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三日目(その十)
しおりを挟む(あー、はは……なんだ。佐々木巡査はなにも知らなかったのね、私たちのこと。それにしても……なんなの? ベストカップルって)
ため息をつくと春輝が笑う。
「ははっ、おもしろいな。俺たちのこと、なにも知らないであんなこと言って。今ごろ岡田くん、だっけ? 彼に説明を聞いてびっくりしてるんじゃないか?」
「まあ、そうね」
しばらく沈黙が流れる。
「……ユリ、元気だったか?」
「別に元気よ、私は」
「……そうか。それで? 後ろの彼は?」
えっ? 後ろの彼?
見ると、錬がいつの間にかすぐ後ろに来ていた。
あー、忘れてた。えーと、えーと……なんて説明しよう? あたふたしていると錬が言う。
「ユリ、この人がナリタハルキ?」
まてまてまてーっ! い、いきなり呼び捨て⁉︎
「成田春輝さん、でしょ? き、昨日電話で、名前が出たからね! ……あー、春輝、いえ、成田警視正、こちらはえーと……そう! 親戚の子で、錬と言います」
「「親戚の子?」」
錬と春輝が同時に言う。
「あー、はは。そうなの。たまたま預かっていて……」
「「へえ、そうなんだ」」
またまた錬と春輝が同時に言う。
「初めまして、ナリタ警視正。ユリがいつもお世話になってます」
「……あー、ユリさん、でしょ? 錬」
錬は少し間をおいて、にっこりと微笑んで私に言った。
「ユリ、さん♡」
「ひあっ」
錬の右手が腰に回される。
回された手を必死にほどきながらチラッと春輝のほうを見たが、気にしていない様子で安心した。
* * * * * *
「ユリさん、この後どうするの?」
「あー、えっと、とりあえず身柄は引き渡したし、状況も伝えたけど……」
春輝がーー成田警視正が来た以上、私も署に同行しないといけないな。どちらにしても報告もいろいろあるし。
そこへ岡田くんと佐々木巡査が戻ってくる。
心なしか、佐々木巡査がシュンとしているのが見て取れる。
「ユリさん、俺と警視正で犯人の身柄は署に移しますから、ユリさんはこれで帰ってください」
「えっ、いや、そんなわけにはいかないよ。私も署まで行くから」
「いや、いいですよ。後は僕がやりますから。大丈夫です」
岡田くんは戻ってくるなりそう言うと、私を帰そうとしてくれる。
きっと……私と春輝とのこと、気にかけてくれているのね。
後輩に、こんな気遣いをさせてはいけない。
「岡田くん、ありがとう。でも私、大丈夫よ。署まで行くからね」
「ーーそうですか……わかりました! じゃあ、このまま一緒に交番まで行きましょう」
「うん。錬、そうしたらここで……」
そう言いかけたのを春輝が止めた。
「ユリはここで待っていたらいい」
「えっ?」
「俺と岡田くんで交番に行って、その後ここへ戻ってくる。かかっても十分くらいだろう。その間、ここで待ってればいいさ。岡田くん、佐々木巡査もそれでいいか?」
「「はいっ、もちろんです」」
岡田くんと佐々木巡査が答える。
春輝と岡田くんはすぐに車に乗り込むと出発し、佐々木巡査は私に敬礼をし、自転車で交番へと向かっていった。
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