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三日目(その七)
しおりを挟む「キャッ!」
反動で体が飛ばされ、どこかにぶつかる。
「いたたた」
「ユリ、このバカ! なにしてんだ!」
すぐに駆け寄ってきた錬に抱き起こされる。
どうやらどこかのお店の陳列棚にぶつかったようだ。棚から落ちた商品があちこちに散らばっている。
男はどこ? 辺りを見回すと、男の乗っていた自転車が通りに植えられた木にぶつかり止まっている。
肝心の男はーーいた! 少し離れた通りの真ん中に倒れている。
「商品をごめんなさいっ!」
「あっ、こら、ユリ、待て」
散らばった商品を拾いあげながら、呼び止める錬の声を無視して走り出す。
男に近づいていくと、ヨロヨロとよろけながらも逃げようとしている。
「待ちなさい!」
男は私の姿を目にすると立ち止まり、そして、怒り狂った表情を見せるとこちらに向かってくる。
「ユリっ!」
錬の声が聞こえる。
その間にも、男は叫びながら近づき掴みかかってきた。
「このチビ! よくも邪魔しやがってー!」
怒り狂った人間は、感情に身を任せるため冷静さを欠く。そこに、体の小さい私にもーー付け入る隙ができる!
まずは、男の突き出された両手を冷静にかわす。
次に、シャツの襟元を持つ。
そして、そのままの勢いで自分の体を後方へと傾ける。
最後に、右足で男の下腹部を大きく後ろへ蹴り上げる!
「ドサッ」
ーー投げられた男の体は宙を舞うと、すぐに地面へと叩きつけられた。
「っしゃ!」
思わず拳を作り、肘を引いて小さくガッツポーズ!
そして一瞬目を閉じると、上川課長のことを思い浮かべる。
(課長、あなたの指導のおかげです。今回もちゃんとできましたよ。ありがとうございます)
「錬、いる?」
「……」
「あれ? 錬?」
「あ、ああ。いるよ」
「110番通報してくれる? 私の名前出していいから。お願い」
「わかった」
倒れている男をうつ伏せにし、後ろ手を取ると「ふー」とため息をついた。
* * * * * *
しばらくすると、近くの交番から警察官が駆けつけてきた。
身分を名乗ると話はスムーズに進み、とりあえず犯人の身柄を引き渡す。
管轄の警察署からも、じきに誰か来るだろう。そうしたらお役御免だ。
「いやー、ラッキーでした。まさか木花刑事にお会いできるとは」
「へっ、いやいや、とんでもないです」
「いやいや、とんでもなくないですよ。桜南署の木花刑事といえば、有名ですからね」
その警察官は佐々木巡査といった。
まだ若く、警察学校を出て間もないだろうに、よく私のことなど知っているな。管轄も違うのに。
良くない噂を聞いているのかもしれない。
「えっと、この辺りは柳西署の管轄になるのよね」
柳西署の下平捜査一課課長は、確か上川課長と同期だったはずだ。以前に何度かお会いしたことがあるが、気さくで優しい方だ。お元気だろうか。
「えっ、違いますよ。ここは桜南署の管轄ですよ?」
「えっ!!」
「場所は柳西署のほうが近いですが、管轄はずっと桜南署のままです」
佐々木巡査のその言葉に、しばらく私は呆然とした。
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