おばさん刑事、恋をする！ 〜超年下イケメン双子と甘々生活〜

三日目（その十一）

「あれがナリタハルキか」

　錬が後ろから抱きついてくる。

「ちょ、ちょっと錬。やめて」
「なんだよ。さっきはあんなにしおらしかったのに」

　慌てて腕をほどくと、ニヤリとしながらも少し寂しそうな表情で錬が言う。
　そういえばさっき、抱き締められたんだ。
　しかも私、ちょっとウルウルしちゃったりして……。思い出すと顔が熱くなってくる。
　いかんいかん。仕事モードにならないと。
　気合いをいれて頬をパンッと両手で叩くと、錬がその上に自分の手を重ねて頬を包む。

「⁉︎」
「ユリ、何時に帰ってくる？」
「えっ、そうね。ニ時間くらいはかかると思うから……」

　またドキドキするんだけど、この感じ。
　そんな、顔を近づけないでよ……
　慌てて目線をそらす。

「じゃあ、五時には終わる？」
「うーん、もしかしたらそれ以上かかるかも」

　万が一、上川課長が帰ってきたら大目玉を食らうわけだしな。

「帰るときに連絡するわね」
「うん、待ってるから。俺も環も」

　ーーそうだ。今日は、ふたりと過ごす最後の夜になる。
　ふと、顔近くにある服の袖口を見ると、かなり汚れてしまっている。

「環くんに買ってもらった服、汚しちゃった。怒られちゃうな……。はっ！　そうだ、バスケットも壊しちゃったし……どうしよう……」

　すると、錬は持っていた両手を下に下ろすと、また私を抱き締めて言った。

「そんなことで環は怒らないよ。怒るとしたらーー」
「……怒るとしたら？」

　そのとき、交番から車が戻ってきたのに気づき慌てて錬から離れる。

「ごめん！　じゃあ、いってくるね」
「……ああ」

　ユリが車に乗り込んで去っていくのを見送った後、錬が呟く。

「怒るとしたらーーナリタハルキのことだ、ユリ」


　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊


　署に着くと、三課の田中課長ではなく、しっかり者だと評判の後藤くんが出迎えてくれた。
「警視正にお手を煩わずらわせてしまい大変申し訳ありません！」と終始、平に、平に、の態度だった。
　それどころか私にも「木花刑事も申し訳ありません。非番のところを逮捕、ご協力ありがとうございました」と何度も言ってくれたので、なんだか逆に申し訳なくなった。
　休みだったのに、このために田中課長に緊急呼び出しを食らったらしい。元凶の田中課長は、バツが悪いのか顔すら出さなかった。
　普段から苦労してるんだろうな、後藤くん。
　そんなわけで諸々はスムーズに進み、五時前には報告など全てが終わった。
　よっしゃー、上川課長も帰っていないし、今のうちにこっそり帰っていこう。岡田くんにはさっき挨拶したしね。
　署を出たところで、錬と環くんに連絡をいれておこうと携帯を取り出すと、クラクションが鳴った。
　見ると、春輝だ！　さっきはまだ三課にいたのに。

「ユリ、帰るのか？　送るよ」

　送ってもらうわけにはいかない。これから行くのは自分の家ではない。
　それに、今日は事件のことがあったから話したけれどーー馴れ合うつもりはない。

「気持ちだけいただくわ。どうぞ気をつけて帰って」

　そう言ってさっさと歩き出す。
　すると春輝は車を止めて降りてくる。

「ユリ、待てよ」
「ここは駐禁。捕まるわよ」
「だったら車に乗ってくれ。少しだけでいい。話がしたいんだ」
「私は話すことなんてないわ。さよなら」
「ユリ。頼む」

　私の腕を掴んで更に続ける。

「三十分でいい。十五分でもいい。……頼む」

　懇願される表情に弱いのはーー私の悪いところだ。

「……わかった。十五分だけ」
「ありがとう」

　車の助手席に乗り込みシートベルトを締めると、春輝は無言で車を発進させた。