堂で一緒にお昼を食べる仲になったのだ。
 ちなみに制服のシャツは白と青の二種類があり、今日のエミちゃんは白シャツ。んー、爽やか。

「遅くなってごめんねー」
「いいですよぉ、席はもう取ってありますから」

 エミちゃんはそう言うと、親指をグッと立てた。
 好きなおかずを、好きなだけお盆に取っていくシステムのこの食堂で、彼女のお盆は毎回いっぱいだ。(最高八品までで一律五百円だが、エミちゃんはいつもその八品である)
 今回も収まりきらないご飯とみそ汁が、別なお盆に載っている。

「エミちゃん、そんなに食べてよく太らないねー」
「ユリさんはもっと食べないと、ですよ? 逆に、それだけでよく足りますね」

 あの、私、これでも結構食べるほうですよ?
 今日もメインのジャンボメンチカツを入れて、おかず五品はありますよ?
 エミちゃんは元気に「いただきまーす」と、バクバクおいしそうに食べ始めた。

「うわっ、この唐揚げめっちゃおいしいです。ユリさん、一個食べます?」
「ううん、私はいいよ。エミちゃん、メンチカツちょこっと食べる?」
「あっ、いただきます。ありがとうございます」

 エミちゃんのこういうところが好きだ。変に遠慮のないところ。そして嫌味の無い物言い。

「ユリさん。そういえば髪の毛、だいぶ伸びましたね」

 冷たい麦茶でひと息入れながら、エミちゃんが言った。
 一年ほど前ーー正確には十一ヶ月前になるが、胸近くまであった髪を顎までバッサリと切った後、伸びたら切る、を何度か繰り返し、今はまた伸びて、鎖骨にかかるくらいまでの長さになった。
 暑いこの時期、顔まわりに少しだけ髪を残し、後ろでギュッとひとつに結いただけの髪型が、ここしばらくの定番だ。


   * * * * * *


「うん、そう。けっこう伸びてきたよ。ぼちぼち切りたいんだけど、この時期切っちゃうと結わけなくなるし……。もう少し涼しくなったら、また切るけどね」
「えー、そうなんですね。もう少し伸ばして、前みたいにお団子にしたりはしないんですか?」
「……うん、なんかねー。ずっと同じ髪型だったから、飽きちゃって」

 笑って、そう返事をする。

「そうですかー。でもユリさん、今の感じもいいですよ。それ、くせ毛なんですよね? フワッとしてて可愛いですよ」
「そおぉ? 短くするとくせが出やすいみたいで。そういうエミちゃんは、キレイなストレートだよね? 私からしたらうらやましいよ。長さは……ずっとショートのままなの?」
「うー、そうですね。私はずっと、こんな感じですかねー」
「いいじゃん。ショートが似合う人は顔がキレイな卵型っていわない? エミちゃん、そうだもんね。丸顔の私からしたら、これまた、うらやましい限りだよ」
「うふふ、そうですか? ありがとうございますぅ」
「否定しないのかよっ!」
「えへへ」

 エミちゃん可愛いぞっ!

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