おばさん刑事、恋をする！ 〜超年下イケメン双子と甘々生活〜

十一ヶ月後（その一）

　季節ときが早く過ぎればいい。
　そう思っていたら、本当に早く過ぎた。いや、早すぎでしょう。
　年が変わり、すでに八月。
　暑い。今年の夏も暑いです。

「ミーンミンミンミンミンミー」

　蝉の鳴き声が、いつもとは違う捜査一課の部屋を一段と暑くさせる。

「あっつー。暑いなあ、この部屋。岡田ー、お前なんとかしろよ、壊れたエアコン」

　フル稼働中の扇風機の前を陣取りながら、陽介くんが岡田くんに無茶を言っている。

「陽介さん、無茶言わないでくださいよー。僕に直せるわけないでしょう」
「そうだぞ、陽ちゃん。無茶なことを言うな。余計に暑くなる。なあ、島ちゃん」
「……ああ、本当だ。無茶言うな。もっと暑くなるな、島やん」
「成田課長、もう限界ですよ！　限界っ。暑いっ！　暑いですっ！　業者さん、業者さんはまだですかーっ？」
「ーー手配はしてる。陽介くん。暑い暑い言うと、ますます暑くなるぞ」
「ほらー、課長だってそう言ってるだろ？　陽ちゃん」
「うー、だって……暑いんですもん！」

　捜査一課の部屋のエアコンが壊れてから、早数日。
　猛暑が続く中、扇風機だけではそろそろみんなの限界が近づいています。

「はーい、みんなー、お待たせしました！　売店でアイス買ってきましたよー」
「ユリさん！　セイさん！」

　岡田くんが泣きそうな笑顔で迎えてくれる。

「遅いんだよ、おばさんはー……あっ、おねーさん、は……」
「ふふ、陽介くんは、アイス、いらないのね。ふふふ」
「あっ、あー、ユリ、さん。ごめんなさい。欲しいです！　ください！　お願いしますっ！」

　汗でグシャグシャの上、今にも泣き出しそうな陽介くんが可哀想なので、ゴリゴリさんを一本渡してあげる。

「やったー。待ってました、ゴリゴリさんソーダ味！　あざっす！」
「こらー、もっとちゃんとセイさんにお礼言いなさーい。半分は奥さんからの差し入れなのよ」

　セイさんの奥様は、署内の売店にお勤めなのだ。


　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊


「セイさん、あざーっす」
「あいよー」
「セイさん、いただきます！」
「俺より成田課長に言えよお。連日ずっと俺たちのおやつ代を出してくれてるんだぞお」
「課長！　あざーっす」
「課長、セイさん、いただきます！」
「すみません！　いっただっきまーす」
「……ども、いただきます」

　みんなそれぞれ成田課長とセイさんにお礼を言って、袋から好みのアイスを持っていく。

「午後のおやつはアザラシくんゼリーですよー」

　そうみんなに声をかけると、最後に成田課長のところへ持っていく。
　俺は一番後でいいと、前から言われているからだ。

「成田課長はどれにしますか？」
「どれにしますかって、ひとつだろう」

　袋には三つ選択肢があった。

「苺味、好きでしょう？　もうひとつのコーヒー味でもいいですよ？　定番のソーダ味でも」

　いつも本当に残りもので申し訳ないので、今日は自分で買い足して、みんなに取られないように避けておいたのだ。

「じゃあ、これを貰う」

　成田課長はそう言うと、苺味のアイスを手にした。

「はい。じゃあ私はソーダ味をいただきますね。ごちそうさまです」
「ユリ、ありがとな」
「いえ、こちらこそです」

　このごろ、成田課長の顔つきが以前にも増して柔らかくなった気がするのだが、その理由わけを私は知っているーー