上 下
46 / 89

三日目(その二十三)

しおりを挟む


「違うってば……」

 ふたりに両腕を掴まれ、身動きできない。

「じゃあやっぱり、成田春輝のことなのか⁉︎」

 錬は腕を離すと、私の頬に手を当て、顔を自分のほうに向けてそう言った。

「えっ? ……違う、それは……違うよ?」
「だったらそのキスマーク、なんだよ! さっきまで一緒にいたんだろ?」

 ビクッとする。言葉が出てこない。

「あの……これは……」
「あー、悪かった。言い方キツかったな。ごめん。その……キスマークついてたし、アイツと、ヨリ戻したのかなって」
「違うの、そうじゃないの。これはそうじゃなくて……あの、……その」

 言い淀んでいると、環くんが鋭くきいてくる。

「ユリちゃん、……もしかして、アイツに襲われたんじゃないよね?」

 環くんは錬の手を外すと、私の顔を自分のほうへと向かせて言った。

「……あー、うん。あ、でもね、もう大丈夫なの。もう、解決したの。だから、なんでもないから」

 一瞬沈黙があったかと思うと、ふたりは怒った様子で一気にまくしたてる。

「ユリちゃん! 襲われて、キスマークつけられてなにが大丈夫なの? なんでもないことないでしょ? 一体どういうこと?」
「ーーあの野郎! クールなふりして結局手ぇ出しやがって……。ユリ! お前もお前だ! 大丈夫なわけないだろう! なんでそうなるんだ!」

 しまった。余計なことを言ったかもしれない。
 私の頭の上からすごい剣幕で怒ってくるふたりに、どう説明をすればいいだろう。

「あの、だから、それは……いろいろ思うところがあって。……とにかくもう、平気なの。ケリは、ついてるのよ?」
「ケリがついてるってなんだよ! そうやってアイツを庇うのかよ」
「そうだよユリちゃん。全然平気じゃないよ! やっぱり、成田春輝のことが好きなんじゃないの?」

 あー、どうしよう。怒ってる……ふたりとも、すごく怒ってる。

「違うっ! 違うの。……うー、もう終わった話なの! 信じてよ! 私が好きなのは、錬と環くんなんだからっ!」

 あっ……

「あー、違うの……。今の……違うから、ね?」


   * * * * * *


 錬と環くんが、私の頭の上で顔を見合わせている。
 錬が環くんに言う。

「環、ご飯メシ、冷めちゃうけどいいよな?」

 環くんが答える。

「いいよー、また後で温めあった直すから」

 そう言ってふたりが私を見つめると、錬がいきなり私を荷物のようにヒョイと肩に担いだ。

「きゃあっ! やだっ、なに? 錬、下ろして!」
「やだね! また逃げられると困るし。それに、このほうが早い」

 そう言って私を担いだまま、階段を上っていく。

「待って! やだやだ、階段怖いっ」

 背の高い錬に担がれているのだ。それは結構な高さになっていて、落ちそうで怖い。

「大丈夫だよ、ユリちゃん。錬は落としたりしないから」

 後ろから付いてきている環くんが、錬の背中にある私の顔の正面でにっこりと笑顔で言う。
 私の部屋の前に来ると、錬は私を担いだまま、勝手に扉を開けて中へと入っていく。

「ちょ、ちょっと! 一応今は私の部屋なんだから、勝手にズケズケと入ってこないでよ」
「わかった。じゃあ、入るぞ。これでいいか?」
「いやいや、今言ったからっていいわけないでしょ?」
「ははっ、そうか」

 錬はそう笑うと、私をベッドの上に手荒く放り投げる。

「きゃっ!」

 そして、私の上に馬乗りになるとニヤリと笑う。

「ふっ、やっと元のユリに戻ったな」
「うっ、なに……するのよ」
「ユーリちゃん♡」

 環くんがベッドに膝をつき、顔を近づけて優しく名前を呼ぶ。

「さっき僕たちのこと、好きって言ったよね?」
「言ってない、言ってないよ……ひゃあ!」

 錬が首筋にキスをした。

「これ、どういう状況でつけられたの?」

 人差し指でトントンと首筋を叩く。

「あ、あの……」
「ユリ、怒ってるんじゃない。ただーー事実が知りたい」

 錬が真剣な目で見てくる。
 横を見ると、環くんも同じ目をしている。

「あー、……あのね」

 私は観念して話を始めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

【なろう400万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間1位、月間2位、四半期/年間3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

処理中です...