おばさん刑事、恋をする！ 〜超年下イケメン双子と甘々生活〜

三日目（その十八）

　ホテルから出て、しばらくあてもなく歩いた。
　ただ道なりにフラフラと適当に進み、途中のコンビニで、ペットボトルの冷たいお茶とチョコレートを買った。
　チョコレートをバッグにしまうと、お茶は手に持ったまま、またフラフラと歩き出す。
　道行く人は、みんな楽しそうに見える。
　カップルも、親子連れも、ひとりのおじさんも。
　私以外の誰もが、悩みや不安などなく、楽しく生きているように思える。
　そんなわけ、ないのにね。
　またしばらく歩いていくと、公園があったので中に入ってみる。
　そして街灯から少し外れた場所にある、大きめの木のベンチにドカッと座った。

「はあ」

　ため息がこぼれる。
　お茶の封を開けると、一気にゴクゴクと飲む。少し冷えが取れていて、ちょうどいい飲み頃だ。
　喉が潤うと、今度はバッグからチョコレートを出す。小分けになっているひとつを手に取ると、パクリといただく。

「うまーい」

　静かな公園に声が響く。

（あー、今これ私、完璧不審者だな）

　ヤバいと思いつつも、どうするつもりもなかった。

（今、何時だろう？）

　携帯も全然見ていない。
　ーー目を閉じる。
　もう散々泣いた。四年前も、今も。
　自分の気持ちに気づくのに、ずいぶんと長い時間がかかった。
　忘れよう、忘れなきゃ、とばかり思って逃げていた。
　もう、とっくに終わっていたのに。
　春輝は幻想を抱き、
　私は幻想にとらわれ、
　それに気づかないまま、四年も過ぎた。


　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊


「はあ」

　二回目のため息をこぼすと、またお茶をゴクゴクと飲む。
　あっという間に空になったペットボトルを、ベンチの上に放る。
　反対側にゴロリと寝転んで空を見上げる。
　この辺り、星が見えるんだーー夜空がキレイ。

「フフフフーン♪フフフフフーン♪フフフフフンフフフフフフフーン♪……」

　思わず好きな歌を鼻歌で歌う。
　切ないメロディラインが今の自分とマッチして、目頭が自然と熱くなる。
　そしてまた、空を見上げる。
　子供のころ、よくこうして星たちを見ていた。
　落ちてきそうなくらいの、満天の星たち。
　キラキラしていて、キレイだった。
　もう、実家にはずいぶんと帰っていない。
　もしかしたら、このまま一生帰れないのかもな。

「ふ、ふふ。あははは……あはー、はあ」

　なんで、こうなったのだろう。
　しばらく横になったまま、ずっと空を見上げていた。


　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊


（そろそろ、場所を変えないとな）

　通報でもされたらシャレにならないと、少し正気に戻る。
　体を起こしてベンチに座り直す。

（……錬と、環くんにも連絡しなきゃ）

　両手を体の両脇のベンチにつくと、足をプラプラとさせる。
　
（したくないな、今は。でも……明日にはもう、お別れ……）

　そう、三泊四日のお泊まりはーーもう、終わる。
　明後日からはまた、いつもの日常に戻るのだ。
　楽しかったな……この三日間。
　最初、手錠でつながれていたときはどうなるかと思ったけれど。
　蓋を開けてみたら、なんていうことはない。
　錬も環くんも、普通の男の子だった。
　カッコいいけど……なんか不器用で、でも優しくて、お茶目なところもあって、可愛くて……でも、生意気だし、エッチだし、ヤキモチ妬いてくるし……

　いつの間にか、涙が頬を伝っていた。