おばさん刑事、恋をする！ 〜超年下イケメン双子と甘々生活〜

一週間後（その七）

「学生、か？」
「ああ。大学四年生」

（はああ、マジかあ。ユリ、お前、なにやってんだよ。ーー二十六、違うのか。……いや、俺がとやかく言えることじゃあない。それに、俺も沙梨と十五歳離れていた。でも……）

　春輝は椅子に座り直すと、ひと息ついて錬に問いかける。

「お前、それで本当にユリが出ていった理由がわからないのか？」
「……もしかしたら、年齢、とか気にして……出ていったのかも、とは考えた」
「はー。もしかしたら、じゃなく、そうなんだよ」

　少しあきれたように、そして怒るようにして春輝は錬を見て言った。

「俺たーー俺は、そんなの気にしない」
「お前はな」

　なおも錬を冷ややかに見て、春輝は続ける。

「いいか。男と女では年齢の進み方が違う。とかく、俺たちくらいの歳になるとな。一、二年で大きく変わることだってある。実際ユリだって、四年前に比べたら体つきだってずいぶん変わってーー」

　春輝の言葉を全部聞き終わらないうちに、錬が鋭く春輝を睨みつけた。

「あー、悪い……悪かった」

　バツの悪そうな顔で春輝が謝る。

「それより……そんなんだったら、相手がもしアンタだとしても同じだろ？　歳を取るっていうならみんな同じだ」
「違う。俺なら同じ時を生きれる。でもお前はどうだ？　今から五年後、ユリは五十ニ歳お前は二十六歳。十年後はどうだユリは五十七歳お前は三十一歳。一方は還暦間近、一方は男盛り。二十年後は？　二十五年後は？　そこまで考えたのか？」
「……」


　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊


　黙っている錬に春輝が続ける。

「ユリから、家族のことを聞いたか？」
「？　　ーー聞いてない」
「アイツはもうずっと、家族とは音信不通なんだ。……半分は俺のせいだけどな。でももっと昔からーーいや、俺がする話じゃないな。とにかくアイツは……長い間、寂しさを抱えてひとりで生きてきたんだ。お前は学生だし、なによりまだ若い。年上の女性に憧れるのもあるだろう。ただーーユリはダメだ。お前の目には、強く生きているように見えるかもしれないが……アイツは弱い。それにさっきも言ったが……年齢の壁はでかい。お前なら、周りにもっと若くてキレイな女性がたくさんいるだろう？　ーーいっときの気持ちで、アイツを振り回さないでやってくれ！　頼む！」

　そう言うと、今度は春輝が頭を下げた。
　しばらく経って春輝が頭を上げると、そこには不敵な笑みを浮かべる錬がいた。

「？」
「あのさー、なんていうか、そういうことならわかった。今日、アンタに会いに来てよかった。ありがとう」

　錬は立ち上がると伝票を持ち、出ていこうとする。

「えっ、おい、ちょっと待て。……なにがわかったんだ？」
「俺たちはユリが好きなんだ。ユリが六十歳になろうが七十、八十のばあちゃんになろうがユリはユリだろう？　歳なんて関係ない。それから、ユリが弱いのは……もう知ってる。家族のことは知らなかったけど……問題ない。俺たちが家族になるから。じゃあな」

　錬はそう言うと、笑顔で足早に店から出ていった。

「ん？　俺、たち…？　なん、なんだ、アイツ」

　ポカンとその場に佇む春輝だけが残された。