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三日目(その八)
しおりを挟むそ、そうだっけ? それは……まずいな。うん、非常に……まずい。
「あーはは、そうでしたっけ。そうですかー。あの、では、私はこれで失礼します……」
帰ろうとすると、佐々木巡査に止められる。
「えっ⁉︎ いやいや。いていただかないと困りますよ、木花刑事!」
いやー、帰りたい。今すぐに帰りたい。
やばいよ。引ったくりの担当は捜査三課だけど、私の名前が出たら一課に連絡するよね?
でも、課長は視察も終わったことだし、たぶん休みを取っているだろうから……いないかな? 大丈夫、かな。
そういえばあれから連絡もないし。
今日は土曜日だから岡田くん、セイさん辺りがいるのだろうか。
だったらありがたいけど、でもどちらにしても休み明けに怒られるのよね。
んー、んー、怒られる情景が浮かぶ……
『お前はなんでいつも問題を起こすんだ!』とか『余計なことに首を突っ込むんじゃない!』って。
でも今回は犯人逮捕となったわけだし、そんなに怒られないとは思うけど……
そうだよ! しかも、課長直伝の技で逮捕できたんだよ?
あー、でも、三課の田中課長とは仲が良くないんだよなあ。
うー、どうしよう。
* * * * * *
すると、佐々木巡査に無線が入った。
「木花刑事、いてくださいよ? 帰っちゃダメですよ?」
そう念を押されるのでウンウンと頷くと、彼は安心して無線でやりとりを始めた。
(うー、でもまいったなあ。どうしよう)
何か逃げる手立てはないかと考えを巡らせていると、錬がこちらに歩いてくるのが見えた。
(いけないっ! すっかり忘れてた、錬のこと。はっ、……しかもさっき、思いっきり突き飛ばしたよね? 怒ってるよな、うん。怒ってるよ、あの顔は)
目の前まで錬が来ると、さっきの愛おしさなんやらはすっかり忘れ、とりあえず謝ることにした。
「錬、ごめ……⁉︎」
すると、謝る間もなく、強く抱き締められた。
(えっと、これ、えーと)
「……錬?」
声をかけると、抱きしめる力が更に強くなる。
「錬……く、苦しい」
「はあ……頼むから。ユリ……頼むから、あんな無茶なマネ、もう、しないでくれ」
しないでくれ、なんて。錬なら、するなって言いそうなのに。
やだ……なんかちょっと、泣きそうだ。
「……ごめんね、心配かけて」
「アンタは……ユリは、ちゃんと刑事だったんだな」
錬は私から離れると、一瞬悲しそうな顔をして、持っていた上着をそっとかけてくれた。
「木花刑事。署から二名の方が、もうすぐこちらに到着するとのことです」
まだなにか言いたげだった錬を、戻ってきた佐々木巡査の言葉が止める。
いけない、私も、しっかりしなくては。
「二名? 三課から来るのよね? 誰が来るとか言ってました?」
「はい、それがですね……」
するとそのとき、一台の車が近くに止まった。
「あっ、ちょうど到着されましたね」
車の運転席から出てきたのは、あれ? 岡田くん? なんで三課の人間じゃないの?
「岡田くん……」
彼の元へ行こうとすると、またも思いもよらない人物が助手席から降りてきた。
それはーー春輝だった。
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