おばさん刑事、恋をする！ 〜超年下イケメン双子と甘々生活〜

三日目（その二十四）

　ベッドの上に三人で座っている。
　私を真ん中にして、左側に錬、右側に環くん。
　錬は私のほうを向き立膝で、環くんは軽く背を向け体育座りで話を聞いていた。
　春輝と、数年前まで付き合っていたこと。
　捨てられるように、別れたこと。
　長く噂され、傷ついたこと。
　そしてーー今日のこと。
　細かいことは除き、ざっくりと。
　必要なことだけを、かいつまんで話した。

「ずいぶんと、勝手な奴なんだね、成田春輝って」

　環くんはこちらに体を向けると、開口一番にそう言った。

「そんなひどい別れ方をしたくせに、やり直したいなんて……勝手すぎるよ！」

　うん、まあ、そうではある。

「しかもなんだよ！　ホテルに連れ込むなんて、サイテーだよ！」

　うん、まあ、それはそのとおりである。

「ユリちゃんを無理やり、抱こうと……するなんて……うん、サイテーだ、僕も……」
「えっ？」

　環くん、今、僕もって言った？
　なんで、話がそうなるの？
　環くんはまたこちらに背を向けると、その後ろ姿はなぜかしょんぼりしているように見える。

「環くんは、サイテーじゃないよ……？」
「あー、それでユリの気持ちはどうなんだ？」

　なぜか、錬が慌てて尋ねてくる。

「私は……さっきも言ったように、もういいの。全部済んだ話だから」
「アイツを許すってこと？」
「うん。許すっていうか、私も悪かったんだから。お互いさまなのよ、結局、男と女って」
「ふっ、なんだよそれ。恋愛の達人かよ」

　錬は笑って言うけれど、でも実際、そうなのだと思う。

「今日のことも、許すのか？」
「……うん」

　今日のことがあったから気づけた。だから、もういい。

「アイツはまだ……ユリのこと、好きだと思うけど？」
「春輝は……過去の私の姿を追っているだけ。そのうち、気づくよ。今日の私みたいに」

　さっきまで、あんなに落ち込んでいたのが信じられない。
　今、こうして冷静に、自分のことを語れている。
　ふと顔を上げると、錬がいる。
　ああ、そうだ。錬と環くんがいてくれたから、気づけた。
　ふたりに、出会えたから。


　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊


「ユリ。それーー髪は、キスマークを隠すためにおろしたの？」
「あ、うん。……変？」
「いや、似合ってるよ。さっきは驚いたけど」

　さっきって、リビングに下りていったとき？
　じゃあ、あのとき目を逸らしたのって、これのせいだったのかな？
　そんなことを考えていると、いつの間にか錬の顔が目の前にあった。

「わっ！　なに？」

　錬が真剣な顔をしている。

「ユリ、俺のこと、好き？」

　そう言われて、思わず目を伏せる。
　うん、好き。心の中でなら、いくらでも言えるのに。
　さっきは、言うつもりじゃなかったんだもの。
　黙っていると、錬がまた尋ねる。

「ユリ、ちゃんと答えて？　嫌いなら嫌いって言っていいから」

　嫌いなわけないじゃん。ずるいよ……そんな言い方。
　好きだよ。大好きだよ。

「……嫌い」
「嫌い？　嫌いなのか？」
「うん、……大っ嫌い」
「じゃあ、ちゃんと、目を見て言って？」
「……」
「ユリ？」
「大……嫌い」

　顔を上げられないままでいる私の頬に、錬が触れる。

「ユリ、なんで泣くの？」

　ダメ。涙が勝手に出てしまう。

「ユーリ」

　優しく名前を呼ばれる。

「嫌い……」

　錬がメガネをそっと外し、こぼれる涙をそっと拭う。
　もうダメ、嘘なんかつけない。

「好き……錬、好き」