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一週間後(その六)

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(また、ダンマリなのか?)

 錬の言葉を待つ春輝。

「……から」
「はっ?」
「どうしたらいいのか……わかんねーから。……他に、聞ける奴もいねーし。だから、アンタに会いに来た」
「はあ?」
「ユリが、いなくなった。突然、書き置き残して、俺たーー俺の前から消えた」
「はっ? ユリが自分の家から出ていったってこと?」
「ユリは、俺の家にいたんだ。少しの間だけ」
「……あのさあ、話がみえないんだけど。まずさ……、この間も思ったけど、お前、親戚とかじゃないんだろ? まさか……ユリと付き合ってるとか言うんじゃないよな?」
「付き合ってない」
「そうか」
(そうだよな、まさかだよな。よかった)

 コーヒーを口にする春輝。

「でも愛し合ってる」
「ブハッ!」

 その言葉に思わずコーヒーを吹き出す。

「な、なにを……お前、なに、言ってんだ?」

 動揺しながら、慌てて口元を手で拭うと錬を見る。

「なにって、言葉のとおりだけど。俺とユリは愛し合ってる」

 春輝が吹き出したコーヒーを、おしぼりで拭きながら錬が言った。

(コイツ、なにを言ってる? ユリと、愛し合ってる? 冗談だろ? ……いや、待てよ。この間のコイツのユリへの接し方、確かに。でもユリはコイツのことあしらってて、コイツが勝手に甘えているだけと思っていたんだが……)
「なにか変か?」

 真っすぐにみつめてくる錬に、春輝は呆気にとられる。

(コイツ、マジなのか?)
「わかった。あー、いや待て、待ってくれ……。そしたら、ユリが出ていったのは、その、俺のせいじゃないのか? あんな目に遭って……その……」
「アンタのせいじゃないよ」
「……なんで、そこはそう言い切れるんだ?」
「ユリはもうアンタを許してた」
「えっ⁉︎」
「……」
「ほ、ほんとか?」
「ああ」
「……」

 春輝はしばらくの間黙り込むと、ホッとした様子で嬉しそうに言った。

「そうか……そうかあ」

 春輝はこの後、上川課長から私の伝言を聞き、更に安心することになる。


   * * * * * *


 ウエイトレスが持ってきてくれた新しいおしぼりで口を拭くと、春輝は錬に質問をした。

「大体お前、ユリと出会ってどれくらいなんだ?」
「出会ったのは十日くらい前。出ていって一週間」
「はああ?」

 春輝が怪訝けげんそうな顔で錬を見る。

「なんだ?」
「いや、お前、だって、会ってまだ三、四日ってことだろ?」
「そうだけど……、時間がそんなに大切か?」

 そう言って、アイスティーを飲み干す。

(……コイツ、……なんなんだ?)
「あー、必ずしもそうとは限らないが……。俺のことがあってケンカをしたとか、そういうのでもないんだな?」
「ああ、そういうんじゃない」
「だったら、どんな状況で出ていったんだ? 例えば、どんな話をした?」

 春輝は、氷入りの水に手を伸ばす。

「愛を確かめ合った」
「んぐっ!」

 飲みかけた水を、また吹き出しそうになる。

「げほっ、げほっ」
「大丈夫か?」
(愛を……確かめ合った?)

 春輝が錬の顔を見ると、真剣な眼差しがそこにはある。

「お前、今までの話、本当なのか……?」
「ああ、そうだけど?」
「お前、歳いくつだ?」
「二十一」
「に! にじゅういち⁉︎」

 春輝は思わず立ち上がった。

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